第9話「依頼の手伝い」

 スキールさんが僕らを頼りにきたのは、依頼を終えて帰ってきた翌日の正午だった。思った以上に早かったな。

 そろそろ冒険者ギルドに向かうために、宿から出発する準備をしているところで、ドアのノックされる音がした。

 返事をしてドアを開ける。ドアの外にはスキールさんが一人で立っていた。


「エルクはいるか? 早速で悪いんだが手伝って欲しい」


 どうやら冒険者ギルドは今回見つかったヤドリギウツボが、他の場所にも生えている可能性を懸念し、緊急性の高い依頼として依頼を出した。しかし、誰も受けたがらなかったそうだ。

 それもそうだ。あるかどうか分からないヤドリギウツボを探し山に入らねばならない上に、ヤドリギウツボがあった場合、モンスターは引く事なくずっと襲いかかって来るのだから、誰も受けたがらないのは当然か。


「もしヤドリギウツボが他にも生えていたら、付近の村や集落は、最悪全滅させられる可能性もある」


 確かに。

 ヤドリギウツボに侵食されているモンスターは、いくら追っ払おうとも引く事はない。

 もし大量の侵食されたモンスターの標的にされれば、村や集落じゃひとたまりもないな。


「そうですね。わかりました、僕らも手伝います」


 一応サラ達の方へ振り返り「良いよね?」と確認をした。

 特に反対意見もないようで、頷いてかえしてくれた。


「ありがとう。ゾフィ達は冒険者ギルドに待たせてある。宿の外で待っているから、準備が出来たら教えてくれ」


 そう言って、スキールさんが出て行った。

 手早く準備を済まし、外で待っていたスキールさんに声をかけ、僕らは冒険者ギルドへ向かった。

 冒険者ギルドに入ると「おーい、こっちだ」と遠くから声をかけられた。

 男性のように短く刈りそろえた短髪の女性、ゾフィさんだ。隣にはケリィさんがおどおどしながら、こちらにちょこんと頭を下げて何か呟いてる。表情から察するに多分「すみません」だろう。

 2人はギルドに併設された酒場のテーブルに座って、テーブルには料理が並べられている。どうやら食事の最中だったようだ。


「思ったより早く来たな。今メシを頼んだところなんだ。悪いけど、ちょっと待っててもらって良いかい?」


「ゆっくりで大丈夫ですよ。その間に僕らはスキールさんと依頼を受けて起きますので」


 依頼を受けに行こうとして、後ろから服をクイっと引かれた。

 引っ張った主のアリアは、いつもの無表情で僕を見ている。右手をお腹に当てて。


「……僕とスキールさんで依頼を受けてくるから、アリア達は席に座って料理を注文して待ってて」


「うん。エルクの分は何を頼めば良い?」


「じゃあ、アリアと一緒のをお願い」


「わかった」


 アリア達を置いて、僕とスキールさんで依頼を受けて来た。

 依頼内容は指定された地域まで行って、周辺のブラウンジャッカルの討伐、及びヤドリギウツボの探索。可能な場合はヤドリギウツボを伐採するように書かれていた。

 依頼の報酬はあまり多くない。普通のブラウンジャッカルの討伐報酬に毛が生えた程度で、ヤドリギウツボの発見、伐採した場合にのみ追加報酬が支払われるという感じだ。


「ヤドリギウツボがどの程度発生していて、放置すればどれくらい被害が広がるかまだ不明な段階なので、国や近くの村集落からギルドに正式な依頼を出してもらえていないため、今回の依頼はギルドの独断によるものです」


 報酬を見た僕らに対し、ギルド職員さんが申し訳なさそうな顔でそう説明してくれた。

 国や村が依頼を出さないからと言って放置するわけにもいかない案件だが、依頼者がいなければ報酬は十分に用意できない。

 一応ヤドリギウツボを発見したらそれなりに報酬は出るけどって感じか。ますます依頼を受ける冒険者が減るわけだ。


「別に俺は構わないよ。困ってる人を見捨てるわけにも行かないしな」


 スキールさんの言葉に、職員さんは嬉しそうに「いつも、ありがとうございます」と頭を下げた。


「それでは出発の時期ですが」


「依頼を受けたらすぐに出るよ。エルク達も一緒に来てくれると言っている、問題はないだろ?」


 僕の肩に腕を回して「な?」と問いかけるスキールさんに「はい」と答えた。


「わかりました。それでは、宜しくお願いします」


 職員さんに微笑ましいものを見るような目で見られてしまった。


「エルク。依頼が終わった後で良いんだが、ちょっと2人きりで話したい事。と言うか相談があるんだけど良いか?」


 肩を組んだ姿勢のまま、小声で耳打ちしてくる。


「僕で良いんですか?」


 合わせるように小声で返事をする。


「あぁ、お前にしか相談できないんだ。ダメか?」


「いえ、わかりました。それなら、依頼が終わって帰ってきたらで宜しければ大丈夫です」


「助かる」


 2人きりで話したい事か。彼も勇者だし、パーティメンバーは全員女性だ。それなりに悩みや愚痴があるのかもしれない。

 例えば下着を洗っていて、綺麗になったか確認していたのを変に誤解されて殴られたり。ノックしたにも関わらず返事がないから入ったら着替え中で殴られたり。中々起きないから揺すって起こしたら変なところを触ったと言って殴られたり。

 ……サラはもうちょっと、おしとやかになって欲しいな。

 依頼を受け、席に戻ると、僕が座るために用意された椅子の前に、山盛りの肉料理が置かれていた。次からはちゃんと料理を選ぶか。



 ☆ ☆ ☆



 街を出て数時間、目的地の近くにある集落まで辿り着いた。

 夜の森に入るのは危険だ。なので一晩経ってから、早朝に入る方針で決定した。

 集落の長に事情を説明すると、僕らが今晩泊まれるようにと空き家を一件貸してくれた。

 案内された空き家に入り、荷物を下ろした。

 

「思ったよりも歓迎されたわね」


「です」


 サラが集落の人たちの反応に、少し戸惑っていた。

 前回の農村では、僕らが遅刻したと思われ塩対応だったからなぁ。


「歓迎されるのは、別の理由もあるけどね」


「別の理由?」


 僕の言った「別の理由」がわからないようで、アリア達は答えがわからないようで首を傾げた。

 逆に堂々としているスキールさん達はわかっているようだ。


「別の理由ってな」


「こんばんわ。冒険者さん達、良ければ何か買っていきませんか!?」


 僕に詰め寄ろうとしたサラの言葉をかき消すように、扉が開かれ元気よく男性が何かを抱えて入ってきた。この集落の人だろう。

 すると、他の人達も次々と中に入ってきて、次々と物を並べ「何か買って行って貰えませんか?」と声をかけてくる。気がつけば部屋はバザーのようになっている。

 僕らが歓迎されているもう一つの理由、それがこれだ。


「農村や集落の人は基本外に出る機会が少ないから、旅人や冒険者は貴重な商売相手なんだ。ギルドへの依頼や、行商人が来てもお金がないと何も買えないからね」


「へ、へぇ。そうなの」


 戸惑っているサラ達にわかるよう、説明をする。と言っても僕も父から昔聞いた事を、そのまま言ってるだけなんだけどね。

 並んでいるのは、この集落で採れた野菜や果物が中心だ。中には古着やよく分からないものもいっぱいある。

 一応保存食は持ってきてあるけど、どうせなら温かい料理を食べたい。野菜を幾つかと、今日獲れたという鳥を買った。


「一つの家のものばかり買いすぎると、後で諍いの原因になるから、同じ物が並んでたら、他の家のも平等に買うようにしないとダメだぞ」


 そこまでは知らなかったな。スキールさんは調整するように、他の家の農作物を買ったりしてくれた。


「エルクさん。あそこに並んでいるハーブを使えば香辛料などが作れるのですが、買ってきてもよろしいでしょうか?」


「うん。フレイヤさんの作る香辛料があれば、料理が美味しく出来るからね」


 お金の入った袋を渡すと、フレイヤさんはキョロキョロしながら、ハーブを買ってきた。

 仮面姿でハーブの匂いを嗅ぎながら、やや挙動不審な動きではあったけど、集落の人はあまり気にしていない様子だった。ちゃんとお金を払って買ってもらえるのなら、どんな相手でも喜んでって感じなのだろうな。

 フレイヤさんは早速買ったハーブを薬研ですり潰し、色々と混ぜた入りしながら香辛料を作っている。元はリンが僕に「何もできないとネガネガしないように」と薬を作るために買った薬研だが、今ではフレイヤさんの香辛料を作るための道具になっている。正直僕はあまり使っていなかったから、ただの荷物にならなくて助かっている。


 一通り僕らが購入した事に満足したのか、集落の人達は売れ残りを抱え、皆ニコニコとお礼を言いながら出て行った。

 商人を経由しない分、安かったので思ったよりも買いすぎてしまった。

 とはいえ、うちには大食らいがいるしスキールさん達も一緒に食べてくれるならそこまで問題になる量じゃない。

 この日は買った食材でいつもよりも豪勢な食事をした。

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