第10話「スキールの悩み」
ヤドリギウツボ探しは順調に終わった。
普通に探そうとすると、森や山の木々を隈なく探さなければならないけど、僕らにはリンがいる。
リンの『気配察知』のおかげで、ヤドリギウツボがどこにいるのかわかるので、苦労せず見つけることが出来た。
「これで3体目、っと」
辺りをサラ達が警戒しつつ、ヤドリギウツボの討伐証明部位である雄しべをスキールさん達が切り取っていく。
「OKだ。エルクやってくれ」
「はい。わかりました」
僕はヤドリギウツボに触れ、『混沌』を発動させる。
触れていた部分から段々と茶色に変色し、ヤドリギウツボは完全に枯れ果てボロボロと崩れていった。
「リン。次は?」
「この辺りには、もう居ないみたいです」
「そっか。うん、ありがとう」
よし、おしまい。
『混沌』を解除してから、リンの頭を撫でる。
リンは「チッ」と舌打ちをしつつも、素直に撫でられてくれている。
その隣には、いつの間にかアリアとフレイヤさんが中腰になってこちらを見ている。これは自分達も撫でてくれと言うことだな。
皆頑張ったのだから、褒めて欲しいと言われればいくらでも褒めよう。
まずはアリアからだ。
「なぁ、一つ良いかい?」
アリアの頭に手を伸ばそうとした僕に、ゾフィさんが声をかけてきた。
まさか、ゾフィさんも撫でてくれというわけじゃないよね?
いや、撫でてと言われれば撫でるけどさ。
「なんでしょうか?」
「アンタ、その子達の頭を撫でても大丈夫なのかい?」
ゾフィさんは僕の右手を見ている。
あぁ、彼女たちを撫でたら、ヤドリギウツボが枯れたみたいにならないかと懸念しているのか。
確かに『混沌』は解除したけど、見た目の変化は無いから、側から見たら不安になるか。
「大丈夫ですよ。ちゃんとオンオフ切り替えれるので」
ゾフィさんに頷きながら答えた。
「そうかい。なら良いけど……」
振り返り、手を伸ばすが、僕の手は宙を切った。先程までいたアリア達の姿が見えなくなっている。
3人とも僕から距離を取り、両手で頭を抑え、首を横にフルフルと振っている。
いや、大丈夫だから……
ちょっとだけ傷ついた。うん。ほんとちょっとだけね。グスン。
その後、昼までモンスターを駆除をした。
駆除したモンスターはブラウンジャッカルの他に、レッドウルフ、ウッドリザードと呼ばれるグリーンリザードがただ茶色になってるだけのモンスターなど様々だ。
駆除は適当な所で切り上げる。駆除しすぎると、今度は何処からともなくゴブリンが沸いて住み着いてしまうから程々にが肝心だ。
☆ ☆ ☆
ギルドに戻ってきたのは、日が暮れ始めた頃だった。
思ったよりも早く帰ってきた僕らに、職員の女性は驚いた表情をしている。
カウンターまで歩いていく。
「あの、依頼はもう終わったのでしょうか?」
「あぁ。その証拠にヤドリギウツボの討伐証明部位持ってきた」
そう言ってスキールさんは、今回採取したヤドリギウツボの雄しべを3つ、カウンターの上に置いた。
「あ、はい。確かに……」
ヤドリギウツボと僕らを交互に見る職員さんの目は、困惑と少しの疑惑といったところか。確かに普通のパーティで行ったらこんなに早く終わるわけがないからね。
「うちのパーティのリンですが、『気配察知』の能力があるので」
「あ、そうなのですか。すみません、失礼かと思いますが、リンさんの冒険者カードを見せていただいても宜しいでしょうか?」
冒険者カードでわかるものなのか?
それでわかるならと、リンに職員さんへ冒険者カードを渡すように促す。
「はいです」
「ありがとうございます。あっ、はい、確かに確認しました」
職員さんが、四角の石板のようなものにリンのカードを乗せると何やら文字が浮かんでいたが、僕の知っている文字ではない。
それを職員さんが真剣な表情で見て、頷く。どうやら納得してもらえたようだ。
「それではリンさんの冒険者カードをお返し致しますね。それと今回の報酬を用意致しますので少々お待ちください」
報酬を受け取る際に、ヤドリギウツボがどこに居て、モンスターの数がどうだったか詳しく聞かれた。
そういった情報を国へ報告し、国はその情報を元に、正式に討伐依頼を出すかどうかの判断材料にするからだそうだ。
報酬を受け取り、僕らはギルドを出た。
外に出ると街は影が伸びてきている。もうじき辺りは真っ暗になるだろう。
「お腹空いた」
アリアがお腹を鳴らしながら、僕の服をクイっと引っ張ってくる。
いつもなら、このまま夕飯を食べに行こうとなるけど、スキールさんに相談に乗って欲しいと頼まれているからな。
しかし、スキールさんのパーティが居る前で「スキールさんの相談に乗るから2人きりにしてくれ」とは言いにくいな。変に勘ぐられてパーティの関係を悪化させかねないし。
さて、どう言い出したものかな。
「あぁ、悪い。エルクを借りて良いか? たまには男同士の会話ってのもしたくてさ」
そう言って、スキールさんが僕の方に手を伸ばす。
肩を組んでの仲良しアピールだ。
「えっと。ダメかな?」
僕はサラに確認を取るように聞いてみる。
「はぁ……私は良いけど」
サラがわざとらしいため息をついて、ゾフィさん達を見る。
「行ってこい行ってこい。スキールに男友達は少ないからたまには良いんじゃないかい」
カカカと笑ようにそう言い放ち、僕らの背中をバンバンと叩く。思ったより力が入っていて痛い。
「じゃあアタシ達は、女同士の会話と洒落込もうじゃないか」
どこに行くか女性陣は盛り上がっている。
そんな彼女達とは逆方向を向き、僕らは歩き出した。
「それじゃあ俺たちも行こうか」
「はい」
☆ ☆ ☆
辿り着いた先は、どこにでもあるような酒場だ。
丁度夕食時だから、店の中は喧騒に包まれて居る。
「それで。話というのは?」
僕は注文したナポリタンに手をつけながら、話を切り出した。
相談があると言っておきながら、本人は相談事を避けるように「この店はこれがオススメなんだ」とか「とりあえず注文をしよう」と言って埒があかないから、単刀直入に切り込んで見た。
しかし当のスキールさんはと言うと、僕と一緒に注文したナポリタンをフォークでかき混ぜたり、頰を掻いたりしながら百鬼面相になっている。
「実はエルク。キミに相談があるんだ」
そう言い出したのは、僕がナポリタンを平らげた後だ。
これだけ悩んでいるということは、相当深刻な問題なのか?
仲が良さそうに見えて、実はスキールさんはパーティから勇者イジメを受けているとか。
僕がそんな風に考えていると、スキールさんは両手で自分の頰を叩き、意を決したように話し出した。
「相談というのは、恋の相談なんだ」
えっ?
恋の相談?
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