第18話「出発準備その2」

「さて、外でいつもの薬草を取りに行くです」


 道具屋を出た後、リンの提案で町の外に出ていつもの薬草を狩っている草原へ。もう見慣れた光景だ。

 ところで、依頼でもないのに、何でまた薬草を摘みに来たんだろう?

 

「旅の間、暇にさせるとエルクは『僕は役に立たない』とか勝手にネガティブになりそうですから、先に仕事をあげるです」


 いや、別に僕はそんなにネガネガしてるキャラじゃないと思うんだけど?

 振り返ってアリアとサラを見ると、納得した表情でうんうんと頷いてる。そんなバカな!?


「薬草を適当に摘んで、ポーションの作り方を覚えるです。さっき買った本に薬草や調合について書いてあるから、それを見ながらリンが教えるです」


 さっき本や薬研を買った理由ってそれか。リンはリンで僕の事考えてくれてるんだ。

 ちょっと感動と同時に申し訳ない気持ちが。

 せっかくなので、簡単な事から教えてもらおう。


「普段摘んでる薬草が、グリーンハーブと呼ばれる種類です。これを乾燥させて乳鉢で擦って、エキスを抽出したものがポーションのEランクになるです」


 ふむふむ、リン先生の説明を、薬剤調合本と照らし合わせながら聞いていく。

 ポーションのランクはホワイトハーブ、ブルーハーブ、イエローハーブ、レッドハーブ、グリーンハーブのどれを使ったかで決まる。

 色が薄かったり、不純物が混ざってたりすると品質にマイナスが付いたりする、と。


 ここいらでは、グリーンハーブに紛れてブルーハーブもそこそこ生えているので、このブルーハーブを道具袋に入れて数日間放置して乾燥させておいて、ポーションを使った後に僕が調合すれば、お店で買わなくてもポーションの補充が出来ると言う事か。


 他にも本に載っている解毒剤や病気の時の薬等も作れるようにしておこう。薬の知識をリンしか持っていないから、リンにもしもの事があった場合の事を考えると、僕も覚えておいて損はない。 

 リン先生の授業が30分もしない内に、お腹の虫が鳴き出した。ちなみに、鳴いてるのはアリアのお腹の虫である。

 

「お昼ご飯にするです。と言いたいところですが、ゴブリンが3匹向かって来てるので、まずはゴブリンを倒してからです」


 サラは少しうんざりした感だ。アリアほどじゃないけど彼女もお腹が空き始めているのだろう。


「依頼で探してる時は見つからないのに、こういう時に限って湧いてくるんだから」


 僕もそう思うけど、愚痴っていても仕方ない。

 やるか。 

 僕らが構えると、3匹は既に首が無く。ゴブリン達はその場にドサリと倒れた。


 僕らが動くよりも先に、アリアが『瞬歩』で左に居たゴブリンの首を飛ばし、着地と同時に振り返り2回目の『瞬歩』でこちらに戻って来て、その際に真ん中のゴブリンの首を飛ばし。

 3回目の『瞬歩』で、右に居た最後のゴブリンの首を飛ばし、4回目に僕の隣に移動して、お昼ご飯の準備を始めていたのだ。

 見事な『瞬歩』の2往復。あっ、手をちゃんと洗ってから食べてね?

 討伐部位の剥ぎ取りは……ご飯を食べてからにしよう。正直食べる前に手を汚したくないし。

 

 今日のお昼も、サラが綺麗に切ってくれた食パンで作った、サンドウィッチだ。

 たまには違う物も作ろうと思うんだけど、鼻歌交じりに毎朝早起きして食パンを綺麗に切ってるサラを見ると何も言えなくなる。

 出来なかった事が出来る様になると、嬉しくなってついついやり過ぎちゃう気持ちはわかる。

 でも食パン切るのは料理とは言わないよね。というのはこの際黙っておこう。


「そういえば。この前に僕がアルフさんと打ち合いした時、何でアルフさんは『瞬歩』使ってこなかったんでしょうか?」


 アリアやリンが使う『瞬歩』、いつ見ても『地剣術が最強の流派』と言われるのがわかるくらい凄い技だ。使ったら、一瞬で勝負が決まる。

 アルフさんは『瞬歩』が使えるのに、あの時何故使わなかったか疑問だった。


「『瞬歩』は基本にして奥義。『瞬歩』で移動出来る距離全て必殺の間合いになるけど、それ故に難しいの」


 なるほど。わからん。

 

「アリアの説明は下手くそです。一回の『瞬歩』で移動できる距離で使い手の力量がわかるです。どれだけ速く移動できて、どれだけ短い距離で止まれて、どれだけ長い距離まで進めるか。あの時使わなかったという事は、アルフは多分短い距離では出来ないから、距離を詰められると打ち合うしかなかったと思うです」


「へー。万能な技に見えるけど、一応弱点はあったんだ」


「それは違うです。弱点だらけです。地剣術は”条件が整ったら最強”にしか過ぎないですから、目の前で『瞬歩』をされるのがわかったなら、進行方向に障害物を置けば勝手にぶつかって自爆するです。他にも足場が踏ん張りの利く地面じゃないと滑って転んでスッテンテンです」


「リンは『瞬歩』で決めた着地地点にちゃんと移動できるから、足を狙って動けなくする事が多い。私はそういうのが苦手だから、そのまま剣を構えて首をはねてる」


「そもそもリンはアリアみたいに力が無いから、剣を構えて首をはねようとしたら、自分の腕が折れかねないです」


 『瞬歩』さえあれば最強! と思っていたけど、結構違ったんだ。

 だから条件が整わなかった場合の為に、他の流派の技も覚えるわけか。


「海剣術はカウンターが多いみたいだけど、それじゃあ空剣術ってどんな感じなんですか?」


「ふわふわしてる」

「ふわふわしてるです」


 ふわふわしてるね。説明が。

 2人の返事にサラが苦笑いを浮かべた。


「確か魔法都市ヴェルの魔法大会で、毎年ほぼ優勝してる人が空剣術の使い手らしいから、大会でやってるところを見てみれば良いんじゃない?」


「へー。じゃあヴェルに着いたら見れるのかもしれないね」


 魔法大会か、学園生時代は必死に勉強してたから、ヴェルの街並みすら実はよくわからない。

 空剣術を見れるかもしれないか、ちょっと楽しみだ。



 ☆ ☆ ☆



 お昼を済ませた後、草原でブルーハーブを皆で採取して町に帰ってきた。

 手のひらサイズの道具袋にいっぱい詰め込んだが、これでポーション2個分出来るかどうかの量らしい。


 服屋で旅の途中で着る物を軽く買って、今日の買い物は終わりだ。

 ついでに露店商も見ようか? と言う話になったのだが、ここで買うよりヴェルの方が品揃えも良く、あまりアレコレ買っても荷物になるし、なにより今日はお金を使い過ぎたので(主にシャワーだが)このまま帰ろうという流れになった。


 家に帰ってきたけど、父はまだ家に居ない。

 とりあえず晩御飯の準備だ。僕の隣には料理にやる気を出しているサラとアリアが。


「今日こそは美味しいお料理を作ってみせるわ」


「何で私も?」


 やる気は良いけど、二人に任せても失敗するのが見えているので、僕が手伝うという形で作ることに。


 アリアとサラに玉ねぎ、ジャガイモなどの野菜と鶏肉を一口サイズに切ってもらい、その間に僕は火を用意して鍋でバターを溶かす。二人は玉ねぎに悪戦苦闘しているけど大丈夫かな? 火打石でカチカチと苦戦しつつ釜戸に火が付いた辺りで、二人は何とか切り分ける作業が終わったようだ。


 二人が切ってくれた材料を炒めてちょっと色が付いた辺りで野菜の水分が出てきた。アリアに小麦粉おおさじで3杯入れてもらい、サラに鍋の中身を混ぜるように指示する。もちろん今回は”おたま”じゃなく、ちゃんとおおさじだ。

 そろそろ良い感じになったので、鍋にドバっと水と牛乳入れたら、アリアとサラが「マジかよコイツ」って目で僕を見てくる。大丈夫だから! そういう料理だから!


 何か言いたげな表情のサラにしばらく鍋の中身をかき混ぜてもらってから、塩と白ワインで味をととのえてクリームシチューの完成だ。軽く取り皿で味見をしてみたけど問題は無い。

 アリアとサラにも味見してもらったけど、二人は頭に「?」が何個も浮かんだような顔をしている。


「わかった! 美味しい料理の秘訣は牛乳ね!」


 うん、違う。

 朝起きたら、サラが綺麗に切った食パンに、牛乳をぶっかける可能性があるので、やらないようにちゃんとくぎを刺しておこう。


 そういえば料理でふと思い出した。冒険者ギルドで屈強な職員さんが僕に着せてくれたエプロンを返すのを忘れたままだ。

 明後日はヴェルに出発するのだから、明日にでも返しに行こうかな。

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