第60話

 サラさんはしばらくして目を覚ます。

 さすがに乱れた状態で放置は出来なかったので、木の根元に座らせている。


 だが、体に力が入らないようで立ち上がる事は出来ないようだ。


 恥ずかしいのか両手で顔を隠しているが、指の隙間からこちらを涙目で伺っている。


 凄く気不味い……。


「心配かけてごめんなさい……」

「……」


 とりあえず、謝る事にしたが、サラさんは黙ったままだ。



 しばらくして、サラさんは口を開く──


「私じゃ……ダメなんです、か?」


 出てきた言葉は予想外の言葉で、少し泣きそうな声だった。


「ダメじゃないです……」


 初めてが外なのが嫌なのと、変な称号を与えられたくなかっただけなんです。称号は与えられたけど!


 ん? ちょっと待てよ? 今のサラさんは正気のはずだよな?


 なんで“私じゃダメなんですか?”と聞かれたんだ??

 

 それに──するのは何故なんだろ?



「……男性恐怖症をいつ克服出来るのかわからないです……いつかロキ君に近付けなくなると思うと我慢出来なくなっちゃうんです……」


 男性恐怖症が克服出来るか不安なのはわかるが──


 それは俺を襲う事と同義ではない。



 俺を襲う事と男性恐怖症を克服するのがどう関係しているだろ?


 …………ん?


 まさか──俺ってサラさんから好かれてるのか??


 いや、待て待て……前世では勘違いして痛い思いをした。その他にも騙された事もあるからな……。



「また、お店の時みたいに頑張りましょうよ! いくらでも手伝いますよッ!」


 そう答えるのが精一杯だった。

 異世界に来て──人付き合いは慣れてきた。


 当然、恋人は欲しい……だけど、これ以上が近くなるのが怖い。


 いや、離れた時を想像したら──


 堪らなく怖い。



「──いつも私や孤児院の皆の為に頑張っているロキ君がなんですッ!」

「?!」


 まさかの告白に動揺してしまう。


 俺もサラさんの事は好きだ。


 俺はこの手を取っても大丈夫なのだろうか?


 この先──どんな形であれ、別れが来た時に耐えられるのだろうか?


 それ以上に俺は距離の近くなった孤児院から離れる事が出来るのだろうか?



「こんな年上のおばさんなんかじゃ嫌ですよね……ごめんなさい──忘れて下さい……」


 悲しそうに俯く姿に胸が痛む。



 どうしたらいい?


 俺はどうしたらいいんだ?!


 サラさんはきっと、かなり勇気を出したに違いない。どう答えたらいいんだ?!



 アァァァァァァァッ!


 考えるのはやめッ!


 どんな理由であれ、やり方であれ──サラさんはこうやって真剣に向き合って答えてくれている。


 俺がサラさんを好きなのは変わらない。


 年が離れている事を承知で告白してくれているんだ! ここで何も答えないなんて恥だッ!


 あ──なるようになれェェェェェッ!!!!



「これが──俺の答えです────」

「んん──」


 気が付けば俺はサラさんの肩を掴んで唇を重ねていた。


 サラさんを見ると、何が起こったのかわからないのか──ボーッと俺を見つめていた。


 ……やっちゃった……な、何か言わないと──


「俺の本当のファーストキスです。今はこれで我慢して下さい……大人になったら続きをしましょう」

「……嬉しいです。私も頑張って克服します……」


 涙を流しながら、俺を抱きしめてくるサラさん。



 俺も離れないように頑張ります。


 そして、覚悟を決めます。


 もうと。



『宜しい。では誓いの儀を開始します』


 ヒメのメールが表示される。


 意味がわからないが、とりあえず誓い立てるらしい。



『病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?』


 …………これは結婚式の誓いの言葉だな……。


 まぁ、でも俺はサラさんと別れる気は毛頭ない。

 離れないようにするつもりだッ!


 だからこそ、この気持ちを忘れないように先に俺だけでも誓っておこう。



 病気の時も健康な時も──


 悲しみが訪れた時も喜びにあふれた時も──


 生活が苦しい時も豊かな時も──


 サラさんを愛し、大切に助けて慰め、尊敬の気持ちを忘れず、命の限り慈しみ大切にすることを誓います。


 そして──


 例え死が俺達を別れさせたとしても──


 どんなに苦しい思いをしても──


 決して思い出は忘れないです。



『宜しい。もう一度、誓いのキスを』


 サラさんを見るとタイミング良く目を瞑った。


 俺はもう一度、サラさんにキスをする──



「──ロキ君が大人になる前に襲って貰えるように頑張りますね?」

「え? ちゃんと大人になってからですって」


 サラさんはまだ諦めていないようだ。


「ロキ君がこんな体にしたんですから──ちゃんと責任取って下さいね?」


 続く言葉にグゥの音も出なかった。


「……わかりましたよ。でも今はダメですからね?」

「それと──ミカちゃん達もロキ君の事が好きですからちゃんと向き合ってあげて下さいね?」

「へ?」


 ミカだけでも意外なのに他からもモテてるのか……。


「大丈夫ですよ。一夫多妻なんて珍しくありませんから」


 サラさんはハーレム賛成派なのか……。


 出来ればサラさん1人で十分なんだけどな……でも、ミカはまだ子供だし心変わりもするだろう。


 俺からは特に何もしない。だけど、相手から言われた場合は真摯に向き合おうと思う。


「……まぁ、俺と相手の気持ち次第という事で……」

「そうですね。それが1番ですね」

「さぁ──帰りましょう」

「──はい」


 俺はサラさんの手を握り、帰るように引っ張ると──


 花が咲いたような笑顔をしてくれた。



 俺達は月明かりが照らす中──



 恋人らしく手を繋いで帰宅した──




 途中、おっぱいをたくさん当てられて股間が痛かった。称号『性なる夜』のせいで、これからの夜が色々と心配だな……。


 それに帰りの話は──


「子供は何人欲しいですか?」とか──


「激しいのが良いですか? それとも優しいのが良いですか?」とか──


「受けと攻めはどちらが良いですか?」と色々と質問された。


 大人になる前に喰われそうな気がするし、俺も下半身が耐えられる気がしない。

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