第二夜 4

「――かいぎょう


 遠くで声が聞こえたとたん、男達のいる景色が歪む。それと同時にはじける鈍い音。うめき声と共に男達がつぎつぎと倒れていった。


「立てるか?」


 振り返ると、真とシルバーグレーの猫が男達をにらみ上げていた。


「真……さん」


 真がゆきを立たせ、銀次が辺り一帯ににらみを利かせる。真が千秋を抱えて立ち去ろうとしたとき、一人の男がうめきながら起き上がった。


「くそっ……逃がすかっ!」


 銀次が吹いた含み針が、ゆきに飛びかかろうとする男の目に刺さる。だが、片目を抑えながらも、男はなお飛びかかろうとする。伸ばした手に銀次が噛みついた。


「早よ行き!」

「このやろう!」


 男はそのまま銀次を地面に叩きつけた。


「銀次!」


 半ば放り投げるように千秋をゆきに預けると、真は銀次のそばに駆け寄った。行け、と目配せされると、うなずき、ゆきは千秋を背に負うようにして踵を返した。



 逃がせばこっちの身がヤバイ。色白の女を追いかけようとしたら、「行かせるか!」と男が立ちはだかる。鼻筋の通った嫌みな笑みを、片目の男はにらみつけた。


「人間のままでいいのか? お得意の力が使えねぇぜ」

「かまうな。オレはこの方がやりやすいねん」


 男は「ちょっと待っとけ」と、路肩にシルバーグレーの猫を寝かせる。立ち上がると、すっと背筋を伸ばした。噴き出される気配に怒りを帯びている。片目の男は自らの拳を握り直した。


「上等だ!」


 飛びかかったとたん、男の姿を見失う。宙を舞っていることに気がついたのは、意識を失う前だった。

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