ローレンスと死神の鎌 後編

 ほんで、また半年が経った。

 結局耐えきれなくなったワイは、エストの顔の件をウェンディに相談した。


「それなら早めにリカルド様に言いに行って許しを貰った方が良いだろう。下手に時間が経つと変に勘ぐられてしまう可能性がある」


 全くその通りや。何も反論があれへん。

 ただ、言い出しづらかったから、誰ぞに背中を押してもらいたかっただけや。


「ローレンス。一つだけ聞かせて貰って良いですか?」


「かまへんよ。なに?」


「貴方。エストの事はどう思っていますか?」


「どうって、何がや」


 エストへの気持ちは隠して伝えたつもりやったけど、いきなり核心を突かれた。

 せやけどワイかて商人、その程度で動揺はせえへん。


「いえ、それなりに貴方という人となりを分かっているつもりです。一文の得にもならないのにここまで必死になるのは、エストさんに好意を抱いているからじゃないかと思いまして」


「何言うとんねん。リカルド様に恩を売ればそれだけ返ってくるから頑張っとる。それだけや」


「そうですか」


「そうや」

  

 わははとわろて誤魔化す。


「それに、仮にそうだとしてもや。エストがワイに、ゼニ抜きで好きになってくれると思うか?」


「それは、月の女神アルテミス様の力をもってしても難しいでしょうね」


「それは言い過ぎや。ドつくぞ自分」


 そう言って、2人で笑い合った。

 この日は一晩ウェンディの屋敷に泊めてもらい、翌朝屋敷を出た。


 馬を走らせ、山を越え。宗教国家テミスから、商業国家イーリスにある自宅まで帰る。

 帰って早々、白い仮面を被りメイド服姿で掃除をしとるエストに声をかけた。


「ちょっとええか?」


「はい。どうかいたしましたか?」


「その……リカルド様にエストの顔の事を伝えに行こうと思うんやけど」


「分かりました」


 即答やった。

 ワイの言葉に、エストはいつも通りの抑揚のない声で答えた。

 もしかしたら、顔の件で殺される可能性だってある。もう少し葛藤する物やと思うたのやけど。


「エストはええんか?」


「はい。ローレンス殿が決めた事なら、私は従うまでです」


「さよか……」


 もしここで、エストが少しでも怖がったり嫌がってくれれば、それを理由にワイは思いとどまれたかもしれへん。

 せやけど、ここまで覚悟を決められているんや。


「エスト。安心せぇ。ワイが絶対に守ってやるさかい」


「? ローレンス殿の護衛なので、私が守る側ですが?」


「あー、もう。ここは『はい』と言えばええねん」


「はい」


「それとその仮面は目立ちすぎる。フードを深くかぶって顔隠すようにしてや」


「はい。分かりました」


 それから準備をして、エストと共に屋敷をでた。

 効果はあるか分からへんが、大量の貢ぎ物を馬車に乗せて。

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