第8話 / 鈍き光に誘われて

 スマホの上を指が走った。

SNSの新たなアカウントが誕生し、速攻でとある投稿が投下される。


 ――寛肇治大学、宇宙人現る⁉


 意味の分からない投稿は瞬く間に拡散され、局所的な盛り上がりを見せた。


『なにこれ、キショ』


『へぇ、こんなのいるんだ』


『おっもしろ! 今度探すわ』


『誰、誰? この投稿した人―?』


『俺も思ってたんだよねぇ、てか宇宙人って(笑)』


『宇宙人、そのセンスサイコー!』


『この人と友達になりたい!(笑)』


 沢山の声が飛び交った。

もちろん良い意見ばかりじゃなかったが、投稿の内容に対する興味、投稿者に対する興味とが多くの割合を占め、オレ――『せいせい』は一躍『時の人』と成り上がっていく。



 反応がもらえる。コメントが付く。フォロワーが増える。会話が弾む。

盛り上がって、盛り上がって、悪意が膨れ上がって、自己顕示欲が破裂しそうになっていく。

楽しくて楽しくて仕方がなかった。

たった一つの投稿が、オレに呼吸のやり方を教えてくれたんだ。


 深海だって、酸素ボンベがあれば息ができる。


 生きていくことができる。

オレは止まらなくなった。いや、止まれなくなった。

オレのように現状を不服に思っている奴は沢山いて、だからこそオレは教祖のように崇め奉られる。

投稿すれば、一分としないうちに十人以上の賛同者が顔を見せてきた。

一緒に『宇宙人』を揶揄う、信者信者信者信者信者信者信者信者信者信者。

 オレは寝る間も惜しんで投稿を続けた。

全ては喜んでくれる人のためだ。

日に日にその知名度は上がっていった。



 いつものようにオレが『宇宙人』をネタにした投稿をすると、いつもとは違う反応に「いいね」ボタンが多く押されていた。


『あなたは最低な人です! 人のことをダシにして何が楽しいんですか?』


『そろそろつまんねぇな』


『あなたの投稿が目に入ると、不快になります。これ以上続けるようなら、私は学校側に申し出ます』


 オレの人気ぶりに嫉妬してるのかな。

こんな少数の声なんざ、誰も聞く耳なんか持ちやしない。

オレには五百人の後ろ盾がいるんだよ。

さっさと正義ぶってる弱虫はお家に帰りな。

心の中でそう呟きながら、放置することにした。

三日、四日経ってもその類いの反応は絶えない。

むしろ日を追うごとに増えていっている気がした。

焦る気持ちを抑えて、投稿の内容をエスカレートさせていく。

オレには五百人のフォロワーがいるんだから。

皆オレのことを思ってくれて、フォローしてくれているんだ。

否定的な反応を示している人たちのフォロワーなんか精々百人いればいい方じゃないか。

煩い煩い。煩い煩い煩い。



 所謂アンチのようなものが現れてから、一週間が経過。

ついに、オレの玉座に変化が見られるようになった。

慣れた手つきでスマホを開き、日課のSNSチェックを行う。


「あれ、オレのフォロワーが五百人切っちゃってる……」


 玉座には小さいながらも、確かな亀裂が走っていた。

何ともわからぬ動悸と眩暈が、オレを襲う。

いきなり高度が上がったかのように、息をするのが苦しくなった気がした。

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