26.平凡令嬢、軍を味方につける。
-パオラ視点-
ついに、ここまで来ました。
王都までは、もう目と鼻の先です。
ここまで来るのは、決して楽な道ではありませんでした。
数が多いとはいえ、戦い慣れていない民衆です。道中で傷つき、倒れる者も少なくはありませんでした。
苦難を乗り越え、やっとここまで来たというのに、目と鼻の先にある王都が今は少し遠く感じます。
目の前には王都への侵入を妨げるように、王国軍が展開しています。
数で言えば私達の方が上でしょう。ですが、実際に戦えるのは10分の1にも満たしません……。
純粋な戦力で言えば、良くて互角。実際は、あちらの方が上でしょう。
「これは……王国軍を全軍率いているのか!? でも、そんな事をすれば」
「今まで来た村々が、傭兵崩れの連中に任されていた理由は、このためだったのでしょうね」
独り言のように横で驚くリカルド様に、私は話しかけました。
リカルド様が驚くのも無理はありません。王宮の防衛のために全ての軍を集中させれば、他の町や村の警備が疎かになります。
自分たちさえ良ければそれで良い。そう言わんばかりの行動に、もはや呆れを通り超えます。
全く。これでは私達の進行を防げたとしても、国として立ち行かなくなるでしょう。
……ですが、こちらとしてはそれが手痛い一手であるのも事実。
ここに来て撤退をすれば、士気に著しい影響が出るでしょう。
そうなれば、不信感を持たれ、群衆はバラバラになり、その怒りは私達へ向けられます。
結果内輪揉めになり、最後は何も残らない。
「これでは双方の破滅しかない」
ギリっと奥歯をかみしめるように、リカルド様が言います。
どうすれば、そんな風に迷っている時間はありません。
そもそも、相手は騎馬兵、機動力の差を考えれば撤退すら難しいでしょう。
「リカルド様。お覚悟を決めてください!」
「……そうだね。元より険しき道。今更引き返す事なんて出来る訳が無い!」
そう言って笑いかけるリカルド様の顔に、余裕はありません。
他の方々も青い顔をしながらも、それでも自分を奮い立たせるように武器を掲げています。
出撃のタイミングを計っていると、一騎の兵がこちらへ向かってきました。
こちらへ降伏勧告をする為でしょうか?
「私の名はアンソン。息子のロウルズに話がある!」
以前ウェンディ様のお屋敷でお会いした、王国騎士団団長のアンソン様です。
彼が単騎でこちらへ来たことにより、周りに緊張が走りました。
「王国騎士団団長様が1人で来るとは、良い度胸じゃねぇか!」
ゴードン様が武器を手にすると、周りの者も殺気立ちました。
「待て!」
マルク様が彼らを制止するように前に立ちます。
「なんでだよッ! 今なら指揮官を殺れる絶好のチャンスだぞ!?」
「ロウルズ。どうするか君が決めるんだ」
マルク様の言葉に、悪態をつきつつもゴードン様は素直に従い、殺気立った周りの者を
「分かった。父さん、僕に話と言うのは?」
「ロウルズ。軍に戻ってこい」
アンソン様の問いに、ロウルズ様は首を横に振ります。
「それは出来ません」
「何故だ?」
「僕は彼らと行動し、色々な物を見てきました。ジュリアン様やカチュア様の嘘の為に滅ぼされた村を、虐げられた人々を」
「その結果が反乱か?」
「はい。たとえ何を言われようと、僕は僕の名にかけて、この
しっかりと、自らの意見を述べ、父を相手に睨むように見据えるロウルズ様。
私達は2人を黙って見守りました。
「良いだろう」
アンソン様はくるりと身を翻しました。
「師団長
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
え?
ロウルズ様が師団長?
どういう事か確かめるようにロウルズ様に振り向くと、ロウルズ様も驚き目を見開いています。
首をブンブンと横に振り「僕もわからない」とアピールしています。
「全軍反転!」
驚く私達を気にもかけない様子で、アンソン様は大声で兵士たちに指示を出していきます。
「ウーフ、ボウゼンは元より、全軍が納得しての事です。さぁロウルズ様、指示を」
「いや、父さん。ロウルズ様って……」
「ロウルズ様。今は
最初にロウルズ様に父と言ってきたのは貴方じゃないですか。と突っ込むのは野暮ですね。
いまだに戸惑うロウルズ様の背中を、そっと押します。
「……貴様たちの盾は何のためにある!」
一度深呼吸をして、覚悟を決めたようにロウルズ様が問いかけました。
「民を守るために!」
「貴様たちの剣は何のためにある!」
「民に害する悪を打つために!」
「この戦い、敗れれば後はない。我らが正義を今こそ示す時だ!」
「ウオオオー!!!」
ロウルズ様が、くるりと周り後ろを向きます。
「そして貴様たちも、生まれや家柄が違えど、今は同じく騎士だ!」
「ウオオオー!!!」
「我々の後ろに居るのは、戦うことも出来ない民達だ! 彼らの平和の為に、いざ進軍ッ!」
先導を王国騎士団、その左翼を近衛騎士団、右翼を魔法騎士団が展開しています。
私達は彼らの後に続きます。
王都で暴動を起こさぬように細心の注意を払い。私達は王宮までたどり着きました。
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