第八夜 1

 鼻にかかったような接客の声が響く。マニュアル通りに動く店員はなんだかロボットのようだ。そのロボットに差し出されたパフェに、ゆきはおもいっきりかぶりついた。


「お疲れ様でした~!」


 ようやく一週間の補習が終わり、「打ち上げだ」と称して、ゆきは花蓮と共にファミリーレストランに来ていた。

 「イチゴミラクルメガスイートデンジャラスパフェ大盛り、君の甘いささやきを添えて」なる怪しげなパフェを注文し、顔が隠れるほどの大きさの生クリームを、まずは大きくひとさじ口に入れる。疲れた体と甘い物の相性は抜群だ。

 花蓮はあっけにとらつつもほほえみながら、標準的なサイズのパフェを味わっていた。


「この、おサボり魔さんがよくがんばったよね~。うんうん!」


 ゆきが自分で自分を褒めると、苦笑しつつ、花蓮が穏やかに言った。


「補習もこなして、真との稽古も休まなかった。以前のゆきなら考えられなかった」


 真、と聞いて、手が止まってしまった。


「最近、気になることがあるんだけど」

「何?」


 花蓮がぱくりと一口食べながら聞く。ゆきは真似るように自分の鼻をつまんだ。


「真、元気ないねぇ」


 稽古をつけている最中でも、ふと何かを考え込んでいる時がある。「隙あり」と思い斬り込んでいっても、必ずはじき返されるのだが。


「そう……。どうしたんだろうね。あんまりそういうところ、見せないタイプなんだけどな」


 リーダーで、ムードメーカー的存在の真は、あまり暗い顔をすることがない。いつも誰かの背中を押す人である。


「今度、聞いてみようかな」


 そうつぶやくと、それも良いかもねと花蓮が頷く。二人の引っかかりは店の喧噪にかき消されていった。 




 ビルの谷間に外灯の光は届かない。集まり始めた人影から身を隠し、じっと目を凝らす。


「手はずは整ったか」


 人影は黙って頷いた。


「じゃ、行くぞ」


 そう言うと、踵を返す。二三歩足を進めたところで止まった。


「おい――お前にも協力してもらぞ」


 飛び退こうとしたが、すでに意識が遠のいていた。

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