第56話 side【ロキ】→【ゴンザレス】

「けっこう大きいな……」


 いざ、ゴンさん達の元へ来たは良いがオークキングが普通に大きかった。


 何メートルあるんだろ? 5メートルぐらいか?


 オークキングが棍棒を一振りすると、周りの木々はへし折れている。


 それなのに何で悠長に見ているか?


 だってさ……その攻撃をドバンさんが盾で受け流しながら剣で攻撃し、隙が出来るとジギルさんの槍は足を突き刺して、バランスを崩した状態になったらゴンさんが大斧で吹き飛ばしてるんだぜ?


 普通に押してるんだよな……俺のいらなくね? って感じだ。


 連携も素晴らしい。Aランクパーティというのは普通に強いな……暗いのに良く戦えている。



「グボォォォォォォッ──」

「うっさ?!」


 オークキングが咆哮を上げると威圧が増した気がした。

 離れていても耳が痛いな……。


「「「?!」」」


 ゴンさん達の様子がおかしい気がする。


 続くオークキングの攻撃にゴンさんだけが対応するが、そのゴンさんの動きが鈍い。


 そういえば──スキル『咆哮』は“硬直スタン”と“混乱”と“ステータス低下”の状態異常を受けるんだったな……。


 ドバンさんとジギルさんはもろに硬直スタンを受けているのだろう。


 ちなみに俺は『全状態異常耐性』を紐に同期しているのでレジストしているので問題ない。


 討伐ランクAは伊達ではないな……一筋縄ではいかないか。



 先程、ゴンさんは雄叫びを上げていた。

 おそらく──スキル『気勢の雄叫びウォークライ』を使ったのだろう。他にも『身体強化』などの強化系スキルも使っている。


 動きが先程よりも良い。



 それでも、ゴンさん1人での勝率は五分と言ったところかな?

 俺が介入した方が楽に勝てるだろう。


 ここで3人死なれると困る。


 ただ、介入しても生半可な攻撃だと通用しない。

 時間は多少かかるが、今出来る最高のを使うしかないだろう。


 トドメはゴンさんに任せよう。


 準備するまでゴンさん頑張ってくれ──



 ◆ side【ゴンザレス】



 ギルドに報告したら、指名依頼で調査を受けてしまった。

 日中は坊主の約束もあるから夜中に調査しているわけだが──


 まさかとは思ったがオークキングが出現する事態に発展しているとはな。



 オークキングのは討伐ランクA相当だが、群れを率いた場合はSにまで跳ね上がる。


 繁殖力が強く放っておけば放っておくほど危険なモンスターだ。


 夜というハンデはあるので、調査だけ済まして帰るつもりだった。


 しかし──


 何故か、モンスターの数が異常に


 全然モンスターを見かけなかったから氾濫スタンビートの可能性は低いだろう、とか思っていたんだが、街からけっこう離れた場所でオークキングと接敵した。


 オークキングはまだ発生したばかりなのか、そこまでの群れになっていなかったのは幸いだった。


 それとも午前の狩りで群れを成す前に阻止出来たのかはわからない。


 千載一遇のチャンスに俺達は討伐を選択した。



 最初はなんとかなっていた。


 だが、暗く視界の悪さが俺達の動きを鈍らせてしまい『咆哮』を使われてしまう。


 これを使われてしまう前に仕留めたかったのだが、使われた為、俺達は現在──



 窮地に立たされている。



「──ウオォォォォォォッ────」


気勢の雄叫びウォークライ』『身体強化』『威圧』『狂化』『金剛』『腕力強化』などのバフ、デバフスキルを出し惜しみなく使う──


 時間制限はあるが、今の状態ならタイマンでも渡り合えるはずだ。


 最悪、時間稼ぎさえ出来れば立て直せる。問題は俺のスキルの効果時間内にドバン達が戦線復帰出来るかどうかだ。



「おらァァァァッ──“スマッシュ”ッ!!!!」


 オークキング目掛けて大斧を勢い良く撃ち下ろすが──


 オークキングの棍棒により、ガギンッ、鈍い音と立てて拮抗する。


 現状、パワーは互角だ。


 ちッ、『咆哮』を受ける前に一気に決着をつければ良かったな……。


 このままではドバン達が回復するまで俺の方が先にスキルが切れてしまう……。


 2人を見殺しにして逃げるという選択肢は俺には無い。


「ドバン、ジギル──動けるようになったら退却しろ。こいつは俺が必ず殺す。孤児院の事と──俺の子供は任せたぞ」

「「な?!」」


 こいつさえ倒せれば、孤児院の方は2人に任せられる。


 嫁さんと、まだ産まれていない子供には悪いが──


 一か八か相打ち覚悟で倒すしかない。



 もう、後の事は考えねぇ──


 俺はスキル『闘気』を発動する。


 この『闘気』は爆発的に戦闘力は上がるが、世間では寿命を使うスキルと呼ばれている。


 それは生命力を代償に身体能力を上げるスキルだからだ。


 俺は何度も使っているが、これはおそらく──


 自分の技量と、使用時間が関係していると思っている。


 自分の力量を超えて無茶をすると体にかかる負荷が半端ない。


 だが、俺は死ぬまで『闘気』を使うだろう。


 それが恩人の院長であるアルベルトさんの孤児院を守る事に繋がる。


 俺の家族には孤児院の子供達も含まれている。


 嫁さんも卒業生だ。それぐらいは理解してくれるだろう。


 むしろここで命を賭けられないような奴なら、殺されちまうからなッ!


「さぁ──行くぜッ!」


 俺は“斧技”である“斧乱舞”と“スマッシュ”を交互にオークキング目掛けて放つ。


 徐々にダメージを与えているが、致命傷には至らない。


 むしろ、オークキングは多少の傷を受けるのを覚悟して反撃してくる。



「──これぐらいで俺がやられるわけねぇだろうがァァァァッ!!!!」


 しばらく決死の覚悟で撃ち合うが──


 俺のスキルが次々と効果を失って、俺の体は鈍くなっていく。


 もう、限界だな……。


 棍棒が俺の顔面に迫る──



 あぁ──


 産まれてくる我が子よ……せめて顔ぐらいは見たかったぜ。



「──“鉄壁”──勝手に死ぬんじゃねぇよッ!!!」


 ドバンが俺の前に現れ、盾で棍棒を受け止める。


 そして──


「──“螺旋突き”──俺らも最後まで共にするぜッ!」


 ジギルが背後から槍を突き刺して動きを止める。



「「今度は俺達が時間を稼いでやるから、さっさと回復しろッ!!!!」」


 2人はそう言い放ち、オークキングと戦い始める。



 馬鹿野郎が……逃げろよな。何で残ってんだよ。


 お前らの腕じゃ死んじまうだろうが……。


 ちくしょう……『闘気』で体力を使い切ったせいで直ぐに動けねぇ……。


 このままだと全滅しちまう──



「──“ヒュドラ”──」


 その時──聞き慣れた声が聞こえてきた。


 それと同時にオークキングの周囲から紐が大量に地面から生えて動きを封じようと絡まっていく。


 この紐は──坊主か?!

 何故こんな時間に外にいる?!


 しかも最悪な状況で出てくるんじゃねぇよ!?



「──やっと準備完了です。まだ戦えますか?」


 俺の後ろから肩を叩きながら聞いてくる。


 腕からは魔力を込めた紐を出している。


 その姿はオークキングを目の前にしても怯えはない。

 既に覚悟を決めている顔付きだ。


 戦うつもりか……今の状況では避難させる事もできねぇな……。


「お前はさっさと逃げてギルドに討伐隊を組むように伝えてくれ。足止めぐらいはしてやる」

「え? 嫌ですけど? に逃げるとかあり得ませんよ。それともゴンさんは負けるつもりなんですか?」


 こいつは馬鹿じゃない……勝てる戦闘と言うからには何か策があるのだろう。


「──ここで死ぬかもしれなくても残るのか?」

「ふふっ、誰も死にませんし──殺させませんよ。あ、トドメは任せましたからね? 時間はどれぐらい必要ですか?」


 何でそんなに余裕なんだよ……。

 こいつ本当に逃げる気がねぇな……時間稼ぎに徹してくれたら確かに勝機はある。


 それには時間が必要だ。……『闘気』を使い続けて既に体力がキツい、だがそれは気合いでなんとか出来るが──


 それだけでは足りない。


 攻撃が通るぐらいの最低限のバフ・デバフ系のスキルを使うには──


「5分だな」


 せめて5分ぐらい時間を稼いでくれたら俺の死力を尽くした攻撃が出来るはずだ。


「──それぐらいなら余裕ですよ」

「──?! これは?!」


 坊主は俺に紐を巻きつけると尽きたが回復していく。


「回復してるんですよ。闘気の使い過ぎで体力が尽きかけてるでしょう? それと、これはです」


 坊主の指で何ヶ所か押された後、体から力が漲ってきた。体力の回復速度も早くなっている。


 いったい何が起こったんだ? 何かの魔法か? それともバフスキルか?


 それに体力が回復するスキルなんぞ聞いた事がない。


 坊主はこれから死地に向かうというのにいた。


 こいつは──


 性癖が歪んでるだけじゃねぇ。


 頭のネジが何本か吹っ飛んでやがる。



 だが、ありがてぇ。時間さえ稼いでくれれば──


「トドメは任せろッ」


 勝てる。


「任せました。さぁ──ヒュドラ、舞え──そして、喰らい尽くせ────」


 坊主は俺に背を向けて紐を放つ──

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