第16話 誤爆
僕たちは初めてゼロタウンに踏み入れた。
「うわぁ…すごい」
僕が元居た世界にもこういう街はあったけど、それにしても人口密度も多い。
外は魔物が徘徊する世界だから、こうやって一か所に人が集まっているのだろうか。
「エミリア、ここに冒険者ギルドがあるの?」
「はい、まずは依頼終了を報告、と行きたいですが」
「ん?」
「せっかくですし道中は観光案内をしてあげますよ、行きましょう」
と、エミリアは僕の手を取って歩く。
「わ、わっ!ちょ…エミリア!」
ただえさえ意識し始めてるのに、エミリアにこういうことされるとドキドキしてしまう。
それを見たベルフラウ姉さんは頬を膨らませてもう一つの僕の手を握る。
「ズルい!レイくん、お姉ちゃんとも手を繋いで歩きましょうね~」
いや、本当に恥ずかしい!や、止めて…。
というか両方に手を掴まれてるせいで僕の自由意志が全然無いんだけど!
「レ、レベッカ、助けて!」
「フフ…3人はとても仲がよろしいのですね…レベッカ妬けてしまいます」
何で急にそんな大人っぽい反応するの!?
そうして僕たちは街の中央部へと進む。
中央に近づくにつれて露店の数が増えていく。
両手ホールドされてる僕はかなり目立ってしまい、流石にそこで勘弁してもらった。
「おぉ~色々あるね」
「はい、この辺りは主に食材を売っています。露店でアクセサリーを売ってたりもしますね」
「へぇー」
「あ、ここのお肉美味しそうね……」
お姉ちゃんお肉とか美味しそうに食べるんだよね。
元女神だけど殺生はダメとかそういう戒律とかは無さそう。
ん?と思い後ろを見ると、人に呑まれてわたわたしてるレベッカが居た。
「レベッカ、大丈夫?」と僕が駆けつけると
「だ、だいじょうぶですぅ…」とちょっと大丈夫じゃなさそうな声を出した。
これだけ人が多いと迷子になるかもしれない。
ということで僕はレベッカと手を繋いで歩くことにした。
「れ、レイさま…!?あ、あの…」
「こうした方が迷子にならなくて済むし、暫く手をつないでいよう」
と、僕はレベッカの手を握る。レベッカは少し顔を赤らめて控えめに僕の手を握り返す。
「レイくんったら、もしかして妹が欲しかったのかな、エミリアさん」
「どうなんでしょう……?」
そこの二人はちょっと黙っててほしい。
近くにアンティークなお店があった。
ちょっとした魔法アイテムや小物などが売られてたりするらしい。
「まぁここはギルドに行ってからのお楽しみということで」とエミリアは言う。
「ギルド……」
そうだ、すっかり忘れてたけど、この後エミリアと別れることになってしまう。
「え、エミ……!」
はやく伝えないと!と、言葉と一緒に一歩踏み出したかったのがいけなかった。
一緒に手を繋いでいたレベッカもそのまま引っ張ってしまい、足がもつれてしまう。
「わぷっ」
自分のせいで態勢を崩してしまったレベッカを手で支える。
「ご、ごめんレベッカ………」
「いえ、大丈夫です……レイさま、どうかなさいましたか?」
レベッカに問われて言い淀んでしまう。
「ええと、なんでもない…行こっか?」
◆
その様子を見たエミリア。
(レイ、この後の事を気にしてるんでしょうか?)
確かに『ここまで送り届ける』という約束ではあったけど、レイはそれを心配してるのか。
「エミリアさん、エミリアさん」
と、ベルフラウさんが私の肩を叩く。
「多分分かってると思うけど、レイくん、貴女と別れたくないのよ」
流石にバレバレだった、当然だけど私も気付いている。
「……仕方がありませんねぇ、後で機会を作りましょうか」
言い辛そうだったらこちらから歩み寄ってあげよう。エミリアも彼の事は気に入ってるのだ。
「じゃあ、その時は私はレベッカちゃんを連れてちょっと話しているね」
ベルフラウさんはレイに対して過剰なスキンシップをしてるけど意外と寛容だった。
悩んでいるレイを他所にそんなやり取りが行われていた。
◆
少し先に進んだところに噴水広場が見える。
更にそこから進むと大きな建物が見えるが、その手前には左右に分かれた道がある。
「ここから先は三つの大きな道に分かれています
中央は冒険者ギルドとそのギルドが管理にする宿屋や飲食店がある場所があります」
「この後私たちはそこに向かいます」とエミリアは言葉をつづける。
「左は居住区ですね。冒険者の方にもここで住居を構えてる人もそれなりに居ます」
「右の道は?」
「右側の道を行くと商業区になりますね。色々なお店が立ち並んでいますよ。武器屋とか防具屋もありますし、魔道具のお店なんかもあるんですよ!」
「へぇーそれは面白そう」
「でもあまり期待しない方がいいですよ? 武器や防具屋と言っても
「そうなんだ……」
「ふふふ、あとで遊びに行ってみましょうね、レイくん」
興味があったのバレバレだった。
「それで、ここ周辺なんですが、見ての通り噴水がありますね」
「噴水の水しぶきと、周りの景色が合わさってとても綺麗な景色ですね…」
僕と手を繋いでいるレベッカはここが気に入ったようだ。僕もこの辺りは涼しくて居心地が良い。
「この近くに喫茶店がありますから、少し休憩していきましょうか?」
エミリアの言う通り、噴水の近くに小さな喫茶店があった。
「いらっしゃい、あれエミリアちゃんじゃない!帰ってたの?」
「どうも、ネネさん。またよろしくお願いしますね」
エミリアはここの常連だった。僕たちは噴水が窓から見れる端の席に案内された。
「私たちは店員さんとお喋りを兼ねて、ケーキを選んでくるね、レベッカちゃんも行きましょ?」
「はい、ベルフラウさま」
そう言って二人は席を離れた。
「じゃあ、私とレイはしばらくお喋りでもしましょうか」
そうして、僕とエミリアは言葉を交わす。
「レイはこの後、冒険者になるつもりなんですか?」
「少し前は自分が冒険者になんてなれるのかって思ってたんだけどね」
「今は違うんですか?」
「うん、姉さんやエミリアと過ごして……
それにアドレ―さんに鍛えてもらって、思ったことがあるんだ」
「それは?」
僕は一息ついて続ける。
「…… 僕は今までずっと逃げてきた気がする。
自分の弱さから、自分を取り巻く環境からも逃げたくて仕方なかった。
けどそんな自分に嫌気もあったんだと思う。あの時だって……」
――僕が事故に遭ったとき
ずっと登校拒否してた僕は、ずっと周りを拒絶してた。
それでも大好きなお父さんとお母さんだけはずっと味方で居てくれた。
だけどある日、二人が僕と話をしようと言ってきた。
――今からでも遅くない。頑張って学校に行ってみよう、
そうすれば鈴(レイ)はきっと変われるって…。
僕は今の自分を否定されたように思ってしまった。
そんなわけないのに、二人は僕の事をいつだって考えてくれてたのに。
それなのに僕は大好きなお父さんとお母さんを言葉を拒絶して、家から飛び出して―――
「――こっちに来て、僕は強くなれるかもって思った。
違ったんだ。場所なんて関係ない。僕が勇気が無かったから、強くなりたいと思った。
今度こそ逃げずに
「僕は
僕の言葉を静かに聞いてくれるエミリア。そして彼女は微笑んで言った。
「……なら、レイは今から何をしたいですか?」
エミリアは僕が伝えたい気持ちに気付いている。そして、それを待っている。
だから――今、ここで言うんだ。
「エミリア、僕は君と一緒に居たい。
同じ冒険者になって、一緒に依頼を受けたり冒険したり、家族みたいに笑いあって――
「だから、一緒に居てほしい―――」
……言えた、僕がエミリアに言いたかったこと。
これからこの世界で冒険するのに、彼女が傍に居ないなんて考えられなかった。
「………………」
「……? エミリア?」
ど、どうしたんだろう……。もしかして言い方が悪かったのだろうか。
「あ、い、いえ……
普通に一緒にパーティを組んでくれって言われると思っていたのですが―――
…………ま、まさか、こんな情熱的な告白を受けると思っていなくて」
………え、情熱的な告白………?
「…………!!!!?????」
やっちゃったあああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
普通に一緒に冒険しようって言えばいいのに、これじゃあ完全に告白じゃあないか!
あああああああ、どうしよう!これからどうやってエミリアと顔を合わせればいいんだぁあああああああ!
「あらあら……レイくんったら、
お姉ちゃんが居ない間にエミリアさんを口説いちゃって…」
「レイさま…素敵だと思います。レベッカ、感服いたしました…」
「ふ、二人とも何時からそこに……っ!?」
ヤバいヤバい、顔が真っ赤になってパニックになってもう何も考えられない!!
そのまま僕は、居た堪れない気持ちになって噴水にダッシュして頭が冷えるまで水を被ることにした。
「ふふふ、あんな大胆な告白出来るようになっちゃって…」
「止めてくださいよ、ベルフラウさん……もう」
そう言うエミリアの顔はレイと同じくらい真っ赤になっている。
彼は一緒に冒険者になって冒険しようって言いたかったんだと思う。
ただ、あまりにも想いが強くなり過ぎて、ちょっと色々飛び越してしまったのだろう。
「それで、エミリアさんはレイくんの告白を受け入れるの?」
「その言い方は止めてください。
レイは一緒にパーティを組もうって意味の言葉だったでしょうし、それは受け入れますけど…その、他の部分は……」
そっちに関しては何とも言えない。
レイの事は好きだけど、恋愛に疎い私にはまだ分からない感情だ。
「というか、ベルフラウさんは良いんですか?
仮に私とレイが付きあったりしたとして、お姉さんとして複雑なのでは?」
あまりにも恥ずかしくて、つい意地悪な返しをしてしまう。
「レイくんのことは大好きよ?
でも私はお姉ちゃんだから、お姉ちゃんとしてレイくんの事は全部応援したいの」
……お姉ちゃんとして、ですか。
それは本心なのだろうか。私にはそれ以上の感情を秘めているように思えてならない。
「わたくし、あのような情熱的な告白を見て、胸がときめいております…」
レベッカはまるで自分が告白されたかのように感極まっている。
この子も変わってる気がしますね。
「まぁ、ひとまず…」
窓の外でレイが噴水の水に頭から顔を突っ込んで、周りがドン引きしている。
警備兵に補導されないか心配だ。
「レイの迷惑行為を止めさせましょう…」
<レイとエミリアは仲良くなった>
<レイは前科一犯になった>
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