第2話 / 星の数ほどの夢
そんなオレでも今最高に楽しく過ごせている。
受験が終わり、合格の二文字を受け取ってから、ひたすら対人関係のコツを調べ尽くした。
動画サイトで関連動画を探したり、書店で関連書籍を買い漁ったりして、人並みの知識は身に着けた。
そのおかげで、この春休み期間に何人かの大学の人たちとSNS上でつながることができた。
彼らと入学式に行くことも決まっている。
だから、もうオレは一人じゃない。
毎日DMで会話して、盛り上がれている。
この関係がリアルでも実現できるなら、どんなにか楽しいだろうか、幸せだろうか。
夜八時十五分。
急げ、急げ。シャンプー、リンス、ボディーソープ。
流れ作業で風呂を片付け、鼻歌交じりに髪を乾かす。
すぐさまヘアバンドで髪をかき上げ、スキップしながら自室に直行。
そのままの勢いでベッドにダイブした。
そこから身体のしなりを効かせて音のない着地をみせる。
この華麗な身のこなし、歴戦のスパイかよ。
声にならないツッコミをしながら、ベッドの上をゴロゴロと転がった。
……ピコンピコンピコンピコン。
ついにこの時間がやってきた。
今日は、八時半から何の講義を取るか話し合うことになっていた。
『今日もマジで暑苦しい日だったな~。みんなお疲れサマー(早い)』
『サマーって、様になりすぎ(笑)それよりさ、聞いてほしいことがあるんだけど!』
『お? きっとめちゃくちゃ面白いことなんやろな~ニヤニヤ』
『かなりハードル上がってるけど大丈夫か?(笑)』
『入学式は校長先生、絶好調だといいな~(笑)』
『いや何の話だよ(笑)今日は講義についてだろ? 話してこーぜ』
『おっけー』
『りょーかいっすー』
『了解には五両かい?(笑)』
『五両もいらん(笑)てか、らっくーさっきからうるさいわ(笑)』
『それはどうもすみま千円』
『(笑笑笑)』
……あーあ、楽しい。
すごく楽しい。
なんてことない日常が、夕日を浴びた海岸みたいに煌めいて見える。
早くこの人たちにリアルで会いたい。
どんな顔で、どんな声で喋っているんだろう。
身振り手振り付いたら、もっともっと面白いはずだ。
あー、対面で会いたい。
携帯からは、楽し気な音階がひっきりなしに鳴り響いていた。
ここからの数日間、オレたちは沢山のチャットを送り合った。
その中でリアルであってからの計画を綿密に立てていったんだ。
その過程は本当にワクワクするもので、日々が早く過ぎ去っていくことを切に願った。
こんなにも幸せでいいのだろうかと、何度歓喜したものか。
一つ、また一つとカレンダーが埋まっていく感覚は新鮮そのもので、オレは大学生になるんだって心から実感できた。
新宿で映画鑑賞、吉祥寺でカフェ巡り、渋谷でオール、浅草で観光散歩。文字を読む目が細くなるのが分かる。
そのまま目を閉じて、夢想してみる。
新宿のでっかい映画館で、横並びで座席を取って、ポップコーンを食べながら笑って映画を観る。
吉祥寺のお洒落なカフェに男八人で乗り込んで、「オレら場違いじゃね?(笑)」とか言いながら、インスタに映える写真をアップする。
渋谷でカラオケとかショッピングとかスポーツセンター的なところで遊び倒しながら、時間目いっぱい利用してそれで漫喫とかで皆で一夜を明かす。
浅草で雷門前で写真を撮った後、仲見世通りで甘味処の和菓子を皆でシェアして食べる。
どれもこれも最高に楽しそうだ。
直接会って話をして、いろんなところに出かけて両親に語れるような楽しい思い出を星の数ほどつくるんだ。
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