第15話 女の子拾った

「……あ、あの」

 小柄な女の子が僕の袖を掴んでじっと見つめていた。

 ……銀髪のとても綺麗な赤い目だ。


「………君は?」

「その女の子がね、道をどいてくれなくて困ってたんですよ……」

 この子が…?

「……両親とはぐれちゃったの?」

「………………違います」

 一番可能性がありそうなのを聞いたんだけど…。


 もし悪戯じゃないとして、わざわざ場所の進路に立つ理由……。

「…もしかして、何か困ってる…?」

「…………っ」

 一瞬ピクっ…と反応があった気がする。


「…誰かに追われたりしてる?」

「………」

 ふるふる、と首を横に振っている。


 念のため周囲を確認する…。目視した範囲では僕たち以外には確認出来ない。

 眼を瞑って気配を探ってみるが……やはりせいぜい風の音くらいだ。


 となると……もしかして…

「……馬車に乗りたいの?」

「……っ!…はい」


 この子が馬車に乗りたいのは分かった。

「でも、キミ一人じゃないよね? 両親…じゃなければ保護者の方とか‥」

「………一人なので…」


「一人…?」

 両親も…知り合いも居ないって事なのか…。


 この子の姿を確認する。

 銀髪で目は赤色、歳は僕やエミリアより下だと思う。身長はかなり低い。

 髪型は長いのか左右にお団子のようにまとめられており先は尖って尖がっている。

 お団子の周りは金色のアクセサリーで髪を纏めている。なんだかネコミミみたいだ。

 着ている服はちょっと変わっている。民族衣装という奴だろうか。


 白っぽい衣装だが、肩部分が露出しており、腕も白くて長い手袋を付けているが全体的に薄め。

 スカートはそれなりに長めなのだが、右の足の衣装に切れ込みが入っており大きく露出している。

 こういうスカートに切れ端を入れているのをスリットというらしい。


 見た目の幼さの割にちょっと色っぽい…。


 目立つ場所にキズとかはあるようには見えない。

 何処かから魔物に襲われて逃げてきたにしては服も乱れたり汚れた様子もない。

「…………?」

 ジッと見てしまったせいで不思議そうな顔をされてしまった。


「おじさん、この辺りに村や街はあったりしますか?」

「いや、この辺りにそういった人が集まる場所は無いはずだよ」


 となると、この辺りの村人ではない?


「ねぇ、キミ。僕たちは馬車に乗ってゼロタウンに向かう途中なんだけど合ってるかな?」


「……! は、はい……合って、ます」


「レイ、いったい何があったんです?」

 荷台に待機していたエミリアも降りてきた。姉さんも一緒だ。

「レイくん、その子は?」

 二人とも僕の裾をつまんでいる女の子に視線が集中してる。

「うん、ちょっとね」

 仕方ない。ちょっと無理を言って頼んでみようか……。


「おじさん、この子もゼロタウンに行きたいみたいです。馬車に乗せてもらってもいいですか?」


「その子の知り合いどこかに居るんじゃ…」


「尋ねてみたのですが、両親も知り合いも居ないみたいです

 もしかしたら会いたい人がゼロタウンに居るのかもしれない。連れてってあげてもいいですか?」


 もし違ってたら僕は誘拐犯だな…とふと思ったりもしたのだが。


「お願いします……」

 と、女の子も御者のおじさんに頭を下げる。


「あ、うん、困ったなぁ…」

「もし何か不都合があれば後からこちらで対応します。僕からもお願いします」

 一緒に僕も頭を下げる。


「……ふぅ、分かりました」


 何とか許しを貰った僕は女の子と一緒に荷台に乗せてもらった。



「君の名前を聞いてもいいかな?」


 女の子は少し躊躇いながら言った。


「……レベッカと申します」


 レベッカと名乗った少女は申し訳なさそうに頭を下げる。

 妙に丁寧なしゃべり方だ、少し古風と言うべきだろうか。

 本当はしっかりお礼を言いたかったのだろうが、ここは荷台の中で狭い。

 狭いので僕の傍で引っ付いた状態で話している。

「ありがとうございます、助かりました…」


「レベッカちゃん…でいいのかしら? 何であんな危ないことしたの?」

「そうですよ、話を聞いたところ馬車の前に急に飛び出したとか」

 御者さんは言うには道を走ってる時に急に飛び出してきたらしい。距離があったため轢かれる前に止まることが出来たが、もし御者さんが余所見をしていたら危なかっただろう。


「本当にごめんなさい。

 待ってくださいと声は掛けたつもりだったのですが、レベッカは声が小さくて…」

 確かに傍に居ても声がとても小さい。仮に外で大声で叫んでも馬の足音や馬車を引く音でかき消されただろう。だからと言って前に飛び出すのは危険すぎる。


(僕みたいに轢かれて死ぬかもしれないのに…)


「もう二度とこんなことはしちゃダメだ

 もしかしたら馬車に轢かれて君は大怪我じゃ済まなかったかもしれないんだよ」


「っ……はい、ご迷惑をおかけしました……」

 僕の言葉にビクッと肩を震わせる。少し、言い過ぎたかもしれない。


「ごめん、責めるつもりはなかったんだ」


「…いえ、レベッカが悪いのは分かっていますから……

 ただ、あまり人馴れしておらず、どう呼び止めていいのか分からなくて…」

 最初、妙に無口だったのはそれが理由か…。


 そうか、怒られて怖かったというより…

 今になって死ぬかもしれなかったという実感が来たのかもしれない。


「自己紹介が遅れてごめん、僕はレイ」

「私はエミリアです」

「私は、……ベルフラウよ、よろしくねー」


 え、姉さん本名言っていいの?という顔をしてしまった。


「大丈夫だよ、もう時間経ってるからねー」

 時間?

「以前レイがポロッと言ってましたね、あの時に本名知りましたけど」

「え、言ってたっけ?」

 全然覚えが無かった。

「その後にエミリアさんに聞かれたのよ、だからもういいかなって」

 まぁ姉さんがそういうなら…でも信仰がどうとかってのはもう良いのかな。


「ええと、レイさま、エミリアさま、ベルフラウさまですね」

 3人の名を噛み締めながら


「改めて、わたくしはレベッカと申します

 短いお付き合いになるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」


 緊張していたレベッカは、それから少しずつ打ち解けていった。

 

  ◆


 レベッカが馬車に乗ってから3時間後―――


「さぁ、着きましたよ」

 御者さんに言われて僕たちは外に出る。外は快晴だった。


「御者さん、ここまでありがとうございます」

「いいよいいよ、今回は荷物も多くなかったし、キミたちは湖の恩人って話だからね」

 御者さんは横を見てレベッカを見る。


「あ、あの、今回は本当にすみませんでした。二度とあのようなことは致しません…」

 レベッカは平謝りしている。業者さんはレベッカの頭を撫でて言った。

「お嬢ちゃん、名前は?」

「レベッカ、……です」

「そうか、レベッカちゃん。反省しているならもう危ないことしちゃ駄目だよ?」

 それじゃ、と御者は馬車を引いて街の中へと入っていった。


「それじゃあ、私たちも入りましょうか」

 と、エミリアは先導するように僕たちの前に立つ。


「レベッカも僕たちと一緒に入る?」


「あ、ありがとうございます!レベッカは街が不慣れなものでたすかります!」


「それじゃあ4人で行きましょうかー」


 それから僕たちは4人で街へ入る。

 ゼロタウンと呼ばれた街、僕と女神さまだった姉さんが最初に目的にした場所へ。

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