第3話

「まあ、こんなもんかな」


明日の準備が大体終わったのでそろそろみんなの所に顔を出しに行こうかと思い家から出た所、目の前に一人の女の子が立っていた。


「あれ、アリアじゃん。どうかした?」

「..........」

あれ?聞こえてない?


「お〜い?アリア〜?」

「...あっ、私のことか」

「おい、自分の事忘れてたのかよ」

「うん」

「...もしかして名前の記憶がないとか?」


アリアも呼び出されていたみたいだし、もしかしたら俺と同じ状況かもしれない。


「いや、名前もだけど...全部覚えてない...」

「お〜...なるほどね」


記憶が全部無くなっていると...

なるほどなるほど。


「そっか、とりあえずどっか行くか?」

「うん」


そうして俺はみんなのところに向かった。

連れ出したのはいいけど、どうすっかな。

記憶が全部無いって、俺よりヤバいよな。

一緒に行くってなると結構大変かも。


「もしかして、魔王討伐に行ったりする?」

「うん。君と一緒に行けって言われたから待ってた」

「そっか。嫌じゃない?魔王討伐」

「別に、ここにいても変わんないしいいかなって」

「そっか、じゃあ一緒に行くか」

「うん」

「魔法とか、使い方覚えてる?」

「覚えてない」

「だよな〜」


覚えてないんかい。

魔法使えない奴と一緒に旅すんのか。

というか、記憶無いからか雰囲気が変わり過ぎてる。

結構やんちゃだったと思うけど今はなんかしっとりしてんな。


「魔法使えないと結構キツいかもよ?やめとくなら今だと思うけど」


魔王討伐って言うぐらいだし、多分相当大変なんだと思う。ちょっと村から出掛けるぐらいの気持ちでついてきて死んじゃいました、って事だけは避けたいしな。


「...そんなについてきてほしく無い?」

「いや、そうじゃなくてさ。軽い気持ちで来られても困るし」

「もしかして、私のこと嫌い...とか?」

「いや、めっちゃ好きだけど...って待って待って、いまのは違くて」


咄嗟に何言ってんだ?

自分でもよくわからないが、何故か自然と好きだと言ってしまい過去に感じたことのない位の羞恥心が襲ってきている。


そんな俺のあたふたした姿が面白かったのか、初めて彼女が笑った気がした。


「ふふ...じゃあ一緒に行こうかな。私のこと好きみたいだし」



そんな...いたずらした時の笑顔見せられちゃったら断れなかった。

何でだろう、彼女の事が気になって仕方ないのは。






色々あったが、みんなの所に着きアリアも一緒に行く事を告げると俺の時と同じようにテンションが上がっていた。

アリアの記憶が無いことも伝えたが、

「これから友達になれば良いだろ!」

と、みんな気にしていないようだった。


もう、あんまり突っ込む気もしなかったのでこのまま流されてなるようになるか。

そんな状態になっていた。


そうして最後になるであろう友人との時間は過ぎていき、夕食の時間となった。



「今日、新たに2人の子供が我らが神より選ばれし勇者となった。ウィット、アリア。明日から厳しい旅路になると思うが、どうか魔王を倒し世界を平和へと導いてくれ」


俺とアリアは頷き、広場は拍手で包まれた。

今日は特別な日になったらしく、いつもより夕食も豪華だった。

そして、楽しい宴は夜遅くまで続き

翌日の朝。



アリアと俺はみんなに見送られながら、初めて村の外へと出た。


村長から大雑把な地図をもらったが、どうやら俺らの村は高い山の山頂にあるらしく、しばらくは下山することになりそうだ。


山を降りると広大な森が広がっているらしく、その先に『パパワッカ』という小さな村があるらしい。

暫くはその村が目標になりそうだ。



「アリア、キツかったらすぐに言ってくれよ。流石に序盤から仲間が一人居なくなるのは寂しいし」

「違うでしょ。私が好きだからいなくなってほしく無いんでしょ」


コイツ...昨日の一件以来調子が出てきたのかやたらと明るくなりやがった。


「はいはい、そうだからなるべく離れんなよ」

「分かったよ」


まあ、暫くは二人の旅になるだろう。

次の村まで10日近くかかるらしいし、当然野宿になる。夜の見張りもしないといけないと思うと恐らく序盤からかなりキツそうだ。

仲間がいるという安心感は、恐らく他の何にも変わらない精神安定剤になるだろう。


山は大丈夫だと言っていたが森では魔物も出るらしい。アリアは魔法の使い方覚えていないと言っていたし、暫く俺が頑張る事になりそうだ。


道中、アリアに魔法も教えておかないとな。

確か、水関係の魔法が得意だったはず。

川でも見つけたら時間をかけてでも思い出せないか試してみる価値はあるかもな。


「何黙り込んで考えてるの?」

「今後の作戦とか、アリアに魔法をどうやって覚えてもらおうかとかかな。」

「真面目じゃん」

「そりゃ、いつどうやって死に繋がるか分かんないんだから真面目だろ」

「そりゃそっか」


まあ、記憶が無くてしっとりしてるより元気になってくれた事に感謝かな。

変なイメージはついてしまったが。


というか、村長。

村から出た事ないのにこんな地図どうやって書いたんだか。もしかしたら昔、村から出たことあるのか?


昔の地図だとしたら地形が変わってることも考えたほうがいいのか。

いろいろ大変だな。


そんな事を考えながら、とりあえず下山を一歩一歩進めていく二人。







そんな二人を送り出した村に、神が舞い降りていたとは知らずに。

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