第13話「告白作戦その2」
結論から言おう。ゾフィさんは強かった。
それはもう洒落にならないレベルで。
街でゾフィさんを見かけ、これはチャンスと模擬戦を申し出た。
それに対し彼女は二つ返事でOKをくれた。
心置きなく戦える場所として、街の外で模擬戦をする事になり、ゾフィさんに挑んだのだが。
アリア、サラ、リンがそれぞれ挑んでは、
ゾフィさんはまだまだ余裕がありますと言わんばかりに、ケラケラと笑っている。
強いというのは知っていたけど、これほどまでとは……
まず最初にリンが挑んだ。
辺り一面は特に何もない平原。リンお得意の『瞬歩』による相手の背後を取る戦法が活かせる地形だ。
腕力の無いリンにとっては、この上ない条件での戦いだった。
開始とともにリンが『瞬歩』をするが、移動したリンの真後ろにぴったりくっつくようにゾフィさんが立っていた。
「降参です」
その後、何度も『瞬歩』で引き離そうとするが、その度に真後ろに立たれ、リンは戦意喪失したようだ。一合も打ち合う事なく、リンは降参をした。
「次は私」
次に名乗りを上げたのはアリアだった。
ゾフィさんの前まで歩いて行き、入れ替わるようにリンが僕らの所に戻ってきた
右手に木刀、左手に盾を構える。いつものアリアの戦闘スタイルだ。
それを見て、ゾフィさんは両手に木刀を持った。2刀流だ。
アリアは盾を構え、左半身を前にして、盾で身を隠すようにしながら、まっすぐゾフィさんの元へ走る。
対してゾフィさんは動こうとしない。
アリアがあっという間に距離を詰め、右手を振り上げると同時に右手がブレた。『瞬撃』だ。
振り下ろされた木刀は、ゾフィさんの横を抜け地面に突き刺さっていた。
ゾフィさんの木刀は、それぞれアリアの首元で寸止めされている。
この状態では盾でどちらかを防いでも、もう片方が当たってしまうな。
「降参」
アリアは降参を宣言し、両手を下げた。
ちなみにこの時、速すぎて僕は何が起きたのかわからなかった。
ゾフィさんは左手に持った木刀の突きでアリアの木刀の軌道をずらし、軌道をずらされた事により思うように力が入りずらい所を右手に持った木刀で払うという海剣術『
いつもの無表情だが、落ち込んだ感じのアリアが戻ってきた。
落ち込んでいるといっても、ヴェル魔法大会の時の予選で負けた時ほどではないみたいだから、大丈夫だろう。
「アンタの仇、取ってあげるから見てなさい」
そう言って得意気に出たサラも一瞬で勝負をつけられた。
自らにはアンチアローをかけ魔法で作り出した氷やら石やらの障害物に当たらないようにする。そして自己強化の補助魔法。
ゾフィさんは『瞬歩』で一気に距離を詰めようにも、無理に『瞬歩』で近づこうとすれば『瞬歩』の勢いのままに障害物にぶつかり、下手をすれば大怪我を負いかねない。
普通に近づこうとしても、サラは身体能力を上げてるうえに、アンチアローで障害物に当たらず移動が出来るせいで追いかけることも出来ない。ゾフィさんは剣士なので、遠くから攻撃する手段もない。
魔法大会の時と違い、周りに壁がないからウィンドウォールの壁が四散しているのか、障害物は少々少なめだけど、それでも近接職に対して完璧な布陣だ。
だけど「どこからでもかかって来い」と言わんばかりに構えたサラの後ろに、ゾフィさんは立っていた。
周囲に浮いてる障害物を避けるため、高くジャンプして『空歩』と『瞬歩』で距離を詰めたようだ。
もしここが闘技場のように、周囲に壁で囲まれていれば、ウィンドウォールの風が四散する事なく、もっと密度の高い障害物を作り、空中からでも襲撃は出来なかったから勝てたかもしれない。
とはいえ、今回の模擬戦はゾフィさんの弱点を見つけるためのものだ。例えこれで勝てたとしても「魔法を同時に5つ発動させて戦えば勝てますよ」なんてアドバイスされても、何の役にも立たないだろう。
「アンタもやるかい?」
「やめておきますわ。
ちなみに僕は普通に負けた。
ゾフィさんは僕に合わせて、技は何も使ってこなかった。
僕らの完敗だ。
完全にこちらの土俵で戦ってもらった挙句、負けた。一切の言い訳が出来ない。
日が沈むまで僕らはゾフィさんに何度も挑んでみたけど、結局一本も取る事は出来なかった。
☆ ☆ ☆
宿まで帰ってきた。
適当に夕飯を済ませ、お風呂に入って、後はもう寝るだけだ。
ベッドに寝転び、今日の模擬戦を思い出し、考える。
(どうやったら、ゾフィさんに勝てるのだろうか)
スキールさんがどの程度の実力かはわからないけど、アリアやリンほどの実力ではないだろう。
なので僕がゾフィさんに勝てれば希望は出てくるのだけど、アリアやサラが本気を出して何度も負けてるのをみると、そんな希望は存在しない気がする。
「……」
「おわっ」
急に目の前に、ぬっといった感じでアリアの顔が出てきた。
考え込んでいたせいか、アリアが僕のベットに乗った事にすら気付かず、思わず変な声が出た。
「マッサージするから、うつ伏せになって」
「いや、僕は大丈夫だよ。それよりアリアの方が疲れてるだろ?」
「大丈夫」
アリアの何が大丈夫なのかはわからないけど、無表情でジーッと僕の顔を見て、テコでも動かないぞという感じだ。
「わかった。お願いするよ」
仕方ない。ここは好意に甘えよう。
「リンも手伝うです」
「あっ、私も私も」
リンが背中に乗り足踏みをして、アリアとフレイヤさんがそれぞれ脚をマッサージしてくれた。
荷物持ちで重い物を持ってばかり居た身体は、マッサージが終えた後はふわふわと羽のように軽く、浮いてるような気分になった。極楽だ。
「ありがとう。凄く気持ちよかったよ」
身も心もリフレッシュ。
マッサージが気持ちよすぎたのだろう、急激な眠気に襲われた。
ゾフィさんの対策を考えるのは、もう明日で良いか。
睡魔に身を委ね、僕は眠りについた。
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