第四夜 4

 真の先導で屋敷の庭に降り立つ。そのまま、辺りを取り囲む森に足を踏み入れる。裏にそびえる比叡山と屋敷とを遮るものはなかった。


「出入り自由なんだね」

「お寺さんに了解は得てる。延暦寺の座主ざすだけ、ウチのことを知ってるねん」


 屋敷と緑豊かな自然に目移りしているゆきに、銀次はほほえんだ。


「親戚さんが自由に行き来できるようにな」


 藤助が答える。ゆきははしゃいでいた自分を少し、恥じた。


 ザクリ、ザクリ、と下草を踏みしめながら歩いていると、木の上から、ねめつけるような声がした。


「そいつか。『真名井ゆき』いうんは」


 見上げると、少し大きな耳をした少年が、苦々しげな表情で五人を見下ろしていた。


「平太」

「何してんねん。降りてこい」


 銀次と真が口々に声をかけると、平太はフン! と鼻を鳴らした。


「オレ、認めへんで。そんなヤツが〝長〟やなんて」


 ええから降りてこい! と真に引きずり降ろされる。まるで猫のように首根っこをつかまれた状態で、ゆきの前に連れてこられた。


「ほら! ちゃんと挨拶せんかい!」

「いやじゃ!」

「初対面の人には『初めまして』やろ!」

「誰が挨拶の仕方、教えろ言うた!」


 真と平太の続く押し問答を横に、銀次が代わりに説明を始めた。


「コイツな、とらへいいうねん。ボクら若手のなかでは若い方」


 やれ! いやじゃ! の攻防戦の隙をついて、平太がゆきに吐き捨てた。


「お前、何ができるねん! なーんの訓練もせんと、のうのうと生きてきたくせに! 覚醒したからって〝長〟か! ふざけ……!」


 言葉が終わるのを待たず、乾いた音が森にはじける。ゆきは、藤助が人を叩くのを初めて見た。


「いい加減にしろ。お前だって、ゆきの事をなにも知らねぇだろ」


 聞いたことのない藤助の凄みが、背筋をゾクッと振るわせる。ちっ、と舌打ちをすると、平太はふてくされたまま、屋敷の方へと走っていった。


「悪い子じゃないのよ」


 花蓮がゆきにわびると、銀次がゆきに振り返った。ただ、細い目はいつもと違い、鋭かった。


「平太の言うことにも一理ある。キミが何の訓練も受けてないのは確かや。力すらわからへん。このままやったら、狼に『喰ってください』言うてるようなもんや」


 刺すような視線にたじろぎ、ゆきは思わず下を向いた。


「だから、オレらはここに連れてきてん。訓練するのにはちょうどエエからな」

「どうする? 言われっぱなしにしておくのか?」


 ゆきは初めて、事の重大さを理解した

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