第十一夜 3

 ゆきはなんとか青白い炎をまとい、白い猫の姿と化す。


「え……? 効かない!」


 例の言葉を何度も口にし、縛り付ける感触をふりほどこうとするが、びくともしない。ゆきの額に嫌な汗が伝わった。


「これはね、あなたみたいな人を自由に動かす術なの。でも、アンタも強情ね。自分で猫になれるなんて……」


 無表情だった花蓮が、わずかに眉根を寄せた。


「花蓮! なんかおかしい! なんかおかしいよ! みんなで元に戻るなら、なんで狼たちに私たちを襲わせるの? 狼たちもここにいればいいじゃない。ワケを話してくれればいいじゃない!」

「そんなつもりがないからさ」


 生け垣に目をやる。声の主を見定めると、花蓮はくっ、と目を細めた。


「なんで、戻ってきたのよ……」


 肩で息をしながら、藤助がまっすぐ花蓮を見据える。そばには真や銀次、平太の姿もあった。


「花蓮! もうやめようや!」


 銀次が叫ぶ。だが、花蓮は振り返ろうともせず、術を解く気配もない。

 藤助は寝殿の縁側を見据えた。


「――高野梅子。本名、高野幸子。千年以上前、呪いを受けた張本人だ。横にいる小野秀秋もそうだ」


 梅子は顔色一つ変えず、むしろ、見下しているようにさえ見えた。


「呪いのせいだろう、今まで生きてたのさ。長年、人に戻れる方法を研究し、そしてとうとう発見した。けんぞくを猫・狼にして呪いの肩代わりをさせて、その力で元に戻る方法を……。自分達だけな!」


 藤助の言葉にゆきは目を見張った。すると、今まで無表情だった花蓮の頬に紅がさした。


「おしい。藤助さん。『自分達だけ』じゃないの。『自分だけ』なの」


 小野の顔色がさっと変わる。梅子はそれでも涼しげな表情を浮かべていた。


「この人はね、自分だけ戻るつもりなのよ」

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