第7話 / 興味は水底に映る
グループでの交流がある授業は、かなり少ない。
だからこそ、その授業がある日を楽しみにするようになった。
会話への自信も日に日に増していき、入学時より断然気力は回復している。
今日は、待ちに待ったグループワークがある授業の日。
意気揚々とボタンを押し、セッションに入っていった。
今回も提示されたテーマについて、三、四人のグループで討論することが目的のようだ。
オレは初めてグループリーダーに選ばれた。
グループリーダーとは毎回ランダムで決められ、選ばれた人は進行役としてディスカッションを円滑に進めるため尽力する。
ずっとやってみたかった役回りだった。
オレは会話ができる。
学んだ知識さえあれば、きっとうまくいく。
これまでの積み重ねは、薄汚れた原石だったオレを光り輝く宝石へと変えたはずだ。
『皆さん、こんちはー』
『こんにちはー!』
『どうも~、よろしくお願いしま~す』
オレのグループは全部で四人のはずなのに、二人の声しか聞こえなかった。
あと一人の人は、きっと喋るのが恥ずかしいのだろう。
オレも最初はそうだったから、気持ちは物凄くわかる。
番号を見ると、3337169と書かれている。
見覚えがある気もするが、皆同じような番号なので誰かは特定できない。
でも、一つ言えることがある。
リーダーはメンバーを見捨てるわけにはいかないということだ。
オレはリーダーとしての責務を全うする。
『3337169の人、大丈夫ですかー?』
返事がない。
だが、マイクのマークを見ると、赤い線は入っていない。
なるほど、ミュートは元々していなかったのか。
おそらく単純に声が小さすぎたってことだろう。
マイクで拾えないほどの声だったと納得して、先に進めることにした。
一人一人が自身の考えを発表し、それに対しメンバーがコメントする形でセッションは何の問題なく進行していった。
我ながらなかなかどうして、順調な滑り出しだ。
声の小さな人の番になった。
もっと大きな声で話してほしい。
そうしないと、コメントしようにも何も言うことができなくなってしまう。
一応ここで注意しておいた方が、皆の為になる。
よし、言おう。
『もう少しでいいので、大きめの声でお願いしますねー!』
『……カイム……』
かなり高めな、か細い声が耳をこすった。
……かいむ?
何といったか分からず、思わず聞き返す。
『すみません!よく聞こえなかったんですが、もう一回言ってもらっていいですか?』
その時、鼓膜を劈く咆哮がイヤホン中に響き渡った。
『理・解・は・無・理・か・い?』
『は?』
『えっ?』
『な~になに~?』
一文字一文字区切られた言葉、そして何より意味の分からない返答。
この人は何者だ?
――理解は無理かい?
何を言っているんだろうか。
誰もが脳の処理ができず、パニックを起こしている。
頭に疑問符を抱えたまま、先生から合図が出されグループワークの時間が終わった。
昨日の出来事が脳裏に焼き付いて離れない。
お手本のような不協和音で「理解は無理かい?」と叫んだ女子はいったい何者なのだろうか。
これまで何度かあった声出し授業で、一度だって当たったことがない。
一緒になった人たちは皆普通な声で、尚且つ普通の喋り方だった。
あ、待てよ……。
これってネタにしてみたら結構面白いんじゃね?
気付いてしまった。
皆オンライン授業に対する不満とか、対面に対する期待とか、とにかく現状の鬱憤が何かしら溜まっていることだろう。
だったら、それにこの爆弾ぶつけて相殺すれば、気持ちいんじゃないか?
オレはひとりでに笑みを零していた。
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