第2話

広場に着くといつも遊んでいるメンバーが揃っていた。


「あれ?もう話終わったの?」

「ああ、何か明日から魔王討伐?に向かわないといけないらしい」

「え〜!凄いじゃん!選ばれたってやつ?」

「なんかそうらしい、実感湧かないけど」


どうしよう。みんなの名前が分からない。

やっぱり変な影響で忘れているっぽいな。


「俺も行きてえな!連れてけよ!」

「う〜ん、どうだろ?いいんじゃない?」

コイツの名前もわからない。

とりあえず、適当に返事をしておいた。


「え〜!勝手に決めちゃって良いの?」

「いいだろ!どうせ毎日やる事無いんだし」

いつも大体8人くらいで遊んでいるのだが、その全員の名前が...いや、なんだろう。

一人だけ思い出せる奴がいる。


「あれ?そういえばアリアは今日どこいったの?」

「あれ?一緒じゃ無かったの?アリアも朝どっかに連れて行かれてたけど」

「いや、一緒じゃ無かったけど」


俺だけじゃ無かったのか。

ただ、別のところに連れて行かれたとなるとまた別件なのか?

ただ、アイツだけ名前が思い出せるのが気になるな。


「まあいいや!とりあえず遊ぼうぜ!」

「いやいや!ウィットと会えるの最後だぜ?もっと盛大に遊ばねえと!」

「結局遊ぶんじゃねえか!ウィット!何する!?」


「え〜...まあいつもの的当て対決かな。負けたら夜ご飯メイン抜きで」

何故だろう。ここら辺の記憶はしっかりある。俺の得意な遊びだ。


「コイツ最後だからってめちゃくちゃ有利なの持ってきたぞ!」

「ズルいけど今日はしかたねえ!やるぞ!」


今日が遊べる最後のチャンスかもしれないのにみんなめちゃくちゃ優しい。悲しさとかないのか。









いや、冷静に考えておかしいよな。

明日から友達が魔王討伐に出発するのにこんなに悠長に遊べるか?

もしかして、変な力働いてるのか?

あの女神が夢の中で無性に気に入らなかったし、最初の一言が「悔い改めてください」なのも引っかかる。

まるで過去に何かしたかのような...そんな話し方だったな。




何だか記憶が蘇ってきそうな気がする。


「ごめん!俺急用思い出した!先戻ってるわ!」



そう言ってその場から離れてきた。

何だか、その場にいたら流されているような気がしてならなかったからだ。


去り際に「お前の夕飯メイン抜きな〜」とか聞こえたが、しっかりメインまで食べよう。そもそも今日は俺がメインだろ。





広場から部屋に戻って、夢の内容を冷静に思い出してみた結果、恐らく俺は一度死んで生まれ変わっているのだろうと気づいた。

転生ってワードがそう言う意味なのだろう。

そして、『朝比奈 透』

コイツが俺の前世ってやつなんだろう。

コイツが何かしら悪いことをしたせいで、悔い改めるべく俺が世界を救う羽目になった。


大体こんな感じだろう。






「いや、めんどくさ!」



仮に俺が朝比奈だったとしよう。

その時の記憶が無いのに、世界を救わなきゃいけない。


理不尽すぎる。


俺は何にも悪いことしてなくないか?

してないな!つまり全部朝比奈って奴が悪い。


「ただ、行かないと牢獄暮らしなんだよな」



噂でしか聞いた事がないが、牢獄は相当やばい所らしい。過去に入った人はそこから出てくる事はないとか。いつ死んだかも分からないとか。


「とりあえず出るのは確定か。出た後に自由に旅して何とか生きていけば良いか」


あとは、友人の受け入れが妙に早い事だが、


「考えても分からん、そういう力が働いてるって割り切るか」


よく考えたら変な町だ。

外部からの人間は一切来ないし、誰も外に出ようとしない変な町。

よく考えたら昨日まで親も知らなかったんだ。もしかしたら周りの奴らも俺の事は案外明日には忘れたたりするかも。

それに俺もアイツらの名前、思い出せないし。


「この村の信じる神の力ってやつかな。ある意味この村から出れてラッキーかも」


選ばれなければ明日からも何も起きない、変わらない日々を過ごしていたかもしれない。


あと気になること、アリアぐらいかな。

もしかしたら一緒に旅するのかも。

悪い奴でもないし、知ってる奴がいる方が旅もしやすいしな。


「とりあえず、明日出発だし持ってから物は持ってくか」


そうして準備に取り掛かった。

案外、自分も友人との別れを悲しんでいないあたりがこの村の住人っぽいなとか思いながら。


そして、とある違和感に全く気づくことのないまま。

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