第三夜 3

「――その妹、高野幸子は猫に変化へんげするようになったの。この幸子が私たちの祖先なの」


 日は沈みかけていた。静まりかえった保健室には、グランドで練習する野球部の声がかすかに聞こえるだけだった。


「私たちってことは……」


 藤助がうなずく。


「私も花蓮も変化する」


 ゆきはがばりと振り返り、花蓮を見る。ごめんね、と唇がかすかに動いていた。


「でも、それがなんで、千秋がケガすることに結びつくんです?」


 思わず藤子をにらみつけてしまった。藤子は一口コーヒーを含むと、そのまま遠くに目を凝らした。


「姿形が変わる一族が私たちだけじゃない、ってことよ」


 三人の目が鋭く、冷たい光を宿した。


「死んだ小野秀直おののひでなおには一人、息子がおってん。そいつが呪いの余波を受けて、狼になれるようになったんや」


「じゃ、さっきのも、前のも……!」


 真が頷く。


「長い争いやなぁ」


 半ば閉じられたカーテンの向こうから自嘲を含んだ声がした。すると、青白い炎が現れ、真がすぐさまそばに寄る。その手を借りながら銀次が体を起こした。

 ベッドに腰掛けると、振り落とされたときにこさえた紫色の打ち身が、背いっぱいに広がっているのが見える。ずん、とした鈍い痛みが伝わってくる気がした。


「キミは狙われてる。生まれが特殊やからや。だから、身を守るために、能力が格段に上がる変化を早く覚えてほしかったんや」


 痛みなどどうでもいいかのように、細い目を和らげてニコニコ笑う。その姿を見るといたたまれなくなり、透けるように白いゆきのうなじが、かくんとあらわになった。


「納得、いったか?」


 大きく首を横に振る。


「いくとかいかないとか、わかんないよ。でも、何も知らないのは、無責任だと思った。それに……」

「それに?」


 そこまで一息で話すと、顔を上げて、ゆきは無理矢理笑みを作った。


「誰にだって弱みの一つや二つはある。弱みを強みにできたほうがええ……やろ?」

「……へたくそ」


 真の軽口が、ゆきの笑みを和らげた。


 ついたての向こうが、もぞっと動く。千秋が目を覚ましたようだった。


「さぁ、病院に行ってレントゲン撮ってもらわなくっちゃね」

「なぁ、藤助さん、その格好いつまでやるの?」


 趣味よ! と言う大柄美女の先導で、五人は保健室を後にした。

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