第17話「出発準備その1」

 ジーンさん達の事件から数日たった。

 あの後、しばらくしてジーンさんとアルフさんは町を去った。


「俺たちは首都に行って、パーティに入ってくれる勇者を探してくるよ」


 この町では大した依頼は無く、パーティに入っていない野良勇者も居ない。故に彼らは勇者特典が受けられず、この町でやっていくには、金銭面で厳しいものがあった。

 その日、僕らはゴブリン討伐依頼と薬草採取依頼を受けていたので、彼らを町の外まで見送り、手を振って別れた。



 ☆ ☆ ☆



「さて、行きましょうか」


 冒険者ギルドで『魔法都市ヴェルへの荷物運び兼護衛』依頼を受けた。出発は二日後だ。

 なので今日は、4人で旅に必要な物の買いだしだ。

 まぁ必要な物がわからないから、リンにお任せなんだけどね! 余談だが、アリアとサラも僕レベルで役に立たなかった。


「ご飯があれば、大丈夫」


「そうね、旅の最中にオフロが入りたいわ。何かそんな道具無いかしら?」 


 うん、論外だね。

 サラは変な所でズレてる気がする。アリアは色々ズレてるので、この際スルーしよう。


「旅に出るにあたって、何か装備は買っておくべきでしょうか?」


「ローブは全員分あった方が良いと思うですが、まだこの時期は寒くならないですし、荷物になるからヴェルに行ってから買えば良いです」


「なるほど、それじゃあ武器や防具はどうですか?」


「サラとリンはこのままで大丈夫です。アリアは服の下に軽鎧を装備してるので大丈夫だと思うです。最近は盾も新しく買ったみたいです」


 そうなのだ、最近アリアは盾を買った。

 職も聖騎士というのに変わっていた。ギルド公認の上級職と呼ばれるものらしい。 


「職は基本何を名乗っても良い。剣を持ってっから剣士なんざ安直じゃなく、斧を持って『魔術師です』とか言っても良いぞ。まっ、その場合誰からもパーティに誘われなくなるけどな!」


 と職について、チャラい職員さんが説明してた気がする。

 それで上級職が確か。


「ただし、上級職ってのは別だ。国やギルドが一定以上のレベルを認めて、試験に合格した奴だけが名乗れる。上級職っぽい名前を名乗るのも禁止だから覚えとけよ」


 と説明してたかな。アリアは聖騎士の試験に元々合格してたらしい。

 なぜ剣士を名乗っていたかはわからないけど、今は聖騎士にクラスチェンジをして、盾を持っている。 

 「剣だけでは、護れないから」と言ってたっけな。アリアなりに、パーティの事を考えてくれてるんだろう、きっと。


「となると、僕の装備ですか?」


「それもいらないと思うです」


「あ、はい」


 そうですよね!

 戦力外の分際で、すみません。


「変な勘違いしてるです。エルクはちゃんと武器を持っているです。防具は身に着けすぎると、逆に身動き取れなくなるから邪魔になるだけです」


 僕の心中を察したリンが、顔を真っ赤にしながら、手足をバタバタさせて必死にフォローをしてくれる。

 あー、この可愛い小動物を家に持ち帰りたい。って毎日家に持ち帰ってるんだけどね。

 とりあえず頭をなでる。


「チッ」


 相変わらずの舌打ちだ。でも手を退けようとしないから、そこまで嫌がってるわけじゃないはず。だよね?

 リンの頭を撫でてると、隣でアリアが僕をじーっと見てくる。

 最近のアリアは、リンの頭を撫でてると、こうやってじーっと見てくる。撫でたいのだろうか?


「そういえば、リンは結構エルクに懐いてるわね」


「サラさんや? 僕が舌打ちされてるのが、見えませんか?」


 からかうサラに対し「チッ」と、舌打ちが飛んでくる。


「あぁ。リンが舌打ちするときは、大抵照れ隠ししてる時だから。その証拠に手を退けようとしたりしないでしょ?」


「チッ」


 確かに、僕は舌打ちされても手を払われた事は無い。

 調子に乗って更になでなでしたら、ペシッと手を払われた。流石にやり過ぎですね。ごめんなさい。

 隣ではアリアがまだ見てる。


「アリアもリンを撫でてみる?」


「大丈夫」


 大丈夫ね。

 確かに今の状態でやれば、リンの機嫌を損ねそうだし。やめておいた方が無難だな。


 さて、装備品はいらない、となるとあとは旅の消耗品くらいかな?

 でも今回は護衛依頼で、ある程度必要な物は向こうで用意してくれると聞いているし。


「着替えの衣類を何着か。それとポーションとかの、消耗品を買いに行くです」

 

 まずはいつもの道具屋へ移動だ。

 今日は採取依頼ではなく、客として。



 ☆ ☆ ☆



 僕らが店に入ると、ドアベルが「カランカラン」と来客を知らせる。


「おう、いらっしゃい。今日は依頼出してないはずだけど?」


 その音で振り返った道具屋の主人が、僕らの姿を見て、顎に手を当てて、首を傾げていた。


「明後日この町を出るから、その前に買い物を思いっきり安くしてもらう約束を果たしてもらいに来たわ」


 前に言ってた事を思い出したのか、「あぁそう言えば!」と言いながら手をポンと叩いている。


「はっはっは、そうかいそうかい。じゃあ旅の消耗品とかかな? 沢山買ってってくれよ」


「魔力回復薬とポーションが見たいです、何等級があるですか?」


「この店にはポーションがBからE、魔力回復薬はDとEしか置いてないね」


 ポーションや魔力回復役は、性能に応じてランクが分けられるんだっけ。

 呼び方が1等級~5等級だったりA~Eだったり。地域によって言い方は違うが、大体どの言い方でも通じる。


「それじゃあCランクのポーションを8個と、Dランクの魔力回復薬を4個欲しいです」 

 

「あいよ、でもポーションはCだけで良いのかい?」


「軽いケガなら、治療魔術をサラが中級、リンも初級程度は使えるです」


「ほほう! 確かキミら2人は聖職者じゃなかったよね。それなのに治療魔術が使えるのか。凄いな」


「それなら私も治療魔術、中級まで使える」


 アリアも治療魔術使えるとか、聞いてないんだけど?


「あんたも治療魔術使えるって、初耳よ?」


「聞かれてないから」


 うん、アリアはそういう奴だって知ってた。

 サラは何か言おうとして、肩を落として「まあいいわ」と言っている。そういえば最近のサラは、アリアへの当たりが弱くなってきている気がする。独特のテンポに慣れてきたのだろうか?


「へぇ、3人も治療魔術使えるとは、それは凄いな」


 道具屋の主人の「きみも使えるの?」的な目線が痛い。


「あはは……その、僕は勇者なので」


「あっ……すまん。きみはほら、これからだよ!」


 そうこれからだ。今は無理でもこれから頑張って色々覚えて行くさ、せめて足手まといにならない程度には。

 でも今はまだ何もできないから、肩身が狭い。しゅんとうなだれた際にリンと目が合い、可哀想な目で見られた。


「えっと、一番小さくて軽い薬研やげん乳鉢にゅうばち。それと薬草の図鑑と調合の本が有ったら欲しいです」


「ふむ、それならどれもあるよ。他に何か必要な物はあるかい?」


「どこでもお風呂に入れる道具!」


「ご飯!」


 アリアのご飯の発言はともかく、サラのどこでもお風呂に入れる道具なんてあるわけないだろ……


「フロ、は流石にないが……魔力式簡易シャワーならあったかな? 値段がソコソコするのと、持ち運ぶにはちょっと大きいけど大丈夫かい?」


 あるのかよ!? 

 僕が5年引き籠っている間に、色々進歩してるんだなぁ。

 店の奥に消えて行った主人が、何か持ち運んでくる。


 小さい穴がたくさん開いた丸い半円上の鉄の塊にチューブが取り付けられており、大きいの四角い鉄の箱に繋がっている。その箱には4つの足が取り付けられており、チューブのついた丁度反対側にまたチューブが付いている。なんだこれ? 


「こいつは箱の中にお湯を入れて、チューブの先から風魔法で空気を送り込めば、先っぽの鉄の塊からお湯が出てくるシロモノだ。風魔法の威力を調整しながら出せば、5分位は先から出し続けられる。一緒にスタンドも付けとくから、そいつで固定すれば温かい滝で体を洗う感覚で使えるよ」


 道具屋の主人が少し水を入れて、家庭用風魔法を使ってどんな感じで水が出るのか見せてくれた。

 女性陣の目が光っている。外でも体を洗う事が出来ると言うのは魅力的なのだろう。

 しかし、値段がソコソコしそうだけど大丈夫だろうか?


「ポーションのCランクが1個10シルバの8個で80シルバ、魔力回復薬のDランクが1個12シルバの4個で48シルバ、家庭用薬研20シルバ、乳鉢10シルバ、薬草薬剤本が40シルバ、魔力式簡易シャワーが3ゴールドで、合計4ゴールド98シルバだが、色々お世話になったし沢山買ってくれたんだ。4ゴールド50シルバにまけとくよ」


 簡易シャワー高くない!?

 今の僕達パーティの合計所持金が10ゴールドちょっとだから、一気に半分使っちゃうことになるよ?

 僕が「流石に高くない?」と彼女たちに相談しようとする前に、会計が終わっていた。


「毎度あり、おまけで石鹸も2個付けといてやるよ。魔力式簡易シャワーの鉄の部分はデリケートだから曲げたりしないように気をつけてな」


 ポーションは先っぽが棒状の丸い瓶に入っており、それぞれ2個づつ、ベルトについた紐で軽く結びつける。

 魔力回復薬は、1センチくらいの丸い団子状で、色がケバかった。見た目がおいしそうじゃないそれを、サラの道具袋の中に入れた。


 問題は魔力式簡易シャワーと薬研と乳鉢。どうみても重そうなんだけど、これが持ってみると思ったよりは重くない。

 それでも結構かさばる。戦闘中に持っていたら邪魔な事この上ないと思うので、これを持つのは僕の仕事だな。戦闘には基本参加出来ないし。


「またこの町に来たらよろしく頼むよ」


 名残惜しそうに手を振る道具屋の主人。

 僕たちは道具屋を出た。

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