第17話 冒険者ギルド
あらすじ、誤爆
レイがエミリアに大胆な告白をして警備兵に補導された後――
◆
「「……」」
レイさまとエミリアさまはそっぽ向いて歩いていておられました。
ちゃんと前は見えているのでしょうか、レベッカは心配です。
「ベルフラウさま、あのままでよろしいのでしょうか?」
「別に喧嘩したわけじゃないし、大丈夫よ」
わたくし、レベッカはこのお優しい方々に一時的に同行しております。
つい先ほど、レイさまがわたくしの心を震わせるほどの甘美な告白の現場を目撃してしまいました。
しかし、その告白はレイさま自身にとって秘めていたかった感情だったようです。
よく見てみると、レイさまとエミリアさまは無視しているわけでもなく
時折チラチラ見て、視線が合いそうになると目を逸らしていらっしゃるようでございます。
特にレイさまは今でも顔を真っ赤にされており、それはそれは可愛らしくて――
「っと、レベッカとしたことが…」
まだ出会って間もないというのに、このように凝視してしまうのは嫌われてしまいそうです。
「……と、着きました」
エミリアさまは目的の場所を危うく通り過ぎそうになったことに気付いて立ち止まりました。
「え?」
エミリアさまの言葉に驚いたのか、正気に戻ったのか、レイさまも立ち止まります。
「こほん、ここがゼロタウンの統括、冒険者ギルドですよ」
「(大きい…)」
わたくしが住んでいた故郷とここゼロタウンでは広さも人の多さも比較になりません。
この建物もまた大きい。わたくしの故郷の村と同じくらいの広さとでは思ってしまうほどです。
さて、そろそろわたくし視点の話はそろそろ終わりましょうか。
◆
「さて、まずは依頼終了の報告と行きましょう」
エミリアは勝手知ったる我が家のように一直線に受付に向かう。
人が沢山いるのにスルスルとエミリアは通り抜ける。
僕たちは不慣れなので、ちょっと遠慮気味に通り抜けてエミリアを追った。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
エミリアが窓口に向かうと、妙齢の女性が事務的な対応をする。
「本部冒険者ギルド所属のエミリアです、依頼を終えて戻ってきました」
エミリアは依頼報告書を掲げて目の前の女性に報告する。
「ただいま担当の者を呼んでまいります、少々お待ちください」
と、妙齢の受付嬢は奥に歩いて行った。
「……手慣れてるね、エミリア」
「まぁ、それなりに場数踏みましたからね、
それに受付は空いているうちにさっさと行かないとすぐ混んじゃいますので」
さっきまで緊張してたのに、驚くほど普通に会話出来た。
「ね?」
「すぐに元にもとどおりでしたね…さすがです、ベルフラウさま」
しばらくすると代わりに緑髪の眼鏡の人がこちらを見て走ってきた。担当者だろうか。
「お久しぶりです、エミリアさん」と笑顔で笑いかける眼鏡の女性。綺麗な人だ。
「どうも、ミライさん」
ミライと呼ばれた女性は会釈をし、今度は後ろに控えていた僕らを見てニッコリと笑った。
「アドレ―様から聞いていますよ、大変な依頼でしたね」
「本当にそうですよ、私一人では何か月掛かるか分からない依頼でした…」
とても最初の提示額に見合ったものでは無かったです、とエミリアは続ける。
「まぁまぁ、それでも報酬はたんまりですから、それで今回は見逃してください」
と、少し茶目っ気を出しながら微笑むミライさん。と、こちらに視線を移す。
「そちらの方々ですか?エミリアさんを含めて3人と聞いていたのですが…」
「あ、そのレベッカは…」
わたわたとしながら、レベッカはかぶりを振る。
と、その後ろからベルフラウ姉さんがレベッカをぎゅっと抱きしめて
「むぎゅ」「この子はね、旅の道中で仲良くなったの~」
レベッカを胸のクッションで包み込みながら言った。大丈夫?むぎゅって言ったよ?
「なるほど、ではそちらの女性がフラウ……。
いえ、訂正されてますね、ベルフラウさん。そして貴方がレイさんですね?」
最後に僕を見た。自分の事を言われたので慌てて「はい」と答えた。
「なるほど了承しました。
それでは依頼達成の確認も出来ていますので、報告書と報酬を交換しますね」
ミライさんは、既に用意してあった報酬袋を差し出した。
「本来一人分、金貨5枚の依頼だったのですが
追加の依頼の達成と追加メンバーの報酬を込みで合わせて金貨30枚となります」
と、その金額を聞いて周りに居た人がざわついた。
「金貨30枚ってマジ…?」
「嘘だろ…4人でゴブリン退治に行っても金貨2枚だぞ…」
単価がよく分からないけど、反応をみるに随分報酬が高かったみたいだ。
「(ね、ねぇお姉ちゃん…金貨一枚って日本円でいくらくらいなの…)」
周りに聞かれると困る話なのでヒソヒソ話でベルフラウ姉さんに話しかける。
「(んーと、そうですねぇ‥…銅貨300円、銀貨2000円、大銀貨5000円
小金貨は1万円…あの報酬の金貨は普通の大きさだから一枚3万円くらいかしら?)」
……とすると、一人あたり大体30万円?確かに大きい金額だけど…。
(それだとするならゴブリン退治で6万円…?)
4人なら一人あたま1万5千円だ。命が掛かってると考えるなら正直安すぎる気がする。
「はい、間違いないです」
エミリアは報酬の中身をチェックしてから依頼書と報告書をミライさんに渡す。
「これで全て承りました。感謝します」
僕たちはミライさんに感謝の言葉を受けて、一旦受付から離れて二階の冒険者食堂へ向かう。
◆
食堂の人はまばらだった。
現在の正確な時刻は分からないが、もう既にお昼はとっくに回っていた。
僕たちは一番安いメニューを頼んで4人でテーブルに着いた。
「あ、あの皆さま…レベッカはお食事は要らないので…」
席には着いたが、レベッカは食事に手を付けようとしない。遠慮してるのだろうか?
「まぁまぁレベッカちゃん、育ち盛りなんだから遠慮なく食べて。支払いは任せて、ね?」
と姉さんはレベッカに促す。すると、申し訳なさそうにレベッカはパンをかじり始めた。
「はむはむ……美味しいです…おいしいです……」
一度食べ始めたらレベッカは止まらなかった。よほどお腹が空いてたのだろう。
喫茶店のケーキはお姉ちゃんと一緒に分けて食べたらしいけど、多分我慢してたんだろうなぁ。
食事を済ませてテーブルを開けると、
エミリアが立ち上がって先ほどの報酬袋の中身を取り出した。
「今回は金貨30枚ですので、私とレイとベルフラウさんでそれぞれ10枚ずつということで」
僕の目の前に10枚の金貨が置かれる。触ってみると、見た目の割に結構重く感じる。
「レイくん、お金持ってたら危ないから私が預かろっか?」
「大丈夫だから!」
お姉ちゃん、お母さんみたいなこと言わないで…。
「さて分配は完了しましたが…
レイとベルフラウさんはこの後冒険者登録する予定ですか?」
「うん」「そうね」
「それなら、この後に登録にいきましょうか」
と、エミリアが言ったところでレベッカがおずおずと手を挙げる。
「あの、レベッカもご一緒してもよろしいでしょうか…?」
え、レベッカも冒険者に!?
「それは構いませんが…もしかして冒険者になりにゼロタウンに来たのですか?」
「は、はい…」
意外だった。レベッカは体も細くて肌も白くて綺麗で、戦えるようには見えないのだけど…。
「レベッカの故郷は、非常に貧しい状態にありまして…
今は例え子供のわたくしであっても出稼ぎをしないとやっていけない状態なのです」
…だから、馬車にお金を払えなくてあんな危ないことをしたのだろうか。
「その、僕が言うのもおかしな話だけど…冒険者、大丈夫なの?」
冒険者になることを決めた僕だって不安要素はあるのだ。幼いレベッカには余計酷に思える。
「はい…一応、武器もありますし」
「武器?」
レベッカは特に何か持っているようにも見えないが…。
「ここに…」と言いながらレベッカは立ち上がって一歩下がる。
そして、レベッカが呟いた。
『―――来てください』
――次の瞬間、レベッカの右手にその体には似つかわしくない槍が握られていた。
「……えっ?」
さっきまで、レベッカの手には何も握られていなかった。
それどころか槍のような武器などどこにも持っていなかったはず。一体何処から…。
「レベッカさん、今のは…」
エミリアとベルフラウも今の現象に驚愕していた。
ベルフラウ姉さんは特に驚いている。
「私の故郷……詳しくは言えないのですが、秘伝の魔法がありまして…」
魔法…確かに、今の現象は魔法以外考えられないけど…。
「これで、レベッカも冒険者として戦えることを認めてもらえたでしょうか…?」
その言葉に、誰一人として異議を唱えられるものは居なかった。
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