第58話
「ゴンさんッ!!!!」
「──任せろッ!!!!」
俺の掛け声とほぼ同時に背後からゴンさんが飛び出す──
大斧が当たる瞬間に紐魔法を解除する。
ゴンさんが繰り出す“斧技”は──
“全力で振り下ろす”だ。
凄まじい破壊力の攻撃にオークキングは断末魔を上げる暇もなく真っ二つになり、そのまま地面に大斧は激突してクレーターが出来上がる。
ぶっちゃけ“斧技”はあまり技がない。
その代わりにスキル『斧術』は力に対する補正が半端なく高い。
そして、盗み見たゴンさんの
これは【斧使い】からの派生
そこに更にバフスキルと『闘気』との合わせ技でこの無茶苦茶な破壊力を生み出している。
防げる人はあまりいないだろう。
初めから全力を出していればここまでオークキングに苦戦する事はなかっただろうな……。
しかし、これがAランク冒険者か……Sランクとかはアルベルトさんみたいな人外なんだろうな……。
今の俺はゴンさんにも劣っている……まだまだ遠いな……。
今回の時間稼ぎも、正直かなりギリギリだったし、紐の使い方も見直さなければならないが──得るものは多かった。【ヒュドラ】の構成も課題だな。
それにスキル同期出来る10本の紐を増やすのと、全て“ダブル”状態にする練習、そして瞬時のスキル切り替えは急務だ。
さて、とりあえず──なんとかなったな。
「──お疲れ様です。ほら勝てたでしょ?」
俺は地面にへたっているゴンさん達に笑顔で声をかける。
「……ったく……お前は無茶苦茶だな……」
苦笑いを浮かべてゴンさんが答える。
でも、少し嬉しそうにしているようにも見える。
生き残れた事に安心しているのかもしれないな。
なんせ、生きて子供と会えるしね。
「これが俺の戦い方ですよ。内緒にして下さいね? 今の俺ならアルベルトさんに一発ぐらい入れられますかね?」
茶化すように言うと──
「無理だな。院長が本気なら全て拳だけで無力化させられた上に一方的に殴られて終わる。俺は限りなくSランクに近いと言われているが、ダンジョン攻略の時に久しぶりに会って模擬戦したら──全力を出しても普通に負けたからな……」
遠い目をしながら、真顔で否定されてしまった。
限りなくSランクに近いのに負けたのか……アルベルトさん……あんたどんだけ強いんだよ……。
「……再戦は諦めます」
「まぁ、そう言うなって。坊主の攻撃は読めねぇから、やってみねぇとわかんねぇぞ? 今回はマジで助かったわ。ありがとな? お陰で生き残れた」
俺の頭にガシッと手を乗せて頭を撫でてお礼を言ってくれた。
俺の戦い方は少し特殊だからな……ワンチャンあるのか?
それより、頭ガシガシと撫ですぎッ!
「貸しですからね?」
「ははッ、坊主の貸しは高くつきそうだな」
「当然です。それより髪の毛がぐしゃぐしゃになるからやめて下さい。あと肋骨に響くんですよ」
中身おっさんなのにおっさんに頭撫でられるとか嬉しくねぇ!
しかも、折れた肋骨が振動でめちゃ痛いしッ!
まぁ、お礼を言われるのは悪い気はしないけどな。
「わりぃわりぃ。その割に照れてんじゃねぇか」
「──うっさいッ!」
そういえば──
父親ってこんな感じだった気がする……懐かしいな。
ゴンさん達が回復するまでしばらく雑談しながら時間を潰した。
とりあえず、これで
未然に防いだ以上はモンスターが少なくなるから、肉はこれ以上手に入れるのは難しくなるだろうが──
ゴンさん達のフラグは折れたはずだし、後は稼ぐだけ稼いだら肉を一気に売り払って──アルベルトさんの帰宅を待つだけだな。
「ぼちぼち帰りますよ」
「そう、だな。2人とも動けるか?」
「大丈夫そうだ……こんなに早く回復するものなのか?」
「さっきまで動けないぐらい消耗してたんだがな……」
30分近く──紐に『マッサージ』を同期させて巻きつけていたから動けるはずだ。
おっさんには“快楽増進”は発動しないと決めている。発動しているのは“疲労回復促進”と“体力・魔力回復促進”だけだ。
ちなみに俺は称号の『賢帝』さんと『性者』さんが発動していて魔力と体力は万全に戻っている。
そんな事を考えていると──ヒメからメールが届いた。
『ミッションコンプリート★ はよオークキングの肉を寄越せ♪』
……お前は相変わらずだな……まぁ、オークキングの肉は俺も食ってみたいけどな。
後でゴンさん達と交渉するか……。
それにしても肋骨が痛むな……ポーションは品切れだし──帰ったらサラさんに治してもらうしかないな。
無断で出てるから怒られるのは仕方ない……覚悟してたからな……ただ──怒りを抑えてもらう為にどんな要求をされるのか不安しかない。
「──オーガだな……めんどくせぇ……」
ゴンさんの言葉に振り向くと、鬼顔のオーガが現れた。
討伐ランクはCだが、皮膚が硬いせいで防御力が高く倒すのが面倒臭い。
だが──
一度“ダブル”の【風蛇】を試すのも良いかもしれない。
紐を出そうと手を伸ばすと──
ドガァァァンッ、という音と共にオーガはペシャンコになった。
俺は何もしていない。
オーガを見ると──原型を留めておらず、小さなクレーターが出来上がっている。
「「「……」」」
いきなりの出来事に全員が押し黙る。
ちなみに押し黙ったのは理由がある。
ペシャンコにした人物に見覚えがあったからだ。
そこには──サラさんがいた。
オーガをペシャンコにしたのはサラさんの手加減無しのメイス攻撃だった。
サラさんを見ると──
「──みぃつぅけぇたぁッ!!!!」
ゆらゆらと幽鬼のように揺れていた。
完全に堕天使モードだった件について──
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