第四話 若菜の逃避

 僕のクラスに、転入生が来た。こんな時期に、珍しいなぁ。

「それじゃあ、櫻井は…高橋の隣が空いているから、そこに座れー。授業始めるぞー」

え、僕の隣…。凄く明るそうな子だから、僕の苦手なタイプだ。

「高橋くんって言うの?よろしくね」

「あ、うん」

変な返事になってしまった。でも今後彼女と関わることもないだろうから、別に気にしない。大人しくしていよう。今までと、何ら変わらないのだから。僕には、人と関わらないで過ごす方が、ずっと向いていると思うから。

 普段と同じように授業を受けて、昼休みの時間になった。お弁当箱を開こうとしたとき、不意に手が止まった。

「ねぇねぇ櫻井ちゃん。好きなドラマとか、ある?」

「笑ちゃんって呼んでいい?」

隣の席に、人が集まってきた。人が苦手な僕にとっては、辛い空間でしかない。息ができないくらいに苦しくて、何も考えられずに立ち上がる。ガタン、と椅子が倒れた音が聞こえたが、振り向かずに走り去った。

 結局、屋上まで来てしまった。いつも辛いことがあると、ここに、逃げ込むようにして来るのだ。僕のお気に入りの場所。お腹が空いたなぁ、と思ってポケットに入っていたキャンディーを取り出す。宙に放り投げてから、カラン、と音をたてて口に入れた。ミントの香りが口いっぱいに広がって、嫌なことを全部忘れられる。お弁当が惜しいが、今教室に戻ることはできないから、ここで時間を潰そう。日光が心地よくて、瞼を閉じた。それからの記憶は、ない。

「…くん、だよね?」

突然、耳元で声がした。眠い目を擦って声の主を探す。あ、転入生だ。僕に何の用だろう。

「隣、座ってもいい?」

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