第3話「出会い」
目が覚める。どうやら意識が飛んでいたようだ。どれだけ飛んでいたのだろうか?
一瞬? それとも相当時間が経っているのか?
確か、風の超級魔法『ロード・オブ・ヴァーミリオン』はちゃんと発動してたはず。
周りの様子を見ようにも、目はチカチカするし、耳鳴りも酷い。
どうなったのか確認が出来ない。
少しづつ、耳鳴りが収まり、視界が晴れていく。
視界が開けた先には、ドラゴンがまだ立っていた……
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
大きな咆哮を上げる。よく見ると翼はあらぬ方向へ折れ曲がり、体中のいたる所がキズだらけで鱗は剥がれ落ち、酷い個所になると肉が抉れて骨が剥き出しになっている。
左足が無くなっており、四つん這いの姿勢でこちらを睨んでいる。
アレだけの雷に打たれてまだ動いているとは、何という生命力なんだ。
ドラゴンから少し離れた所ではアリアとリンが重なり合って倒れており、動かないところを見ると生きているのかどうかも怪しい。
ズシンズシンと地響きを立て、こちらへ一歩づつ向かってくる。僕の腕の中にいる少女、サラはまだ気を失っている。
もうダメだ。
ドラゴンは大きく口を開き、こちらに走って来る。僕はサラを強く抱きしめ、目を瞑った。
もう打つ手は何もない。
「アイスウォール」
ドスン、と大きな音が聞こえた。一瞬ビクつく。
そっと目を開ける。実は僕らを怖がらせてから食べるつもりなんじゃないかと不安に感じながら。
だが、予想は良い意味で外れた。目の前には巨大な氷の壁がそびえ立っていた。
その壁にぶち当たったのだろう。ドラゴンが壁にベチャっと張り付いている。
一体何が起きたのだろうか?
「どうしますか? 殺しますか?」
気が付けば、僕の前には3人の人影が立っていた。
物騒な言葉を使う女性は、アリアよりも少し高い身長で、ウェーブがかかった赤髪、額にはブルーサファイヤの宝石が埋め込まれている。
真っ黒でボディラインが浮き彫りになるワンピースのような服で、太もも辺りから大きなスリットの入った服を着ている。
その女性の隣で、リンよりもちょっとだけ身長が高い程度の少女が、腕を組んでふんぞり返っていた。
その姿を見て僕は一瞬、ギョっとなった。
見る者を圧倒するような絢爛豪華な鎧を身に纏っているのだ。真っ赤なマントまでつけて、まるでおとぎ話に出てくる勇者か何かだ。
綺麗な金色の髪をサイドテールにして、パッチリした目が幼い印象を与える。
「うむ。やってしまえ」
「仰せの通りに」
赤髪の女性が無詠唱で、水の中級魔法アイスウォールを唱えていく。
ドラゴンの周りに次々と氷の壁を発生させて四方を囲み、一瞬のうちに氷の壁で閉じ込めた。
閉じ込められたドラゴンは、ドスン、ドスンと暴れまわり、氷の壁を破壊しようと試みている。
暴れるたびにケガをした箇所から血を噴き出し、氷の壁が朱く染まっていく。
「偉大なる水神エーギル。力を迎え入れる事を許したまえ! ストームガスト」
氷の壁の中で、突風が吹き荒れる。氷の壁の隙間からは風が吹き荒れ、氷の塊が飛散している。
氷の壁同士の隙間から飛び出した氷の塊のようなものが、木に当たり、そのまま木を貫通して飛んで行った。凄い威力だ。
というか、嘘だろ? ストームガストといえば水の特級魔法だ。
それをほぼ詠唱無しで発動させるなんてあり得ない。一体彼女は何者なんだ?
パァアアアアンと音を立てて、氷の壁が崩れていく。
氷の壁で覆われていた中の空気が外に漏れ、突風とともに、身も凍るような寒さに襲われる。
中に居たドラゴンは、身も凍るような寒さどころか、体中のいたる所が凍り付いている。
両翼の翼は完全にもげ、体中に穴が空いている。だがまだ生きていた。この瞬間までは。
それでもまだ戦う意思があるのか、右手を上げようとするが、ドラゴンの首がゴトリと落ちる。
遅れてその巨体がドシンと音を立てて倒れた。
横たわるドラゴンの前に、男が立っていた。
ゆうに2メートルはあるであろう長身。その長身に合わせるかのような大きな剣を携えて。
倒したドラゴンには目もくれずに、彼はアリアとリンの元へ歩いていく。額には、物騒な言葉を使う女性と同じく、ブルーサフィヤの宝石が埋め込まれているのが見えた。
短く切り揃えた白髪の男性は、アリアとリンを担ぎ、僕の前に優しく降ろした。
目の前で降ろされた彼女たちを見ると、胸元が大きく上下している。呼吸をしている証拠だ。
良かった生きていたんだ。
正直、今の状況はサッパリわからない。
わからないが、僕がやるべきことはわかる。
「助けていただき、ありがとうございました」
そう、お礼を言う事だ。
得体が知れなくて怖いと言うのはあるけど、命を助けてもらったのにお礼も言わないで怖がるのは失礼だ。
せめてお礼を言ってから怖がろう。
「いや、こちらこそすまない。あのドラゴンは我々の責任だ」
「えっ?」
☆ ☆ ☆
話を聞く限りでは、どうやら山奥でドラゴンを倒そうとしたらしいのだが、そのドラゴンが途中で逃げ出してしまい、逃げ出したドラゴンがたまたま僕らと遭遇した。と言う事らしい。
とは言え、怒るつもりは一切ない。彼らがドラゴンを倒し損ねて逃げられたと言っても、故意にやったわけではない。
それは仕方のない事だ。
アリア、サラ、リンを見ると、ケガはしているが誰一人死んではいな。
死にそうにはなったが死ななかった。そして僕らを助けてくれたのだ。だったら感謝をすれども、怒る事なんてない。
「ところで、どうしてドラゴンと戦っていたんですか? 何かの依頼でしょうか?」
「火竜の肉は大変美味なると聞いてな、妾も食してみたいと思って、こやつらに捕らえるように命じたのじゃが……その、すまぬ」
今度は少女が僕に謝ってきた。食べてみたいから捕らえようとしたか……先にこの子の話を聞いていたら、僕もちょっと怒っていたかもしれない。
でも怒らないと決めたばかりだし、申し訳ないと思っているのか頭を下げているんだ。うん、許そう。
「それでも命を助けていただいた事には変わりありません。ありがとうございました」
そうお礼を言って、頭を下げている少女の頭を撫でる。
「どうしますか? 殺しますか?」
なんで!?
いや、確かについ無意識的に、リンにやってるのと同じ要領で頭を撫でてしまったけど、流石に殺すは物騒すぎやしませんか?
「よいわ」
「はっ、それでは殺します」
「違う! 『よい』は『やらなくてよい』の『よい』じゃ」
「はっ、わかりました」
一瞬背筋が凍った、頭を撫でたので死刑とか笑えない冗談だ。
苦笑いを浮かべて「ははっ、どうもです」と言うので精いっぱいだ。
それを白髪の青年は少しは口角を上げ、微笑ましい物を見るような目で見ていた。
「今のは定番のジョークと言う物らしい。俺にはわからないが、皆キミと同じように笑うから、相当おもしろいんだろうな」
なるほど、今のは定番のジョークですか。ってバカか!
それはウケてるんじゃなくて、苦笑いだから……
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