ローレンスと死神の鎌 中編
「はぁ……どないしよ」
書斎でワイは、頭を抱えてうんうん唸る。
素直に言うべきか、それとも隠し通すべきか。
「どう致しましたか?」
抑揚のない声で、ワイを心配するメイド服を着た白い仮面の少女。
サラサラとした亜麻色の髪はその1本1本が艶めき、禁欲的なはずのメイド服は整ったプロポーションにより色気を感じられる。
仮面を付けていても、相当の美人だと伺わせる少女。彼女こそが今ワイの頭を悩ませとる張本人や。
「なんでもあらへん。それよりもエスト、
「しかし……」
エストは単調な声で困ったように返事をする。まぁそれも仕方あらへん事や。
「かまへんかまへん。今ここにおるのは事情を知っとる人間だけや。それに今日は来客の予定もあらへん」
「……わかりました」
ワイの言葉に観念したようで、エストは白い仮面を外した。
やや長いまつ毛にぱっちりとした瞳、せやけど無表情なせいで幼い感じがあまりしぃひん。
不愛想ながらも可愛いく整った少女のその顔は、誰がどう見てもパオラ様と瓜二つの顔をしとった。
ほんで、それが今ワイの頭を抱えさせとる問題や。
パオラ様と同じ顔を持つ少女。彼女を外の世界に出したらまず間違いなく問題になるやろう。
他人の空似と言うレベルを超えとるのや。
っちゅうのもそれだけ似てるのは偶然やのうて、顔を無理やり作り替えたからや。
彼女の役割はパオラ様を狙う暗殺者を炙り出すための囮役。その為に顔を作り変えてパオラ様と同じ顔にしてあるのや。
ゆえに、そんな彼女に興味本位で近づく人間は必ずおるやろう。
もしかしたら、パオラ様と内縁の者かもしれへんと。
下手に調べ上げられて、正体が死神の鎌でしたとバレたらエライ事になる。
そもそも死神の鎌は王族御用達の暗殺者集団。せやけど噂だけで実際に存在する証拠がないから誰も咎められへんかった。
それが実在してんとなれば、リカルド様やパオラ様にあらぬ嫌疑をかけられて、最悪革命だって起こりえる。
「ローレンス殿は、やはり私の顔の事で悩んでいられるのでしょうか?」
「別に気にせんでええ」
「わざわざ悩まずとも、私の顔を変えれば解決する問題なのでしょう?」
わざと聞こえるように大きなため息を吐く。
顔を変える……か。
簡単に言いはるが、それは簡単な事やない。
他の死神の鎌のメンバーで、過去に顔を変えようとして失敗し、無残な傷跡が残っとるんを見たことがある。
それに、一度変えた顔をまた変えるのは相当難しいらしい。
もしエストが顔を変えようとすれば、ほぼ確実に失敗するだろう。と他の死神の鎌から聞いたことがある。
「ええか? ワイはリカルド様にアンタらを幸せにするように頼まれたんや。妥協やない本物の幸せを」
「はい」
「せやから、下手打ったら一生モノの傷が残るかもしれへんのに、顔を変えるなんて手段を使うのは愚策も愚策や。覚えとき」
「はい。わかりました」
一瞬だけ、エストの無表情が崩れ、笑ったような気がした。
「どうか致しましたか?」
「なんでもない」
……はぁ、幸せがどうとか言ったけど、そんなのは嘘や。
本当はお前に惚れてるだけやねん……。
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