第十一夜 2

「早う! ほこらの所まで行って!」

「ケンカしてる場合やないねん! 術に巻き込まれるかもしれん! お前らも行け!」


 平太が叫ぶように皆に声をかけ、刀を抜かずに応戦しながら、真が訴えた。


「そんなこと……信じられるかっ!」

「口で言うてわからんなら、コレや」


 銀次はするすると猫になると「――回凝かいぎょう」とつぶやき、幻覚で祠まで追い返す。


「お前、えげつないなぁ」

「使えるものは使ったほうがいいか」


 真があきれていると、藤助が朗らかに笑い声を立てた。

 解放されたじんびょう達の中から、まっすぐこちらを向く者がいた。とまどいと申し訳なさで全身がわなないている。藤助が目を合わせると、あわててくいっと目をそらしてしまった。


「いいよ。とにかく逃げろ」


 深々と頭を下げている正行を、藤助が優しく見つめる。その姿を見ると、許しを請うように、真は天を仰いだ。


 結界内にいた人猫・人狼を里の入口にある地蔵の祠に集めると、藤助は「あと、頼む」と言って里に引き返した。「一人で行くなや!」と真が後に続く。銀次もむろんである。少しちゅうちょしていたが、平太も後に続いた。

 残された人猫・人狼達の空気は重かった。猫や狼の姿と化し、応戦の構えを見せる者までいる。


「……やめろ。襲うのはいつだってできる」


 一人の人狼が沈痛な面持ちを浮かべ、山の方を見上げる。それを見て、諭吉が同じように見上げる。次々と視線を向けられる視線は、皆、里のすうせいを見守っていた。

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