第22話 採取のお仕事

 

 ――二日後

 前日は鎧に慣れるために少し街を散策するだけで時間が過ぎてしまった。

 次の日はお金が無かったので今日は4人でギルドへ行こうと仲間を誘ったのだが―


「すいません、昨日買った素材でアイテムの調合に没頭したくて――」

「お姉ちゃん今日は魔法のお勉強がしたくて一緒に行けないの。ごめんね…レイくん」

 と言われ、今回は僕とレベッカの二人で依頼を探しに来た。


「二人かぁ…ちょっと不安なんだけど…」

「そうでございますね…なるべく争いごとの起こらないような簡単な依頼を探しましょう」

 二人で相談しながら僕たちは道中を歩く。

 その後、冒険者ギルドに来た僕たちは早速例の老婆の依頼の指名があった。

「レイさーん、貴方宛てに依頼が来ていますよー」

 入って受付に近づくと緑髪の眼鏡の女性、ミライさんに声を掛けられた。

「それって、もしかして」

「はい、魔道具店のババラさまからのご指名です」

 ババラさん…そんな名前だったんだ。

「えーっと、どれどれ……。

 胃薬の素材となるキノコと野草の調達、それと魔法の調合に使う魔法の草の根っこ」

 主に胃薬の材料じゃん、まぁそれはいいとして。


『報酬は大銀貨2枚、依頼期限は本日迄』


「今日中か…それに大銀貨二枚だと二人なら宿一泊分かな」

 食費とか含めるとむしろ赤字になりそうだけど、指名の依頼だからなぁ…。

「レイさま、とはいえ二人で出来ることはさほど多くはないのです。ここは受けるべきかと」

「だよね、そうしようか…」

 ミライさんに依頼を受理してもらい、僕たちはギルドを後にした。


 一応依頼書には簡易的な地図と採取物の特徴が書かれていたのだが、

 素人だとあまり判断出来なかったため、エミリアに詳しく教えに貰いに宿に戻った。


「なるほど、これなら私も分かります。

 もう少し詳細と採取できる穴場を書き足しますので待っててくださいね」

 と、僕たち二人はエミリアが書き終わるまで正座して待っていた。


「(…エミリアさまは随分とお薬にお詳しいのですね)」ごにょごにょ

「(お姉さんに教わって幼少から作るのが趣味になったらしいよ)」ごにょごにょ

 エミリアの邪魔をしないようにコソコソと話す。


 ……そういえば、あのうっかり告白してから何も言ってこないな…。

 エミリアに避けられるのではと心配してたけど、特に彼女は気にしてない様子だった。

(やっぱり子供と思われてる…?弟分みたいに思われてたしなぁ…)


「書けましたよ、こちらをどうぞ」

 エミリアの声に思考が中断される。言われるがままに紙を受け取る。


「私が欲しい素材も近くにあったので、それも書き足しておきました。

 もし見つけたら私に持ってきてくださいね。私が追加で二人に報酬を払いますよ」

「えっ、本当でございますか?」

「といってもそこまで多くは無いです。一日の食費分くらいは用意できますが」

 それだけもらえれば十分である。僕たちはエミリアの部屋を後にした。


 離れる前にお姉ちゃんに声を掛けて、おにぎりを二人分作って貰った。

「一緒に行けなくてごめんね、おにぎりを作っておいたからお腹が空いたら食べてね」

 お姉ちゃんというかお母さんというか、優しさを感じた。


 ◆


 そして僕たちは初めて二人で街の外へ出た。

 今日は天気も良さそうだ。途中で雨に降られることも無さそう。

「レイさま、お体には負担は掛かっていないでしょうか?」

 この着込んでいる鎧のことを心配しているのだろう。

「大丈夫、長期間付けてると筋肉痛になりそうだけど、疾風の靴があるから」

 鎧も盾も自分の身長体重から考えると大分キツイが、疾風の靴の魔法効果でいくらか緩和されている。


「最初金貨8枚と言われてぼったくりだと思ったんだけど…」


『ぼったくりなんてとんでもない!

 これはSR級スーパーレアの魔道具ですよ!

 場合によっては金貨10枚でも足りないことだってあるんです!』

 とエミリアに熱弁された。その後レア度の価値とか相場とか長々と説教された。


「足元見られたと思っていたけど、ババラさんなりの親切だったんだろうなぁ」

 相場金貨10枚以上のアイテムを金貨たった4枚で、

 更に言えば指名で仕事を回してくれると考えたらむしろ感謝しなければならないだろう。

 もしかしたら、僕が鎧を重そうに着ていたのを察してくれたのかもしれない。


「なるほど、ババラさまは見かけとは裏腹に優しいお方なのですね…」


 そうして道を歩いていくと目的の場所に着いた。

 ここまでの道のりは特に険しくなく舗装された道を歩いて1時間程度だった。


「ここに胃薬の材料があるみたい」

「わぁ……とても綺麗な場所でございますね……♪」

 周囲は草木もあるが野花が沢山生えており、近くには小川も流れている。

 川の水は太陽の反射でキラキラ輝いて、ピクニックするには丁度良さそうな場所だった。


(気候も温かくてとても気持ちいいなぁ)

 このままここで昼寝したいくらいだが、この後も別の場所を探索しなければいけない。

 気持ちを切り替えて取り掛かることにした。

「それじゃあ早速採取しよう」

「はい♪」

 その後、お互いしゃがんで依頼書にあった特徴と絵を照合しながら採取を続けた。

 レベッカはここが気に入ったのか、上機嫌だ。

「~~~♪」

 レベッカの鼻歌を唄いながら作業を行う。この世界にも音楽って文化はあるんだね。

(レベッカの声って小さいけど綺麗な声だなぁ)

 長く聞いているとついつい眠ってしまいそうだ。気を取り直して採取を続ける。


 ◆


 それから1時間半ほど過ぎた。

 目的のものが集まったので僕たちはお昼休憩として姉さんに作ってもらったおにぎりを食べていた。

 近くの小川の水はとても綺麗だったのでそのまま飲み水として使った。

(姉さんに貰った鞄に水筒が入っていてよかった)

「ベルフラウさまの作ったおにぎり、とても美味しいです……」

「うん、特に具も入っていないのに、塩加減がとても良い」

 こんな感じで二人でのほほんと過ごしていた。というか…。

(意識してなかったけどレベッカとかなりくっついているなぁ…)

 レジャーシートの上に僕が座って、その上にちょこんとレベッカの小さなお尻が乗っかっている。

 つい頭を撫でたり軽くじゃれ合ったりとしているが姉さんでもここまで引っ付くことは少ない。


「……♪」

 体にレベッカの熱と重さを感じる。とても心地よい。

 レベッカは撫でると気持ちよさそうで、僕も髪の感触が良くて頭を撫でてしまう。

(かわいい……仲の良い妹が出来たらこんな気分なんだろうか…)


 思わず抱きしめたくなったが流石に自重した。

 出来れば一日中じゃれていたかったが、仕事中だから仕方ない。

 僕たちは少し休憩を挟んでから二つ目の目的地の為に再び舗装された道を歩く。


 少し歩いて、地図を確認すると舗装された道から外れた場所に目的地があった。


「魔物が出るかもしれません、少し注意をして歩きましょう」


 そうして目的地を歩いていくが――


「げ、あれは一角獣か……」

 額に大きなツノをもった見た目少し大きなウサギ二体と遭遇した。

 厄介なことにこちらが発見したと同時にあちらも気付き、襲ってくる。


「レイさま、お気を付けください。片方はわたくしが担当いたします!」


「えっ!?」

 レベッカ後衛なのに大丈夫なの?と思ったが自分も戦いに集中しないといけない。

 一体は担当しなければ。


 鞘から剣を抜く。一匹のウサギは正面からこちらに突撃してくる。

 僕は軽く後ろに下がりながら突撃してきたウサギの角を腕のバックラーで横に受け流す。

「…よしっ!」

 多少衝撃はあったが、ダメージは無い。盾も鎧も十分な硬さだ。


 そのまま、僕は再度向かってくるウサギを指さして魔法を使用する。

<初級雷魔法>ライトニング!」

 この魔法は敵にダメージを与えると同時に相手を痺れさせ行動束縛スタンさせる。

 鉱山での戦い以降練習して全ての初級攻撃魔法は使用できるようになっていた。

 直撃した一角獣はビクンと痺れさせ少しの間まともに動けない。


「てやああぁ!」

 そのまま僕は鎧の重さで体当たりでぶつかり敵の動きを完全に止めた。


(やっぱり動物を斬るのは躊躇があるな…)

 剣を使うのは躊躇ったが、結局殺してしまっているのでやってることは同じだ…。



 さて、レベッカは大丈夫だろうか。


 ◆


 一角獣の一匹がレベッカに襲い掛かる。

 襲ってくる以上手加減をするわけにはいかない。


<筋力強化Lv5>力を与えよ

 レベッカは自身の筋力を強化する魔法を使用する。

『――来てください』

 更に、レベッカの声に呼応するように槍を召喚する。

 そしてもう一度

『盾よ――』

 今度はレベッカに見合わないような大きな盾が一角獣の目の前に立ち塞がる。

 突如現れた巨大な壁(盾)に一角獣は対応できず、そのまま無防備に突進してしまう。

 衝撃により一角獣のツノにヒビが入り、その痛みで痺れたのか怯み動きが止まってしまった。


 次の瞬間、目の前にあった盾が再び消失、と同時にレベッカが槍で一角獣を薙ぎ払う。

 薙ぎ払われた敵は出血しながらもそれでも敵意を失わずレベッカへ威嚇をするのだが…。


<礫岩投射>ストーンブラスト

 どこからか飛来した石つぶてがいくつも一角獣に襲い掛かる。

 まともに受けてしまった一角獣はレベッカの猛攻に耐えきれずに事切れてしまった。


「…っふぅ…レイさま、終わりました」



「(レベッカ滅茶苦茶つえええええ!!!!)」

 距離があるうちに自己強化、そしてそこから槍と盾を転移召喚

 盾で相手の視覚を奪うと同時に、敵の武器に致命的なダメージを与えて即反撃

 敵を吹き飛ばして追撃の魔法攻撃――はっきり言って隙が全く無かった。


「う、うん……お疲れ様、はは……」

 震える声でレベッカを労わるがその強さに唖然としていた。

(弓での射撃と強化魔法メインのサポーターだと思ってたけど、余裕で前衛出来てるし…!)

 これで自分より評価ランクもレベルも低いのだから恐ろしすぎる。


「…それでは参りましょうか、レイさま♪」

「う、うん……」

 目の前の幼い女の子がとんでもない強さであることを知って僕は軽く自信を喪失した。



 その後、僕たちは目的の場所に到着し、依頼された魔法の草の根っこを集めた。

 ジメジメした場所で何匹かスライムが徘徊していたため、<初級炎魔法>ファイアで先に倒しておいた。その後、エミリアの依頼だった色違いの薬草を複数採取して帰路に就いた。


「お疲れ様です。依頼の品を確認したので報酬をお渡ししますね!」

 お礼の言葉を貰いながらミライさんから報酬の大銀貨2枚も貰い、二人で分配した。


 その後、エミリアの部屋に立ち寄り目的の品を渡して報酬をもらった。


「一人銀貨1枚です。美味しいものでも食べに行ってください」


 その後、僕たち二人は夕方に商業区の飲食店で食事をした。

「「ご馳走様でした!(♪)」」


 たまにはとギルドの食堂ではなく商業区の飲食店で食べたのだが、美味しかった。

 魔物の肉らしいのだが、肉の触感が柔らかくて脂気もあってとても食べごたえがあった。

 出された飲料も少し小麦色で酸味が利いており、肉との相性も良かった。

 おかげでエミリアに貰った報酬も使ってしまったのだが、また明日も頑張ろう。


 その後、遅くまで二人で話をして宿に戻り、話疲れたのかそのまま眠ってしまった。


 ◆


「レイさま、おはようございます…………♪」


 はい、また二人同じベッドで寝てしまいました。

 食事の後帰ってもレベッカの魔法とか色々気になって話してたら二人して眠ってしまったらしい。

 別に何も無かったと思う。ただ、同じベッドで寝ただけだから……うん。


<レイとレベッカは滅茶苦茶仲良くなった>


 戦闘により経験値を獲得

<レイはLv11に上がった>

<レイは盾の心得Lv0を習得>

<初級攻撃魔法Lv3獲得>


 入手アイテム

(N)薬草   4個(HPを小回復)

(N)毒消し草 2個(軽度の毒を回復する)

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