第16話「積み重なった偶然」
始業を知らせるチャイムが鳴りひびく。昼休憩はもうとっくに終わっている。
だが、僕とスクール君はいまだに屋上に居た。
「全部、俺が仕組んだんだ」
スクール君の口から、ハッキリとそう言われた。
今回の騒動が全て仕組まれたものだった?
裏切られたと思った。
「だけど信じて欲しい……エルク君、キミの為にやったんだ」
なんでそんな事をしたのか、スクール君は静かに語り出した。
「5年前、俺はイジメられているキミを助けたかった」
当時、僕はイジメにあっていた。それは日を重ねるごとに酷くなっていた。
最初は庇ってくれる友人も居た。けど一人また一人と僕を庇おうとする友人は減っていった。
「俺なりに出来る事を一生懸命やったつもりだった。でもキミを最後まで守ることが出来なかった」
そう、僕は結局イジメに耐えかねて、一年で学園を辞めてしまった。
こんなにも僕の事を思っていてくれる人が居たのに。
「俺は守るために力が欲しかった。友達を守るだけの力を」
☆ ☆ ☆
―――スクール視点―――
この5年間で、俺は派閥に近いものを作り上げた。
顔と口には自信があった。それで色んな女の子と仲良くなり、その子達をダシに成り上がった、と言うと言い方が悪いな。
具体的には、貴族の女の子と仲良くなり、後ろ盾となってもらったり。
可愛い女の子達と仲良くなり、男子生徒とお見合いのようなものをセッティングする事もあったな。
もちろん女の子が嫌がるような相手を紹介したりはしないし、嫌がる行為を強要したりはしていないし、する気も無い。
男っていうのは、モテたいし彼女が欲しいものだ。だけど俺みたいに上手く出来る奴なんて極一部だ。
すました顔をしていても、心の中で女に飢えている。そんな奴ばかりだ。だからモテないのにな。
だから貴族といえども、俺に対し下手に手出しをしようとしてこない。
「スクールを敵に回したら、学園中の女の子に嫌われる」なんて言ってたりもするそうだ。
金と権力で俺を何とかする事は出来なくはないが、それよりも俺を味方に付ければ女の子を紹介したりしてもらえる。
たったそれだけのくだらない理由で、男子生徒で俺に敵対しようという奴はほとんどいなくなった。
そして気が付けば、俺の周りには沢山の仲間が出来ていた。
俺は周りの人間を何度かイジメから助けた事もあった。それで俺は力が付いたという自信がついた。
もしかしたらエルク君が復学して帰ってくるかもしれない。そしたら今度こそ俺が守ってやるんだ。
気づけば5年の月日が経ち、卒業間近になっていた。
結局エルク君が戻ってくることは無かった。
「ドラゴンを倒した冒険者パーティが今ギルドに居るらしいぜ」
最初は、ただ興味で見に行っただけだった。
そんなに強いパーティなら、卒業試験の護衛の依頼を頼めば、簡単に試験合格できるんじゃないか? なんて考えで。
もし男だらけのパーティなら「若い女の子がいっぱいの班ですよ」と言えば、きっと鼻の下を伸ばしてついてくるだろう。
そこで僕らは再会した。
ここからは偶然の積み重ねだった。
もしエルク君が僕らの護衛依頼を達成してくれたら。
正直、ドラゴンを倒したということ自体は眉唾だった。
だけど間近で見て実感する、彼らの実力は本物だ。卒業試験はあっけなく合格で終わった。
もしエルヴァン達が卒業試験を失敗していたら。
依頼を受けたパーティが強すぎたら、彼らでも卒業できるだろう。
しかし実際は、彼らの好き勝手な戦い方で失敗していた。
もし卒業試験に失敗したエルヴァン達が、エルク君達の話を聞いて指名したら。
かつて自分がイジメていた相手だ。そんな相手を頼るだろうか?
だがそのエルヴァンはエルク君の事を忘れていた。俺の話を聞いてすぐに「冒険者ギルドでエルク君を指名して欲しい」と頼み込んできた。
もしエルク君達が、その依頼を受けたら。
もしエルヴァン達が、それでも態度を改めていなかったら。
もし、僕が教えた同じルートをそのまま選んだら。
そんな事を考えながら、俺はこっそり森に忍び込み、学園から盗んできたキラーファングを寄せ付ける効果のある薬を撒いていた。
エルク君たち位の強さを見る限りでは、キラーファングが少し増えた程度ならどうにか出来るだろう。
もしそれでエルヴァン達がちゃんとした連携を取れるなら、すぐに試験は終わる。
だがもし態度を改めなければ、エルク君達と揉めて、依頼は破棄させるはず。
エルク君達が破棄した後、彼らのような自分達は正しい間違っていないという人間のやることなんて簡単に予想がつく。そのまま引き返さないで奥深くに向かうだろう。
失敗したのは自分達の責任だと認めず。この程度護衛なしでもやれるなんて言いながら。
そこで薬の効果でいつもよりも遭遇率が上がっているキラーファングで、エルヴァン達がケガの一つや二つでもすれば良いと思っていた。
エルク君からしたら、昔自分をイジメていた相手だ。そんな奴らが揉めた後に自分勝手な事をした結果、ケガをしたとしたら相当気分が良いだろう。
もちろん、上手くいくなんて思っていなかった。薬品だって本当に効果があるのか分からない。
全て俺の中の妄想で、一つ違っただけで失敗に終わる。
そんな綱渡りのような、偶然任せの計画だった。
エルク君と出会った事自体が偶然なんだ。だから事前に準備なんか出来るわけもなく、もしこれが成功したら良いな程度の軽い気持ちだった。
結果は俺の計画通りに事が運んでいった。
むしろ想像以上の結果になっていた。
キラーファングどころか、キラーベアまで出て来るのは予想外だった。
キラーベアと遭遇して、リンちゃんがケガをしたと聞いて本当に申し訳ない気分になっていた。もしかしたらエルク君達が死ぬ危険性もあった。俺は軽い気持ちでやった事を後悔した。
急いで治療院へ向かい、そこで働いている今は治療師であるかつて学園で仲良くなった女の子を頼った。
決して獣人でも嫌な顔をしない信頼できる相手として。
治療院を後にした後に、ピーターが泣きながら走ってきて、キラーヘッドにエルヴァン達が襲われたと聞いたときは心の中で笑ったね。
エルク君をイジメた罰が下ったんだ。僕の計画は想像をはるかに超える大成功だ。
これであのクズどもは終わりだ。エルク君にやった事を利子がついて返って来たんだ。
むごたらしく死んで、その死体はモンスターに食われその姿すら残せない。死後も人としての尊厳を傷つけられる、クズにはピッタリな最後だ。
だけど、計画は最後の最後で失敗に終わった。
あんな奴らの事を、エルク君は助けると言って、救援に向かったのだ。
何故あんなクズを助けようと思ったのか、俺には理解が出来なかった。
気づけば叫んでいた。
「やめろ、あんな奴ら生きる価値が無いんだ」
救援に向かうのを止めたかった、エルク君に「そういえばそうだよね」と言って欲しかった。
エルヴァン達には死んでほしいが、それでエルク君まで死んでしまっては意味が無い。
だから俺はシオンさんの元へ必死に走った。助けを求めるために。
結局俺がやった事は、エルク君達を傷つけただけだった。
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