第3話「完成! ゴブリン料理」
ざわめく野次馬の視線が、僕に注がれる。
先ほどの『覇王』で受けた注目と比べれば、そんなに恥ずかしいという気持ちは沸いてこない。
可愛いエプロンに身を包んだ屈強そうな職員さんが、色んな食材と調理道具、そして『ゴブリンの肉』を僕の目の前に置く。
「他に必要な道具があれば、遠慮なく言ってくれ」
食材と調理道具を見て、僕は頷く。
「これだけあれば、大丈夫です」
「わかった」
屈強な職員さんが可愛いエプロンを脱ぐと、それを僕に着せて後ろに下がる。胸元は大きなハートで全体にひらひらが付いたとても可愛いらしいエプロンだ。
正直今すぐ脱ぎ捨てたい。男の僕が着ても、誰も得はしないって。
とりあえず調理の準備だ、父から聞いた方法が間違っていない事を祈って。
用意するものは鍋を二つとザル、安物のワインに、肉を包むための野菜類、凝ったものを作るわけじゃないしこれだけで十分だ。
まずは『ゴブリンの肉」を一口サイズに切っていく、この『ゴブリンの肉』がやばかった。
肉自体が臭いのもそうだが、刃物で切り分ける際に、切り口から物凄く臭い匂いが発生するのだ。人間どころか、動物やモンスターだって食べなさそうな匂いだ。
手ごろな石を使って鍋を固定し、片方の鍋には水を鍋の半分位まで入れ、もう片方の鍋にはワインを指の第1関節分まで入れて火で温める。
煮えるまでちょっと時間があるから、気になって居たことを確認だ。
「あの、アリアさん? 先ほどからすごく近い気がするのですが」
「大丈夫」
アリアさんが無表情でこちらをじーっと見ている。その表情からは何を考えているのかがわからない。
至近距離で見てくる上に、周りをウロチョロと動き回られて、正直ちょっと邪魔だ。
振り返ると毎度彼女の顔が至近距離にある。そして彼女が凄く美人なのもあるが、僕自身女の子慣れしていないのもあって、ついドキッとしてしまう。
沸騰し始めた鍋の中身をのぞき込むと、僕の顔の真横にまで彼女は顔を近づけて一緒にのぞき込んでくる。あぁ、彼女の髪の香りが……
いかん、集中集中。
今は料理の事だけを考えるんだ。
ゴブリンの肉を、ぐつぐつと煮えたワインの入った鍋に投入する。そして投入して30秒くらいですぐにゴブリンの肉をザルに移し、ゴブリンの肉のエキスをたっぷり吸ったワインを捨てる。
ゴブリンの肉は、ワインで煮ると30秒くらいでエキスが大量に出てくる。このエキスが肉の不味い理由だ。
そして一緒に煮ている食材に、ゴブリンエキスを染み込ませ、すぐに肉がまたエキスを吸収してしまうらしい。だからエキスを吸収し始める前に肉を取り出せば、味が一気に変わる。
ザルに入ったゴブリンの肉に、今度はもう一つの鍋で沸かしたお湯をぶっかける。
鍋にあるお湯半分位をゴブリンの肉にかけたら、今度はゴブリンの肉をワインで煮た鍋にお湯をかけ綺麗に洗う。これをしないと鍋がゴブリンの肉臭くなって使い物にならなくなるからだ。
さて、父から聞いた情報が正しければこれでゴブリンの肉は『この世の地獄のような不味い肉』から『我慢すれば食べられる不味い肉』程度にはなったはずだ。
気は進まないけど、とりあえず一つだけつまんで試食してみるか。
肉をつまみクンクンと匂いを嗅いでみる。やっぱり臭い、臭いけど先ほどと比べれば全然マシだ。
目をつむって口に入れる、周りからは「うわっ」「おぇええええ」等小声で聞こえてくる。
ゆっくりと咀嚼して飲み込む。うん、不味い。
ただ、我慢すれば食べられるレベルにはなっている。少なくとも吐き出して野次馬に投げつけるような味ではない。
後は適当に水洗いをした野菜で包んめば、完成だ。
「ゴブリン肉の野菜包み、完成です」
可愛らしいエプロンを脱ぎ捨て、料理完成の宣言をする。
歓声が上が……らない。それもそうか、ここで下手に目立てば「ゴブリン肉の試食係」に任命されてしまう恐れがあるからだ。
となると必然的に、先ほど「ゴブリン肉の試食係」をさせられたチャラい職員に注目が集まる。
「いや、ほれもうほふりんのあひひかひないからもふむひ」
(訳:いや、俺もうゴブリンの味しかしないからもう無理)
チャラい職員さんはシャコシャコと必死に歯磨きをしている。
顔には所々アザが出来ている。吐きだしたゴブリン肉を投げつけた際に、野次馬と乱闘になっていたからだ。
僕が食べても良いけど、さっき一つだけ食べてたら、後ろから「あの子の味覚絶対おかしいって!」と言う声が聞こえた。多分僕が食べたとしても”味覚のおかしい少年が食べただけ”と言う評価になってしまう。
誰か他に食べてくれそうな人を探してきょろきょろしてみるが、皆僕が振り向いた瞬間に目をそらす。
「お、おい、あれ見ろよ」
見物客が慌てて指さした方向を見ると、屈強な職員さんとアリアさんが『ゴブリン肉の野菜包み』を食べていたのだ。
見物客が固唾を飲んで、その光景を見守る。
屈強な職員さんとアリアさんは、むしゃむしゃとよく噛んで、そして飲み込んだ。
「不味いな」
「うん、不味い」
「これはちゃんとした野菜を使わずに、そこら辺の青臭い雑草で包んだ方が良さそうだと思うが。貴女はどう思いますか?」
「先に我慢して肉を食べて、それから雑草を食べればちょうど良いと思う」
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