14.非凡太子、愚策に愚策を重ねる。
-ジュリアン視点-
それは死神の鎌を送ってから2日後の事だった。
死神の鎌から、定時報告が途絶えたのだ。
夜の定時報告を受けるために部屋で待機をしていたのだが、そろそろローレンス邸に着くという連絡を最後に、定時報告は完全に途絶えてしまった。
もしかしたら、ローレンス邸で戦闘になり、想定外に遅れているだけかもしれない。最初はそんな風に楽観視して待っていた。
段々と落ち着かなくなり、つい部屋の中を熊のようにウロウロしてしまう。
(……。もしかして、こうして待っている事自体が間違いなのではないだろうか?)
消えた商業都市に、2人の人影があったと聞く。もしかしたら、その片割れは、やはり弟だったのではないだろうか?
いや、そうだ! きっとそうだ! だからあの時、カチュアもあれだけ取り乱したのだろう。
考えてみれば、死神の鎌はどんな時でも仕事と時間に忠実だった。
もし難航していたとしても、連絡をよこすだろう。失敗したとあれば、当然逃げてくるはず。
なのに誰も来ないという事は、全滅させられた可能性が高い。
正面からは私の剣も受けることが出来なかったと嘲笑ったが、隠密においては右に出るものは居ない。
そんな連中を逃がさずに、全滅させられるのなど、弟以外に考えられんッ!!
となると、こんな所で待つのは愚策も愚策!
私は急いで部屋を飛び出した。
「アンソン団長は居るか!?」
執務室に向かう最中に、声を張り上げ叫びながら歩く。
本来なら誰かを呼び出すなど、下々の者にやらせるべき事なのだが、今は一刻も争う事態だ。そんな事は言っていられぬ。
私の様子に、皆が恐れた様子で「ジュリアン様。一体いかがなさいましたか?」と口々に尋ねてくる。
「誰でも良い。各騎士団団長に執務室へ来るよう伝えてくれ。それと騎士団はいつでも出陣できる準備をするように」
「このような夜更けにいかがなされましたか? ジュリアン様。」
「ザガロ宰相か。丁度良い、貴様もついてまいれ」
ザガロの顔を見て一瞬ギョっとした。
目の下には大きなクマが出来ており、明らかに不健康な顔をしていたからだ。
というのも、私が仕事を丸投げしているせいで、ザガロの仕事量が大変な事になっていると言う噂程度なら宮中で耳にした覚えはある。
二重の意味で申し訳ない気分になったが、もう少しだけコイツには頑張って貰わねばならない。
「ははっ。して、どのようなご用件で?」
「手短に話すと、我が国に攻め入ろうとする不届き者と、それを手引きする者が居ると聞いてな」
「恐れ多いのですが、発言宜しいでしょうか?」
「うむ。構わぬ」
「我が国の騎士団は、諸外国にまで名を連ねる精鋭。そこにジュリアン様に今やカチュア様まで居りまする。それなのに攻め入ろうとする者など居るのでしょうか?」
ザガロの意見は
だが、弟の場合においてはあり得るのだ。
「あぁ、私も疑ったさ。とんだ酔狂者だとね」
はははと私が笑うのに合わせ、ザガロが愛想笑いをする。
「だが、これは今一度我が国の力を周りに見せつけておくには、丁度良い機会であるとは思わぬか?」
「さようでございますね」
そんな事を話しているうちに執務室に着いた。
ドアを開けると、既に王国騎士団団長アンソン。近衛騎士団団長ウーフ。魔法騎士団団長ボウゼン。
それぞれの3つの騎士団の団長が揃っていた。
「急に呼びたてをしてしまい、すまない」
私がそう言って椅子に座ると、4人はそれぞれ胸に手を当て、深くお辞儀をした。
「実は放っていた密偵から、諸外国で怪しい動きがあると聞いてな。近々ヴェラを攻め込もうとする輩と、手引する輩が居ると聞いてな」
声を上げたのはアンソンだった。
「そ、それは真ですか!?」
「あぁ」
こんな風に冷静を装っているが、私も内心は穏やかではない。
何故、あの時私は死神の鎌だけに任せてしまったのだろうかと後悔している程だ。
だが、そのおかげで弟の狙いも予想がついた。
アイツは一人ではヴェラを攻め入るだけの力を持っていない。
だから他の国の商人に力を借りに行ったのだろう。カチュアの懸念通りだ。
だが、上手く行っていたとしても、奴はまだローレンスの力を借りただけに過ぎない。
ならばこちらが先回りをして、奴に協力しそうな人物を潰すまで。
死神の鎌とは別に、密偵で反政府組織レジスタンスの動向はチェックしているから、協力しそうな人物自体は目星がついている。
「ローレンス含む商会の会頭3人、それに宗教国テミスにいる大司教ウェンディ。こいつらをひっ捕らえよ。場合によっては殺しても構わん」
「ジュリアン様、お待ちください」
ザガロが慌てて口を挟む。
「国境はどうするのですか? もし軍隊で越えようものなら、国際問題になります!」
「全てはヴェラ王国ジュリアンの意思だと伝えろ。悪いようにするつもりはない。反抗的な者や従う意思がない者は皆殺しにするのだ。分かったな!」
私の言葉に、団長3人はポカーンとした様子で口を半開きにしている。
「分かったな!」
「「「は、はい!」」」
「だったら今すぐ連れていく部隊を決めて出発をしろ!」
蜘蛛の子を散らすように、団長3人は走り去っていった。
各々が何か言いたげな顔をしていたが、正直私自身も強引ではないだろうかと思わなくもない。
だが、ここで悪戯に時を消費すれば、それだけリスクが大きくなっていくだけだ。
「ジュリアン様……」
「カチュア……。何故ここに?」
「いえ、声が聞こえたので……それで話を聞いてしまったのですが、その……」
「すまないカチュア。今は少し私も余裕が無いのだ。だから、先程の私の命令について、君の率直な意見が聞きたい」
「ジュリアン様。私は最高の選択をしてくださったと思いますわ!」
「本当か!?」
「はい。私はジュリアン様を信じます」
「ほっほっほ。お二人方がそう言うのでしたら、本当に何か大変な事が水面下で起きてるのでしょうな」
カチュアのお墨付きも得た。これで後顧の憂いは無くなった。
ハッハッハッハッハ! 私だってやれば完璧にできるじゃないか!
これでもう、何も恐れる必要は無くなった!
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