第五夜 2

「立て。こいつらに任せておけん。こっからはオレが相手する。もう二度と〝長〟になりたいと思わんようにな!」


 言うと同時に飛びかかる。

 かろうじて、飛び退く。


 目が慣れてきたのか、動きが分かる。ゆきはまた飛び退き、平太の空振りを見届けた。

 必死に逃げ回っていると、真の足元に木刀が転がっているのを見つけた。滑り込むようにしてつかみ取ると、ゆきは見よう見まねでかまえた。


「――こい!」


 交える木刀の音がこだまするとすぐ、ギリギリと互いの刃がきしむ。押し返され、なぎ払われるのをよけると、再び刃を交えた。

 向かってくるこの相手を打ちすえたいという、ドロッとした本能に体が反応しているのが、不思議だった。


 何度打ち合っただろう。お互い距離を取り、肩で息をしていた。


 伝う汗。

 痛む体。


 切れた口元を気にしながら、それでもゆきは、平太から目を離さず、ニヤッ、と笑みさえ浮かべる。――こんなに心が集中するのは、初めてだった。


 すると、平太が青白い炎に包まれ、とらじまの猫の姿と化す。――耳がピクリと、動いた。


「――かいごん


 急に膝から崩れ落ちた。

 地が揺らぐ。

 森が回る。

 回る木々が「お前は誰だ」と叫び、あちらこちらから襲いかかる。


 がくがくと地面にしゃがみ込み、頭を抱えたゆきは、こみ上げてくるとゴホッと何かを吐きだした。


「平太! 仲間同士での能力の発動は御法度でしょ!」

「かまうか! こいつは仲間ちゃう!」


 平太の怒鳴り声と共に、森はさらに回転を速める。


 その時、遠くから真を呼ぶ声が聞こえた。気がそれたのか、森の回転が止んだ。声は近づき、あっという間に山を駆け上がる。手にしているヒラヒラしたものに、スン、と鼻を鳴らすと、真は眉をしかめた。


「大変や! コレ見てくれ!」


 駆け上がってきた男が、一枚の写真を差し出した。そこ写っていたのは、小さな女の子がいすに縛りつけられ、ぐったりとしている姿だった。


「かんな!」


 写真は地蔵の祠のそばに、気を失ったかんなの母親とともに置かれていたという。


「裏に何か書いてある」


 写真を裏返すと地図が描かれていた。それは京都市内の廃校跡を示しており、そばには「真名井ゆき一人で来い」と記されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る