第24話 嬉しい

 

 ―――次の日


「………うん?」

 目が覚めたら知らない場所だった。

「ここは…」

 周りを確かめると、広い部屋でいくつもベッドが置いてあった。

 ここは病院かな…?と見回していると、隣に…


「う…う…うぅ……」

 隣に苦しそうに唸っているエミリアの姿があった。


「ちょ、エミリア…大丈夫!?」

 明らかに気分悪そうで、うなされているように見える。

 と、そこに入ってきた人影が居た。


「レイくーーーーん!!!!」「ぶほっ……!」

 誰かと思ったら姉さんだった。姉さんはそのまま抱き着いてきて胸に押し潰される。

「もうー!本当に心配したんですから!回復魔法使ったのになかなか起きないんだもん!」

「(いや、死ぬ!今窒息死するから!)」

 するともう一人小さな人影が入ってきた。


「れ、レイさま…もう大丈夫なのですか!?」

 レベッカだった。いや、そんなに大丈夫じゃない。

「た、助けてレベッカ…!」

 胸に押し潰されて死ぬとか嫌だ……いや、むしろ良いのだろうか。



「そっか、あの後何とか避難出来たんだね」

 僕は姉さんとレベッカに自分が倒れた後の状況を聞いた。

「はい、あの後冒険者ギルドの救援者の方が来られまして、集落の方々も無事に保護されたのです」

 良かった…自分は倒れたけど、ちゃんと救えたんだね…。


「いや、ごめん……。

 自分が真っ先に行くとか言っておいて一番最初に倒れちゃうとか本当に情けない」


「何を言うのですか!

 レイさまが即座に救援を駆け付けたからこその結果なのですよ!」


「そうそう、お姉ちゃん、レイくんが凄く頑張ってボロボロになってたの知ってるんですから」

 そう言って二人は僕の頭を偉い偉い言いながら撫でてくれる。かなり年下のレベッカにまでされるのはどうなんだろう、全く嫌じゃない自分が情けない。


「うぅ~……うぅー……」


「「「……」」」


「………ところで、エミリアに何があったの?」

「反応が遅いですよっ!…………うっ、気持ち悪い……」


 元気じゃん……。


 ◆


「なるほど、集落が全部凍結したと……」

 いや、そんなこと言われても信じられないというか……。

「ですが、本当なのです。エミリアさまが事態の収束の為にそれしかなかったと」

「私もその光景見てびっくりしました。

 結界から離れてエミリアさんの様子を見に行くとぐったり倒れてましたし」

 姉さん達が言うのであれば本当なのだろう。しかし魔法の規模が大きすぎる。


 コンコン、と壁を叩く音が聞こえる。

 入り口の方を見ると、眼鏡を掛けた女性の人、ミライさんが居た。

「そろそろ良いですか?

 レイさん、ベルフラウさん、レベッカさん、ギルドの方に来てもらえますか?」

「「「???」」」


 僕たちは言われるがまま、ミライさんに付いていく。

 ちなみに寝かされていたので鎧などの装備は全部脱いでいる。

 エミリアはまだ体調悪そうなので置いてきた。はっきり言って付いて来れそうにない。



「レイさん、体調の方は大丈夫ですか?」

「? はい、大丈夫です」

 姉さんに怪我を治してもらったらしく、今では完全に回復している。


「そうですか、丸一日寝ていたので少し心配してましたよー」

 丸一日!?


「えっ!?僕そんなに寝てたの?」

「はい」

「そうですよぉ、レイくんレイくんって私が枕にして呼び掛けても全然起きないし!」

「レベッカがその――――な、ことをしても全然起きませんでした」

 え、ちょっと待って、姉さんはともかくレベッカは僕に何したの…?


「ぽっ……」

 顔赤らめないで!


「ええーっと、そのお二人の秘め事は置いときまして」

 ミライさん、そこ置いとくと僕がヤバイことになりそうなんです。


「今回の件で改めてお礼を言いたいという代表の方が待っております、どうぞ」


「あ、良かった!みなさん無事で!」

 あれ、この人って確か……。

「あの時、集落が危ないって伝えてくれた人ですか?」

「そうです!いやぁ、貴方が意識戻らないと聞いて本当にドキドキでしたよ」

 そっかみんなだけじゃなくてこの人にも心配して貰えたのか。

「あなた方は命の恩人ですからね!

 村は暫く立ち入れなくなりましたが全員避難出来ました。本当にありがとう!」

「い、いえ…それほどでも…」

「ふふふ、レイくんったら照れちゃって」

「レイさま可愛らしいです…」


 その後、集落の青年にお礼を言われてミライさんと僕たちだけになった。


「それでですね、今回の依頼では冒険者ギルドの方から報奨金が出ています」

「報奨金?」

「はい、レイさん、ベルフラウさん、レベッカさん、エミリアさんに金貨10枚ずつです」

 金貨10枚!?本当に!?

「そ、そんなに頂いてもよろしいのでしょうか…?」

 僕とレベッカは持ち合わせが少ない分喰い付きが強い。

「はい、私としましては命を懸けた割には少ないくらいだと思いますけどね」

 それをミライさんが言ってしまっていいのだろうか…。

「今はエミリアさんがまだ不調のようなので、レイさん達だけでも受け取ってくださいね」


 ◆


 予想外の収入を得た僕たちはひとまずエミリアが休んでいる医務室に戻った。

 別件としてババラさんの依頼は既にベルフラウ姉さんが依頼を終わらせていたようだ。


「……報奨金ですか」

「うん、それに集落の人にも感謝されたよ」

「これもエミリアさんが大活躍したおかげね、ふふふ」

 相変わらずグロッキー状態なエミリアに今回の事を話した。

「ま、まぁ…当然と言いたいのですが、今は気持ち悪くてあんまり嬉しくないです…」

「重傷だね…」

 大分参っているらしい。ちなみに今エミリアはうつ伏せで寝ている。

「レイ、ちょっと頼みがあるのですが……うぇ」

「頼みって?」

 最後吐きそうになってたよ。そんなエミリア見たくないんだけど。


「ババラさんに頼んで、魔力回復アイテムを5個作ってきて貰えないでしょうか…?」

「魔力回復アイテム?ってそれって以前調合で作れるって言ってた…」

「はい…今のこの状態は極端な魔力不足による体調不良なので…それを飲めば…」


 なるほど、そういうことか。


「分かった、今から行ってくるよ」

「頼みます……うぅ……」

 また吐きそうになってたので、現場を目撃しないようにさっさと医務室を出た。


「そうだ、防具の修理を頼まないと」

 盾も鎧もかなり変形していたはずだ。あのままだとまた装備するのも出来ない。

 ババラさんの魔道具屋の近くの武具屋に修理してもらうために装備も持っていくことにした。

「あ、レイくん、私もいくね」

「うん、一緒に行こう」

 レベッカは気分の悪いエミリアのお世話をするらしい。


「それにしても、エミリア凄いよね。集落一帯を凍結させるって」

 あの集落ははっきり言ってあまり広くない場所だが、それでも一帯となれば桁が違う。

「そうですねぇ、上級魔法でもあの規模は無理だと思いますよぉ」


 思わず足を止める。

 上級魔法ってエミリアだって使えないし、それ以上の威力?


「上級魔法でも?」

「はい、あの規模ならそれこそ神の奇跡…言い換えるなら天災とかに近いかな」

 そんなことエミリアはどうやってやったんだろう。

「多分、あの魔導書だと思うんですけどね、

 普段のエミリアさんの魔力では何倍あっても不可能でしょうし」


「……女神だったころの姉さんなら出来たの?」

 姉さんも元女神だ。未熟とは言っているけど僕が知る限り空間転移とか死者蘇生も出来た。

「んー、出来ないことは無いでしょうけどね。

 私たち女神は、摂理……主神さまの命令がないかぎりやってはいけないんです」

 もし破ったら怖い目に合っちゃいます。と可愛らしく言った。

「そんなわけで、出来る出来ないで言えば『出来ない』ということになりますね」


「あ、レイくん、ここだよね?」

 気が付けば、武具店の前まで来ていた。

「姉さん、すぐに終わるから待ってて」

「うん」

 僕は店内に入っていた。

「すみません、この防具を修理したいんですけど…」

「おう、以前来た坊主だな。貸してみな」

 話が早い、店主さんに持ってきた防具を見てもらった。


「……なるほどなぁ、盾の方は使い方を誤ったな」

「え、それってどういう……」

「これはな、あくまで敵の攻撃を逸らして、回避するためのもんだ。

 そこらに置いてあるデカい盾ならともかく、お前さんが買ったこれは攻撃をまともに受けて耐えられるような代物じゃねえんだよ」


 言われてみると…確かこの盾は女の子を庇うために腕を出してまともに攻撃を受けた。

 その結果、左腕が折れてしまい、盾も大きく凹んでしまった。


「盾も鎧も十分直せるからそこは安心しときな。

 それと、お前さんの今使ってる武器を見せてくれないか?」

「え?…はい?」

 言われたままに僕は鞘から剣を抜いて渡す。

「…細かい傷がかなりあるな、かなりの年代物だ。最近の傷もあるがな」

 この剣は僕が使う以前から湖の村にあったものだ。それをアドレ―さんから貰った。

「……ちょっと待ってな」

 そういって店主さんは店の中を歩いていき、一本の剣を掴んだ。

「これを持っていきな」

 店主さんに渡された剣は何処かで見た覚えが…思い出した。

「これ、確か金貨10枚もするっていう魔法の剣じゃないですか!

 無理ですよ、とても買えません!」

「買えとは言ってねえ、やるって言ってるんだ」

「え…でもこんな高いもの……」


 店主はちょっと照れくさそうに言った。


「聞いてるぜ。お前近くの集落をゴブリンから守ったんだろ?」

「知っていたんですか?」


「ああ、俺の家内から聞いた。

 ……家族3人で中年の女と幼い男の子と女の子だ。覚えてないか……」


「家族3人、それって」

 僕が見つけて、守ろうとした――――――


「俺の家族だ。命を懸けて守ってくれた恩人だとよ。

 そんな奴にいくら自慢の剣だからって金なんて取れねぇよ、だから持ってけ」

「あ……ありがとうございます」

「けっ……でも防具の修理費は払ってもらうからな。

 勿論、今後ここで買った時も正規の値段で買ってもらう。分かったな?」

「はい!」



 僕はお店を出た。

「姉さん、お待たせ」

「ん、大丈夫ですよー」

 僕と姉さんはババラさんの魔道具屋を目指して商業区を歩く。


「良いことあった?」と姉さんに聞かれた。

「あ、もしかしてこの剣のこと?」

 ううん、と姉さんは言う。

「レイくん、すごく嬉しそうな顔してた」

 ……姉さんには分かるんだね。

「…うん」

「ふふふ、女神だけどお姉ちゃんですからねー」


 ◆


「すみませーん」

 僕と姉さんはババラさんの魔道具屋に来た。

「イーヒッヒッヒ、おや? うちの依頼を引き受けてくれてる子じゃないかぁ」

「ババラさん、すみませんが魔力を回復するアイテムを5個作ってくれませんか?」

「んん?出来ないことないが…なんかあったのかぃ?」


 僕たちは今回のいきさつを説明した。


「なるほど、あの常連のお嬢ちゃんかい…」

「はい、何の魔法を使ったのか分かりませんが、魔力が枯渇してるらしいです」

「お婆ちゃん、何かそういう魔法に心当たりない?」

 お姉ちゃんの質問だ。ババラさんはふむぅと言いながら煙草のようなものを咥える。

「おそらくだけどねぇ、魔力枯渇ギリギリで何かの力を借りて魔法を撃ったんだろうね」

 何かの力?姉さんも言ってたな。あの魔導書の力じゃないかって。

「そういう限界を超えて使える、……例えば魔導書とかあるんですか?」

「無いとは言えないねぇ。特殊な魔道具だとそういうものもいくつかある。

 まぁ魔法使いには切り札や奥の手を常に隠し持ってるもんさ」

 ババラさんにもあったりするのかな。

「さあてねぇ…ともかく、薬に関しては任せておくがいいさぁ」


 そういってババラさんは店の奥へ行く。

 おそらく薬を作ってくれているのだろう。


「「ただいまー」」

 僕たちはあれから数時間待ってからババラさんに薬を貰い戻ってきた。

「おかえりなさいませ、レイさま、ベルフラウさま」

「あ゛ー……」

 何かグロッキー度合い上がってない?


「エミリア、霊薬貰って来たよ」

 エミリアの目の前に薬を差し出す。これは魔法の霊薬という飲み物らしい。

 体内の魔力をある程度回復させるもので、急場の補給にも使えるものだ。

「……飲ませてください」

「え」

「飲ませて」

「………」

 コップに移し替えて、エミリアにストロー咥えさせて飲ませた。

 3つほど飲み干したところでようやく調子が戻ってきたようだ。


「お世話になりました」

「もう大丈夫なの?」

 以前よりは確かに顔色が良くなっている。


「まだ全快では無いですが、さっきみたいに立ち上がる気力が無いってことはないですから」

「あ、それとババラさんから」

「ん?何ですか?」

「薬代はツケておくって…」

「あー、まぁ仕方ないですね、ちょっと報奨金取ってきます」

 そのまま若干足取りはふら付いていたが、エミリアは医務室から出ていった。


 ◆


 ――その日の夜


「姉さん、こんな遅くにごめんね」

「ううん、レイくんが勉強熱心だからつい時間を忘れちゃった」

 僕は姉さんの部屋で魔法の本を読み聞かせてもらっていた。

 僕はこの世界の文字は頭の中で日本語で機械的に翻訳されて読めているだけだ。

 そのため、少し難しい本になると翻訳が上手く働かなくなる。

 なので本を読むときは大体姉さんに教わっている。


 今回読んでもらっているのは『魔法の使い方(中級編)』という本。


 これは、初歩魔法以上の魔法を使えるようになった魔法訓練生に配布される教科書らしい。

 基本的な事ばかり書かれているようだが、興味深いものがあった。


『魔法は無手、又は杖やステッキなど魔力を通しやすい補助具を使って使用する』

 エミリアは普段ステッキを使用して魔法を使っている。

 今の所僕は素手から魔法を使っていたのだが、今回の戦いで弱点が露呈してしまった。

(左手が使えない状態になると、剣を捨てないと魔法が使えなかった)

 そのせいで折れた左腕で無理矢理魔法を使って状態が悪化してしまったり、いちいち剣を手放さないといけなくなり敵に大きな隙を晒してしまった。


 剣を魔法を通す補助具として使用できたならこの弱点を克服できるはずだ。

 それ以外にも剣と魔法を同時使用などが可能なら戦いを有利に出来るだろう。


「補助具には魔力を通しやすくするために、棒状の形と魔力の籠った宝石が付いてるみたい」

 今回、武具屋の店主さんに貰った剣は魔法で切れ味をよくしてあるらしい。

 つまり魔力が籠っている。もしかしたら、補助具としても使えるかもしれない。


 大切な人達とこの世界で精一杯生きる。

 それを叶えるためにもっと強くならないといけない。


「いつまでも足手まといでいたくないから……」




<レイは大きな成長を遂げた>

<レイはLv14に上がった>

<剣の心得Lv6を獲得>

<盾の心得Lv2を獲得>

<守りの心得Lv3を獲得>

<心眼Lv3を獲得>

<初級攻撃魔法Lv4を獲得>

<技能 不屈の心を獲得>



 New (SR)マジックソード

 New (R)魔法の霊薬 2個

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