第二章 新人冒険者編
第14話 馬車は急には止まれない
湖の村の事件は解決した。
僕たちはその次の日に定期馬車に相乗りさせてもらうことになった。
「それでは今までお世話になりました」
エミリアが代表してアドレ―さんと村の人たちに挨拶をしている。
「お前さんたちのお蔭で無事解決出来て良かったよ」
「いえいえ、私たちも報酬も増やしてもらいましたし、こちらも助かっていますよ」
結局報酬は最初の二倍、本来は一人分だったのを僕たち三人全員に二倍となった。
今回の件で魚がかなり駄目になってる筈なのに、相当負担掛かっているのではないだろうか。
僕がそんな心配をしたのを表情から察した村の人に話しかけられる。
「大丈夫じゃあ、報酬分だけの働きをお主らはしたんじゃ」
「そうそう、それにそれを支払えるだけの収入はこれから十分回収できるからね」
話しかけてくれた人は、姉さんの湖の浄化に立ち会った人たちだ。
「聖女のお嬢ちゃんも本当にありがとうな、あれ以来魚も元気になって本当に平和になったよ」
「ふふふ、ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しい限りですわ」
姉さん、こういう時は女神っぽい。
「僕も、皆さんにお世話になりました。風邪引いたときなんか特に…」
あの時は雨の中姉さんの胸の中でわんわん泣いて、そのあとびしょびしょに濡れて帰って、村の人達が総出でお湯を温めてくれたっけ。今となっては良い思い出だ。
いや、正直めっちゃ恥ずかしいです……。
「ははは、あの時は二人して目元を赤くしてびしょびしょになって帰ってきてたな!」
「いやぁ、ああいう青春は羨ましいと思ったのう!」
掘り返されると本当に恥ずかしくなってくる。横を見ると姉さんも少し顔を赤らめていた。
「まぁまぁ、二人をからかうのはその辺りにしとこう
レイ、フラウのお嬢さん、お前たち二人にも世話になったよ、本当に頑張ってくれた」
アドレ―さんの言葉にちょっとウルっと来てしまった。短いはずなのに…本当に色々あった。
「い、いえ、僕の方こそ…本当に、いっぱいお世話になって…」
眼元を擦って涙を拭う。こんなことだから周りに子供扱いされてしまうんだ…。
「レイくんったら…うふふ」
そう言ってフラウ姉さんは頭を優しくなでてくれる。それが凄く気持ちよくて、嬉しくて…。
そしたら今度は力強い腕でごしごしと撫でてくれる手があった。アドレ―さんだ。
「レイ、これから大事なお姉ちゃんをお前がしっかり守っていくんだぞ?」
腕の力が強すぎるため、撫でてるというよりはゴシゴシ頭を洗われてる感じだ、少し痛い。
「は、はい…アドレ―さん」
「それに、もう一人…」
とアドレ―さんはチラッとエミリアの方を見る。
「?」
エミリアはよく分かっていないようだった。
「(お前、あの子の事好きなんだろ?)」
「!?」
な、何でそれを…!?じゃなくて…なんてことを言うんだこの人は…?
今の言葉、小声だから誰にも聞かれてないと思うんだけど……!
「はっはっは、若いな!」
バシバシと僕の肩を叩くアドレ―さん、痛いよ…。
◆
「それじゃあ達者でな!」
僕たちは大勢の人達に見送られて旅立つ。
見送っている人たちに手を振りながら―――目指すは、ゼロタウンだ。
馬車は荷物との相乗りで結構狭い。
それでも今回は荷物が少ないおかげで詰めればギリギリ3人行けた。
僕は荷台の右側に、姉さんとエミリアは左側の端っこに詰めて座っている。
「みんないい人だったね」
アドレ―さんもだけど、みんな気が良くて優しい人ばっかりだった。
さっき泣きそうになったのは、ここの人達と別れるのがちょっと辛かったのもある。
「うん、私も初めて大勢の人と話したけど、緊張せずに済んで良かった」
姉さんは女神だったけど、大勢の人の前に降臨したようなことはなかったらしい。
(そもそも女神が下の世界に降りてくるなんて滅多にないって話だけど)
「良い人ばかりだったのは否定しませんが、
多分貴方たち二人が気に入られてたのも大きいと思いますよ」
そうかな…僕、特に気に入られるようなことした覚えもないんだけど
「まぁ自分では分からないもんですよ」
エミリア、僕より年下だけど考え方すごく大人だよね…。
(僕子供に見られてるし…向こうに行ってエミリアとパーティ組んでもらえるだろうか…?)
僕が今一番悩んでるのはそれだ。
最初に悩んでたのは僕がこの世界で何をするかってことだった。
でもそれは短いながらもアドレ―さん一緒に冒険をしてから決心がついた。
『僕は、家族や仲間大好きな人達と一緒に、この世界で精一杯生きるんです』
僕は大好きな人と一緒にいられるならどんなことだって頑張ろうと思う。
エミリアが冒険が好きなら僕も一緒に冒険するし、姉さんが世界を救う手助けをしてほしいって言うなら僕は助けに行く。アドレ―さん達のような優しい人達を守りたいっていう気持ちもある。
多分僕たち二人はこの後、ゼロタウンで冒険者になって色々な冒険をするんだと思う。
そう、
エミリアは本来、僕たちをゼロタウンに送り届けるために同行していた。
だからもしゼロタウンに行ってしまうと一緒にいられる動機がなくなってしまうのだ。
もし一緒に行動が許されるとしたら、それはエミリアと冒険を共にすることだ。
同じ冒険者になって、同じ依頼を受けて、それで冒険したり苦労したり、一緒に騒いだり…。
それで、もし僕とエミリアが……って
「何アドレ―さんの言葉を真に受けてんの僕は!?」
ああああああーーーと頭を抱えてる僕、多分周りからはおかしな奴と思われてるかもしれない。
「れ、レイくんどうしたの?」「ど、どうしました?頭が痛いんですか!?」
まてまて、冷静になるんだ、僕!
僕がエミリアと一緒に居たいのはあくまで!仲間として!頼りになるし!信頼できるし!一緒にいて楽しいから!そう、そういう意味だ!
決して―――その、僕がエミリアの事が好きとかじゃなくて……。
ふと、顔を上げて前を見ると――
「???」
エミリアの顔がものすごく近かった!
「大丈夫ですか?レイ?」
「だ、大丈夫……です」
ぷしゅううう…と自分の顔が真っ赤になってる気がした。
◆
――ややあって
「……!」
ん?今外から声が聞こえたような…?
「…レイくん、何か外の様子おかしくない?」
確かに…さっき御者さんの声も聞こえたような――
ガタンッ!
突然馬車が止まった。
「と、と…」と僕は揺れた時にバランス崩しそうになって何とか持ち直す。
「みんな平気?」
「ええ、大丈夫です…」
「レイくんこそ平気?怪我してない?」
大丈夫と被りを振る。しかし、いったい何が起きたんだ?
「すいません?どうしました?」
様子を見るつもりで、僕だけ荷台から降りてくる。
「ああ、レイさん、急に止まって申し訳ない」
御者さんは見た目50歳くらいのおじさんだ。
「何かあったんですか?」と僕は尋ねると、
「それが、この子が急に飛び出して来てね、急停止したんだけど」
おーよしよし、と馬をなだめている。
急に手綱を引いたため馬が興奮したのだろう。
「この子…?」
と、自分の服の裾を誰かに掴まれた。振り返ると銀髪の少女が立っていた。
「………」
女の子が僕の袖を掴んでじっと見つめている。
「君は……」
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