第57話

「任せました。さぁ──ヒュドラ、舞え──そして、喰らい尽くせ────」


 俺は“紐技”【ヒュドラ】を使用する。


“喰らい尽くせ”か……中々、格好良いセリフを言った気がするが──


 使うのはいつも通りの紐魔法だけどな……。


 ヒュドラとは首がたくさんある伝説級のモンスターで首は9〜100と無限に再生して増えるという怪物で、少なくともゲームではかなり強かった。


 俺の紐もほぼ無限に出せる事から、それにちなんで名付けただけだったりする。



 でも、この新技を討伐ランクAに対して使える事は素直に嬉しい。


 俺の力が──どこまで通用するのか見極めさせてもらおう。



「ブモォォォッ!?」


 大量に発生させた紐はオークキングに向かって絡みついていく。


「ドバンさんとジギルさんは回復しているゴンさんを守って下さい。時間稼ぎは俺1人で出来ますッ!」

「「──?! わかったッ!」」


 2人はゴンさんのところへ行くかどうか迷うが、目の前の状況に付け入る隙が無いと判断して離脱する。


 これからの戦闘は仲間がいるとやり辛い。


 この【ヒュドラ】は大量の紐を出して攻撃する紐技なのだが──メインで操る紐にそれぞれスキルを同期させるのが特徴だ。


 ちなみにスキルを同期させる紐の限界数は確認した限り10本だ。


 全て同期させるのが、難しく──助けに出るまで時間がかかった。


 精密に操らなければ、10本ぐらいは普通に扱える。


【風蛇】を同期させた2本を守り用に展開し、残り2本には『身体強化』を自分に、『マッサージ』の効果である疲労と体力回復用でゴンさんに使用している。


 大量に出している紐を足止めに使い、残り6本を攻撃に回す。


 通常の“紐技”は効果がないのはわかっている。

 現にオークキングは紐を振り解きながら、俺に攻撃をしてきているからな。


【土蛇】では拘束は不可能だ。

【風蛇】も皮膚を傷付けるので精一杯だろう。

【爆火】も威力が足りない。当然【炎蛇】も効果は期待出来ない。

【水縛】も【水蛇】で絡めとるまでに脱出されるだろう。仮に捕まえても多少動きを鈍くさせるぐらいだろう。


 しかし、それはに攻撃をした場合だ。


 さぁ、オークキングよ──


 かな?



「俺のスキルと紐はエロいだけじゃねぇからなッ! 見せてやる──本当の紐ムーブをなッ!」



 まずは【風蛇】を使って遠距離で出血させて気を逸らし──


 オークキングの両足に【土蛇】2本を使って地面に固定する──


 次に1本の【水蛇】を顔面に巻きつけ【水縛】で水で覆って判断力を低下させ──


 最後に2本の【炎蛇】を全体に巻きつけ──


 込めれるだけの魔力を込めた【爆火】を発動すると──



 ドォォォンッ、とけたたましい音と共にオークキングは爆発する。



 だが──


「はぁ……はぁ……けっこう魔力の消費がキツいな……」


 肉の焦げる臭いはするが、オークキングは倒れていない。


 わかってはいたが──やはり火力が足りないか……このまま1人で勝つのは無理だな。


 火力特化の違う戦術を取ろうにも同期させたスキルを変更するのに時間がかかる。まぁ、元々時間稼ぎ用の構成にしたからな。


 当初の目的通り、時間稼ぎに徹するか──



「ウゴォォォォォォォォッ──」


 オークキングは雄叫びを上げると巻き付いた紐を全て振り解く。


 ゲームでいう最終フェーズだ。

 おそらく『暴走』と『咆哮』を使われた。

『咆哮』はレジスト出来るが、『暴走』は厄介だ……ステータスが2倍になったはずだ。


「──はやッ?!」


 デカい図体で速すぎるだろ……。

“ダブル”を使ってもギリギリか……【ヒュドラ】で負担は大きいが──“トリプル”で対応するしかねぇな。



 どんどん迫り来る棍棒をなんとか紙一重でかわしていく──



 ここまで経過した時間は約2分。


 残り3分──時間を稼いでゴンさんに繋ぐッ!



「──やべッ?! “受け流し”──いったいなぁッ! “正拳突き”──」


 気を抜いた瞬間にオークキングの攻撃が迫ってきたので、“武技”で対応するが避けきれずに怪我を負うが、“トリプル”状態で“正拳突き”をお返しと言わんばかりに放つ。


 重ねがけの攻撃力だと言うのにオークキングは全く怯まない。それどころかお構い無しに反撃してくる。


 これが討伐ランクAか……強すぎるな。


 治療出来るが──俺のは他人にしか使えないからなぁ……ポーションぐらい持ってきたら良かった。


『回復いる?』


 普通にいるだろ……たぶんこれ──肋骨にヒビ入ってるからな?!


『痛いの痛いの飛んでけ〜★』


 うっざッ!

 というか戦闘中に出てくんなッ!



 あー5分が長い……このまま接近戦は不利だな。



 だが、残りは後1分──



 今、使える紐はゴンさんの回復用と自分の強化用に巻いているのを除くと8本。

『風魔法』が3本、『土魔法』と『火魔法』が2本ずつ、『水魔法』が1本……か。


 殺傷力が低い【水蛇】は捕縛用に回すか──



 俺は一旦距離を取る。

 そして【水蛇】に魔力を込めて水を大量に放出し、【流水】を発動させて浮遊させて行動に移す。


「【爆火】──そんで【土蛇】からの──【土縛】────追加で【矢風】“ダブル”3連──そして【流水】からの【水牢】ッ!」


 オークキングの顔面付近で【爆火】を使い、目眩しをした後、一瞬動きが止まった瞬間に【土縛】で足元だけを強固に固定する。


 そして、『風魔法』で貫通力の高い“風の矢ウィンドアロー”を重ねがけした“ダブル”状態の紐を放つと貫通はしないが、突き刺さり──動きを更に止める事に成功する。


 すかさず最後に【水流】を巻き上げるように放ち、水に閉じ込めながら縛り上げ、【水牢】を完成させる。


【水縛】よりも大量の水で覆う【水牢】ならば完全に動きを封じ込めれるはずだ。

 水の中では亀甲縛りされているが、この際置いておく。



 水を更に増やして身動き取れないようにしてやる──


「「「ブモッ!!!!」」」


 ちッ、こんな時に普通のオークなんか現れんなよな!?


 今ここで、攻撃を受けて紐を解除されれば負ける──


「坊主、こっちは俺達に任せろッ!」

「そっちは任せたぞッ!」


 ドバンさんとジギルさんがタイミング良く現れ、俺を守ってくれた。



 ──助かった。



 その間に【水牢】の水を更に増やしてオークキングの動きを更に阻害する。



 よしッ、これで準備は整った──

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