第14話「告白作戦その3」

 ゾフィさんに模擬戦を挑んだり、スキールさん達とギルドの依頼をこなしたりの毎日だ。

 サラはアインへの飛行船が出る日を調べるために、船着場に通っているが中々来ないようだ。

 定期的に来ているわけじゃないから、次いつ来るのか分からないとボヤいてた。



 ☆ ☆ ☆



 最近は、ゾフィさん達のパーティと行動を共にすることが多い。

 冒険者ギルドが、スキールさんの行動に付き合える僕らも一緒に受けれる依頼を優先的に回してくれているというのも大きい。

 まぁ、どの依頼も労力や金額に難があるものばかりで、優先的に回してもらわなくても残ってそうな依頼ばかりだけどね。

 そういった依頼を見て、人的被害が出る危険があるけど誰も受けないような依頼を買って出るスキールさん達は、ギルド職員達からは好印象を持たれているようだ。

 今はこうして、街の外にある平原で腰を下ろし、僕らは職員さん達から差し入れで頂いたお茶とお茶菓子を楽しんでいる。

 依頼を終え、外で模擬戦をして、休憩中だ。


「そういえば、ゾフィさんは弱点とかはありますか?」


 僕らは何度もゾフィさんに挑んだが、戦績は宜しくない。

 いまだにゾフィさんの弱点らしい弱点は、まだ見つかっていない。

 ならばと、僕は玉砕覚悟で直接聞いてみた。聞くだけならタダだしね。


「んー、そうだな。アタシの弱点というなら『男』かな。実は男性恐怖症なんだよ」


 それにしては、スキールさんはともかくとして、僕とも普通に話している気がするけど。


「あぁ、もちろん今はある程度克服出来たさ。でも、やっぱり知らない男の前に立ったりするのは苦手かな」

 

 昔はそれで苦労したそうだ。何せ勇者は男しか居ない。

 ランクが低いうちは勇者がパーティに居ないと、宿の割引や勇者パーティ用の依頼が受けられない。けど男性恐怖症だから勇者と組めず、それが原因でパーティから追い出されたりしたとか。

 そんな時、ゾフィさんに声をかけたのがスキールさんで、話しかけても俯いたままのゾフィさんに「別に俺を無視してくれても構わない。代わりにケリィと話してやってくれ」と言ってパーティに誘ったそうだ。

 スキールさんは、ケリィさんが少々人見知りなのを見かね、他人に慣らすために同じように人見知りしているゾフィさんに声をかけた。人見知りなら変に干渉してこないので、慣らすには良い相手だと思い。

 ゾフィさんのそれは人見知りではなく、男性恐怖症と知ってからは、依頼を受けたり店や依頼主との会話をスキールさんが引き受けるようになったのだとか。


 こうして聞いてみると、スキールさんはけっこう男前な行動しているな。

 意外にも、その話を1番真剣に聞いているのはフレイヤさんだった。時折頷いたりして聞き入っている。


「ゾフィさん。それで男性恐怖症はどの程度まで克服出来たか聞いてもよろしいでしょうか?」


 あぁ、そうか。自分の人見知りと重ねて聞いていたわけだ。

 原因は違えど、自分と同じように、他人と上手く話せないゾフィさんがどうなったか気になるのだろう。


「結局の所慣れだね。今も苦手ではあるが、知らない相手でも多少話すくらいは出来るようになったさ。それとコイツの夜の相手も出来るくらいにはね」


「夜の相手、ですか?」


 フレイヤさんはゾフィさんの言った言葉の意味が理解できないようで、首を傾げ、その様子を見てゾフィさんは下品な笑みを浮かべている。酒場でウェイトレスの女性のお尻を触ってイタズラしている冒険者達が、こんな感じの笑みを浮かべてたっけな。

 数日話していて分かったことだけど、ゾフィさんは事あるごとに話を下に持っていこうとする。それもとびきり下品な。

 サラは意味がわかっているみたいで、顔を赤くしてそっぽを向くけど、アリアやリンやフレイヤさんは意味がわかってないから、どういう意味なのか僕に聞いてきたりする。とぼけるのが大変だから勘弁してほしいところだ。


 今だって、フレイヤさんが意味がわからず、アリア達を見るが、アリア達も意味がわからないといった様子でキョトンとしている。サラは呆れた様子で手を払いシッシッといった感じで、こっち見るなアピールをしている。

 となると、話は僕の方に飛んでくるわけで。


「さぁ、僕もわからないな」


「エルク本当にわからないのか?  ん〜?」


「やめてくださいよ。それに絡み方が完璧におじさんですよ」


 なんとかしてくださいと、スキールさんに視線を送ってみる。

 パチっとウィンクで返された。だめだこりゃ。完全に諦めてる。


「そういって、気持ちいい事してるんだろ?」


 あぁもう、この人本当に苦手だ。

 猥談わいだん好きすぎじゃないですか?

 ……まぁ僕も前にスキールさんの猥談聞き入ってたけどさ。

 とはいえ、僕はアリア達とそういう関係になるつもりはない。ここはハッキリと。


「した」


 したって、アリアさん? 何を言ってるんですか?


「エルクに気持ちいい事、した」


「詳しく! 何をしたのか詳しく!」


「私もしましたわ」


「おうおうおう。なんだよエルク、お前大人しそうな顔して、やる事やってるんじゃないかよ」


「違いますって、スキールさん親指立てて見てないで、止めてくださいよ」


 ゾフィさんの、人差し指と中指の間に親指を入れた握り拳は、この際見て見ぬ振りだ。


「リンもしたです」


「えっ?」

「えっ?」


 リンの言葉に、ゾフィさんとスキールさんの笑みが固まった。

 2人はリンのつま先から頭のてっぺんを見た後に、僕を見た。

 違う! 誤解だ!


「リ、リンは僕と同じ15歳だから!」


「いや、中身じゃなくて見た目の問題じゃ」


 くっ、正論だ。

 って違う、そもそもの勘違いを正すべきだ。

 年齢や見た目がどうこうじゃない。


「アリアとフレイヤの3人がかりでやったです」


 スキールさん、ゾフィさん、ケリィさんの3人が、僕の事を信じられないという目で見ている。

 ここにきて、やっとアリア達が何の話をしているのか分かった。

 前にしてもらったマッサージの話だ。

 この後、必死に何度も説明して誤解がとけた。

 その様子をみて、お腹を抱えて笑っていたサラには、今度なにか仕返しをしてやろうと心に誓った。



 ☆ ☆ ☆



 街に戻ってきた。

 スキールさん達とは門で別れ、夕食の買い出しを終わらせた。


「エルク」


 宿への帰り道。唐突にアリアに話しかけられた。


「なに?」


「さっきゾフィ達と話してた内容、本当は何?」


「えっ……いや、だからマッサージの話だよ?」


「うそ」


 無表情のままじっと見つめてくるアリア。

 リンやフレイヤさんの視線も感じる。2人も気になっているのだろう。


「だからマッサージの話でしょ」


「うん。サラも言うようにマッサージの話だよ」


「……わかった」


 納得してないけど、聞いて欲しくない空気を読んでの「わかった」だ。


「そうだ。ちょっと日用品の買い出しがあったんだった。悪いけど先に宿に戻っててくれるかな?」


「わかったわ。じゃあ先に帰るから」


 そそくさと逃げるように、僕はアリア達と反対方向へ足早に歩いて行った。

 サラの助け舟でなんとかなったし、さっき笑っていた分は帳消しにしておこう。 

 とはいえ、すぐに戻れば怪しまれるだろう。とりあえず時間を潰してから帰ろうかな。


 そんな風に考えながら歩いていると、ゾフィさんが1人ふらふらと路地裏に入っていくのが見えた。

 顔色が悪そうに見えたけど、それなのにスキールさんもケリィさんも連れずにどうしたのだろうか?

 気になって追いかけた先に、ゾフィさんは居た。

 右手を壁につけ、もたれかかるようにしながら、ゲーゲーと吐いている。


「大丈夫ですか?」


 ゆっくり近づいて背中をさすった僕を、ゾフィさんは驚いた顔で見ていた。


「あっ。すみません」


 そういえば男性恐怖症と言ってたし、楽にするためとはいえ、いきなり体に触れるのは良くなかったか。

 慌てて背中をさするのをやめ、一歩引いた。


「えっ、なんでここに?」


「いえ、たまたま見かけて気になったので……ん?」


 そこで気がついた、彼女は左手をお腹に当てている事に。そしてお腹が膨らんでいる事に。

 食べ過ぎたり、太ったりでお腹が膨らむのとは、ちょっと違う感じの膨らみ方だ。

 これってもしかして。


「あの、もしかしてゾフィさん。妊娠しているんじゃないですか?」

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