第23話 対ゴブリン
――三日後
僕たちはゼロタウンから南に離れた集落に来ていた。
「姉さん、そいつを捕まえて!」
「分かったわ!ちょーっときつく捕まえるからね!」
姉さんは僕が指示した敵、ゴブリンの真下の草を植物操作で急成長させて敵を捕縛する。
「くらえっ!」
すかさずそのまま僕はゴブリンを剣で切り裂く。
「レイさま! あちらの幼子にゴブリンが!」
「!?」
僕は勢いのままに今まさに女の子と襲い掛かろうとするゴブリンに駆け寄る。
それを見越したように、レベッカは僕に「<付与・速度上昇Lv5>」の魔法を付与する。
「うおおお!!」とダッシュで駆け寄り、
何とか今まさに剣を振りかぶろうとするゴブリンと女の子に割って入る!
ガキンッ!!
女の子に当たる前にゴブリンの剣を盾でガードした僕は、左手の痛みと痺れを感じながらもそのまま左手の盾でゴブリンを殴りつける。転倒したゴブリンに対して僕は右手で魔法を使用する。
「
放たれた火の玉はゴブリンに着弾し、敵の息の根を止める。
「うわぁあああん……こわいよおおー」
大声で泣く女の子を優しくなでて、「もう大丈夫だよ」と声を掛ける。
「姉さん!村の人を一か所に集めて避難させよう!」
「そうね、分かったわ」
「村の皆さん、ここは私たちがなんとかします!動ける人は今のうちに逃げてください!」
そう大声で叫びながら、エミリアは前方のゴブリン相手に魔法を発動する。
「
空から稲妻降り注ぐ雷の魔法だ。複数のゴブリンはまともに受けてしまい倒れた。
息を切らしながら僕は考える。
早く、みんなを避難させないと――
今、この集落はゴブリン達の襲撃下にある――
◆
今から数十分前に遡る。
僕たち4人はババラさんの依頼で採取依頼を終えて帰る最中だった。
「今日は随分早く終わったね」
以前はレベッカと二人だけで採取に行ったのだが今回は早かった。
「私は普段採取慣れしてますからね、ベルフラウさんが薬草に詳しいのは意外でしたが」
「うふふ、私は普段から植物の扱いには人より慣れているの」
この二人がいたために目的の素材の場所が直ぐに判明し、スムーズに終わったのだ。
「レベッカとしましては、もう少しのんびりとでも良かったのですが…」
と言いながら頬を赤らめてこちらに目配せしてくる。どういう意味でやってるの…。
時間が掛からなかったので、本来は昼を回るかと思った依頼は午前中で終わった。
「それじゃあ、帰ったらまた依頼受けに行く?」
「一度帰ってから依頼となると結構帰りが遅くなりますねぇ」
と、そこで男の人の大きな声が掛かる。
「おーい、そこの! 君たちは冒険者か!?」
若い男性の人だ。
「はい、そうですがー」と僕は返事を返す。
すると男性はこちらまで駆け寄ってきて、息を整えて話す。
「はぁはぁ……良かった、冒険者の人を探していたんだ……」
随分走ってきたようだ、何かあったんだろうか。
「ここから……少し南に行ったところに……」
はぁはぁ…と息を整えながら男性を指を差して方向を示す。
「はぁ……集落があるんだけど……」
「大丈夫ですか? 水があるんだけど、飲みますか?」
姉さんはそう言って鞄から水筒を取り出し、男性に渡す…。
「ごくごく……すいません、助かりました」と言いつつ水筒を姉さんに手渡す。
そして言葉を続ける。
「―――その集落で、人がゴブリン達に襲われている……」
「「「「!?」」」」
「今、それをゼロタウンの冒険者ギルドに伝えに行こうとしてたんだが、
それじゃあ間に合わない、アンタたち、今から救援に向かってくれないか!?」
それを聞いた僕は―――――――
「―――分かりました、すぐに向かいます!」
「本当か!?助かる…ゴブリンの数は多分20体以上いると思う!」
20体…確か、新人の手に負える数は10体程度とミライさんが言っていた。
「……その数だと私たちの手に負えない可能性がありますね」
エミリアも同じことを思っていたようだ。
「…申し訳ないのですが、貴方はこのままゼロタウンに行って事を伝えてもらえますか?
私たちだけでは対処しきれない可能性があるので、増援を出してほしいと伝えてください」
「わ、分かった…すまない、必ず人を呼んでくるから……頼んだ!」
ゼロタウンの方へ男性が向かうのを見送ってから僕たちは集落の方角へ走る。
現場に向かいながら僕たちは言葉を交わす。
「ご、ごめん、相談もせずに勝手に決めてしまって…」
本来、これほど高難易度であれば相談抜きで決めてしまっていいものではない。
僕の独断でみんなの命を危ない目に遭わせてしまうかもしれない。
「いいのよ、レイくん」と併走してる姉さんは優しく微笑む。
「そうですよ、レイさま。困ってる人を見過ごすわけにはまいりませんから」
と姉さんとレベッカは言ってくれる、が…。
「……今はそれを言ってる場合ではありません、早く現場に向かいましょう」
「う、うん!」
そうだ、今は一刻も早く助けに行かないと―――
◆
―――そして、事態は今に至る
「ベルフラウさん、怪我をした村人たちを集めてここから離れてください!
レベッカさんとレイは周囲のゴブリンを警戒しつつ逃げ遅れてる村の人を見つけてください!」
「「「わかった!(わかりました!)」」」
「ごめんね、私はけが人を連れてここから一旦離脱します!」
姉さんは怪我した人を連れてこの場から離れていく。
「左腕が……」
さっきから痛みがどんどん酷くなっている。
だが、それに構う暇などない。
僕は集落の家や物陰にまだ人が残っていないか確認するために走り回る。
「くっ…、邪魔だ!」
途中で出会ったゴブリンの攻撃を剣で受け止め、そのまま体重で押し返す。
「魔法で……っ!」
左手で魔法を使おうとしたのだが、あまりの激痛に左手を動かすことが出来なかった。
そうしているうちに、押し返したゴブリンが立ち上がる。
僕は剣を地面に突き刺し、右手で魔法を発動させる。
「それなら、右手で……
敵は燃え上がり倒れ伏したことを確認し、剣を拾って再び走り回る。
「いた!大丈夫ですか!」
家族連れの母親一人と子供二人が家の物陰に隠れていた。
「あ、あんた…助けにきてくれたいのかい!?」
「はい、僕が誘導するのでいきましょう!」
そうして僕と家族3人は隠れながら集落の出口へ向かう。
そうして入り口の近くまで来たところで、二体のゴブリンと遭遇してしまう。
「(不味い…守りながら相手に出来る数じゃない…!)」
そう思いながらも、逃げるわけにはいかない。後ろには守るべき人たちがいる!
「3人とも…少し下がっててください」
「は、はい…アンタたち、邪魔にならないように下がるよ…」
「う、うん…」
「兄ちゃん、頑張れ!」
二体のゴブリンが襲い掛かってくる。
「…………っっ! あ、
激痛でまともに動かせない左手で強引に魔法を発動させる。
回り込もうとしていたゴブリンの下半身から下を凍りつかせ動きを止める。
(くっ…痛みで完全に凍らせることが出来なかった…!)
とはいえ、以前のように自分の腕ごと凍らせるよりはよほどマシだ。
そんなことを考えて居る場合ではない。
「くっ!」
反射的に、襲い掛かってきたゴブリンの攻撃を何とか剣で防ぐが――
「あ、足が…」
先ほどより力が入っていない、ここまで全力で何度も走り回ったせいで疲労しきっている。
「くそっ、左手が使えれば……!」
両手を使えずに右手も感覚も少しずつ鈍くなっている。
撤退は――――
「…………出来るわけないだろ」
震える手で剣を握りしめる。
(せめて、せめて、逃げさせなければ)
僕は後ろに向けて声を掛ける
「逃げてくだ……っ!」
しかし、ゴブリンの攻撃により声が途絶えてしまう。
襲い掛かってくるゴブリンの攻撃を再び剣で防ごうと踏ん張るのだが――
キーーーーーーーン
持っていた剣を弾かれ、下に落としてしまう。
「し、しまっ……」
そのまま、胸に石斧の強打を受けてしまう。
「―――――」
(い、息が……)
息がまともに出来なくなり、僕は胸を押さえそのままその場に膝を崩してしまう。
(死ぬのか……僕は…)
そして、ゴブリンは僕の頭に石斧を振りかぶろうと――――
その瞬間、僕とゴブリンの間に大盾が出現した。
「GAAA?」
ゴブリンは突然目の前に現れた大盾に驚いて腰から地面に倒れ込んでしまう。
◆
「…………っ?」
「レイさま!ご無事ですか!」
レベッカが助けに来てくれたのだ、レベッカはレイを体を支えてなんとか立ち上がらせる。
「ごめ…………助かっ………」
立ち上がりはしたものの、息も絶え絶えだ、剣を足元に転がっており持つ力も残っていない。
「レイさま……これほどボロボロになって……!」
レベッカは目の前のゴブリン二体をキッと睨み付ける。
「……!?」
レベッカに睨まれたゴブリン二人は萎縮したのかまともに身動きが取れない。
レベッカは状況を確認する。
目の前には五体満足なゴブリンと半身が凍って這い出ようとしているゴブリンの二体。
後ろには家族と思われる村の方々が3人……。
そして、レイさま。
盾は大きく凹んでおり、左肩から下の腕の様子もおかしい。おそらく骨折している。
そして右手、剣を持てないほど手先が震えてしまっている。
鎧の胸辺りの変形が見られる。おそらく目の前のゴブリンから一撃を浴びたのだろう。
胸を押さえているがおそらく骨まで達している。まともに呼吸が出来ていない。
「レイさまは、後ろの方々の為に自ら盾になったのですね…………!」
そして、ここを嗅ぎつけたのか更に三体のゴブリンが駆け寄ってきた。
もはや一刻の猶予もない。
こんなお優しい方をここまで傷つけるなんて……
「わたくしは、許しません………!!」
声と同時に目の前の盾が消失する。
同時にレベッカの周囲に魔力が膨れ上がり、周囲から砂や岩などが浮き上がる。
「下郎、お前たちはこの場で死ね!
重圧魔法、現時点でレベッカが使用できる最強の攻撃魔法。
巻き込まれたゴブリン五匹は体が重くなりまともに動くことが出来なくなる。
「消えろ!!!!」
声と同時に重力が数十倍になり、ゴブリン達は全身が砕けてしまい影だけ残った。
◆
歩けるようになったレイとそれを支えるレベッカは
後ろの3人を守りつつエミリアが立ち塞がる最終防衛線の村の入り口まで来ることが出来た。
「レベッカ! ……レイ!? その怪我は……!!」
「今レイさまはまともに動けないほど怪我を負っています!
わたくしたちはこのままベルフラウさまがいる場所まで撤退します!」
「で、では集落の人はどうなりました?」
「わたくしとレイさまで隅々まで探しましたが、この方たちが最後のようです!」
レベッカに支えられてるレイもその言葉に頷く。
集落の人の避難が終わってることにエミリアは安堵したが、
レイの表情と状態が芳しくないことに気付いたエミリアは言う。
「早くレイを連れていってあげてください!
貴方たちが安全な位置まで退避したら、私も撤退します!」
「ご武運を!」
何とかレイとレベッカと村人三人はベルフラウの元へたどり着く。
「ベルフラウさま!」
「早く入って!この結界の中に!」
見れば周囲には円陣が組まれており、そこには光の柱が立ち上っていた。
考える暇などない、レイを抱えてレベッカと村人は光りの柱の内側に飛び込む。
「レイくん!」
すぐさまベルフラウはレイに膝枕をして魔法を掛ける。
既にレイは意識を失っている。とても初歩魔法では対応しきれない。
「怪我もそうだけど体の疲労が酷いわ。
「お、お願いします」
ベルフラウが何の魔法を使用しているのかは分からないが、今は頼るしかない。
「集落の方々はこれで全員で合ってるでしょうか?」
「大丈夫!彼女らが最後だよ、無事全員避難出来て良かった」
同じく結界に避難していた集落の人達の答えに、レベッカは安堵した。
「エミリアさま、早く非難をしてくださいまし……!」
◆
その時、エミリアは――
レイ達が結界の向こうに行ったことに安堵し、再び前に向き直る。
(ベルフラウさんが防御結界を習得していることに驚きましたが……)
あの光の柱は結界魔法の一つ<防御結界>だ。
光の柱に守られる内側には並のモンスターでは入ることは出来ないはず。
「さぁ、来なさい、ゴミ共。この場は一歩たりとも通しませんよ」
エミリアの目線の先には、今だに二十数体のゴブリンがいる。
これほどのゴブリンが何処から出てきたというのだろう。既に倒した数は40は超えている。
と、そこでエミリアは異様な光景を見た。
村の奥の倉庫なのだろうが、その周辺の空間が僅かに歪んでいる。
そこから、新たなゴブリンが出現したのだ。
「まさか、何者かがゴブリンを召喚している……!?」
私の魔力はもう尽きかけている。
(無尽蔵に現れるモンスター相手にどうすれば…………!)
「……いや、手はあった!」
と、エミリアは自身の切り札を使えば一つだけ手段があることに気付いた。
覚悟を決めたエミリアは一つの選択をする。
私の所持する『鼓動する魔導書』には一つの切り札が存在する。
一度だけ、補助結界以上の強化、そして自身の限界を超えた魔法を使うことが出来る。
ただし、それを使うと魔力を全消費してしまい、しばらく魔導書が使えなくなる。
――しかし
「もう、魔力はどのみち限界近くなってるから関係ありませんよね……!」
エミリアは、『鼓動する魔導書』の能力を使用する。
「行きますよ、魔導書―――制限を解除します」
魔導書からエミリアの総量を優に上回る魔力がエミリアに送られる。
「ぜ、全力開放は流石に厳しいですね……」
自身を超える魔力にエミリアの体が悲鳴を上げる。
「ですが、私を侮ってはいけませんよ――――――!!!!」
この場のゴブリンをすべて倒してもおそらく無尽蔵に沸いてくる。
私が今使える魔法ではあの空間の歪みを直すような手段は持っていない。
しかしこの魔導書には力技で封じる魔法が載っている。
おそらく私では何十年掛けても習得できるか怪しいほどの魔法。
それをたった一度だけ、この魔導書の力を以って発動させる。
「
エミリアの限界を遥かに超えた魔法が集落すべてを覆う、極寒の吹雪が降り注ぐ。
その後、村は歪んだ空間ごと凍りつき、ゴブリン達の進行は完全に食い止められた―――
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