第24話 side【アルベルト】

──どうしますか?」

「う〜ん、これは困りましたね……予想外です」

「そうですね……しかも相手が悪いですよ。確か相手は──新人冒険者とかから金を巻き上げたり、暴力的で素行が悪いからDランクから上がらないと噂されてる──ゲルツですね」

「どうするべき──か、ですね……」


 私は現在、ロキ君が試験で不正をしないかどうかの監視を行っているんですが──


 困った事になりました。


 孤児院に近付いてきたので、こちらで用意した冒険者に行って頂こうとしたら、別の冒険者が現れてしまいました。


 しかも見た感じ──Cランクでも通用するぐらい強い方でしょうね……。


 今回用意した冒険者は孤児院から卒業した子で名をカオル君と言います。

 若くして『魔法剣士』の職業ジョブになった新規新鋭と呼ばれるぐらい才能があります。


 きっと将来はAランク──いえ、Sランクも狙えるでしょう。


 今回、Cランクに昇格したお祝いに魔法袋をあげようと思っていた所、ロキ君が街中を1人で出たいと聞いたのでロキ君に勝てればプレゼントする予定でした。


 双方の実力を確認する良い機会だったのですがね……。


 どうしましょうかね?

 私が出れば即解決しますが、それでは甘やかしすぎでしょう。


「カオル君はロキ君をどうみますか?」

「……そうですね……事前情報でスキルとかは簡単に聞いていましたが──正直常軌を逸しているとしか……戦闘スキルもありませんし……とても10歳とは思えません」


 まぁ、そうでしょうね。

 武器を使わず、戦闘スキルも無い。

 ただの紐だけでチンピラを圧倒しましたからね。


 私の訓練にも食い下がるぐらいですから才能はカオル君と良い勝負するでしょう。


 しかし、まだDランクは早い気がしますね……まぁ、勝たせるつもりは全くなくて、Cランクであるカオル君を相手に決めた私が言える事ではありませんが、これでは試験ではなく実戦になってしまいます。


「勝てると思いますか?」

「──無理ですね。ゲルツは弱い物いじめが好きで好んでよくやってますが、強さは本物です。俺が助けましょうか?」

「……普通はそう言いますよね。実はロキ君と初めて出会った時──オークを無力化していたんですよ」

「オークを? 戦闘スキル無しの10歳の子供が──ですか?!」

「何があったのかは見てないのでわかりませんが、少なくともオークに近いはあると思っています。それに夜な夜なをしてましたしね。危なくなれば助ける方向で行きましょう。ここは教え子を信じます。なんせロキ君は私との訓練についてきてますからね」


 ここは信じるというのも一つの手でしょう。なぁに、即死でなければ私が治しますしね。


 私は満足そうに頷いていると──


「……いや、院長の訓練についてきてるんですか? 俺でもギブアップしたあの地獄のような訓練に?」

「失礼な事を言わないでくれませんか? あれぐらい耐えられて一人前なんですよ」

「今でも耐えられる気がしません。ロキ君って子はマゾなんですか?」

「……マゾではありませんが、少し性癖が歪んでいますね……」


 亀甲縛りなどでチンピラ相手に縛って遊ぶ姿を見ると少々、将来が不安になりますが……。


「さぁ、始まるようです」

「俺はいつでも行けるように待機してますね」



 ロキ君とゲルツは構える──


 おや、よく見ればロキ君は紐を手に握って剣のようにしていますね。相手に合わせてスタイルを変えれるのは素晴らしい対応力です。


 ですが、あの紐の強度で剣と撃ち合えるのかはわかりません。


 対するゲルツは構えを見るに──剣技である“乱れ突き”で一気に決めるようです。


「ちなみにゲルツの職業ジョブはなんですか?」

「確か──『凶戦士バーサーカー』だったはずです」


 ゲルツの職業ジョブは『凶戦士バーサーカー』ですか……確か職業ジョブ補正に“疼痛耐性”があった気がします。


 一筋縄ではいかなそうですね。



 2人は一気に間合いに入り──


 先にゲルツが“乱れ突き”を繰り出します。



 その時、ロキ君は微かに笑っていました。



 そして──


「おや?」

「まだ俺でさえ使えないのに?!」


 次の瞬間、私は目を疑いました。カオル君もかなり驚いています。


 それもそうでしょう。


 紐が切られていないのはまだいいです。相当上手く合わせているのでしょう。


 何が驚いたかと言うと──


 ロキ君はである“陽炎”を使ったのです。

 陽炎は魔力を放出させながら動く事により、ブレて見える上に、気配を増やし、惑わせる事が出来ます。それにより、相手を一瞬混乱させる狙いもあります。


 この年でこれを扱えるとは……末恐ろしい子です。

 隠れて体術スキルのレベルを上げたのでしょうか?


 一度、スキルを再確認しないといけませんね……。


「しかし、まだまだですね」

「いやいや、何言ってんですかね?! Bランクでも使える人が少ないんですよ?! 基準がおかしいッ!」


 そう言われても、まだまだ未熟で簡単に見抜く事が出来るレベルですからね……。


 現に全ての“乱れ突き”を避け切れていない。




 ゲルツはすかさず、バックステップで下がり──剣技“飛剣”を使って斬撃を飛ばします。


 それに対してロキ君は剣の長さの紐で“スラッシュ”で飛ぶ斬撃を切り捨ててますね。


「おぉ、これぐらいなら紐が切れないな♪」


 ロキ君からルンルンの声が聞こえてきました。

 武技を無力化して紐が切れていない事も驚きですが、間違いなくロキ君はスキルである“スラッシュ”を使いました。


 謎は深まるばかりです。


「……院長……情報と違うんですが?」

「いや、私も驚いてますよ。カオル君が相手したらどうします?」

「──全力でやると思います」


 でしょうね。彼は特殊過ぎます。

 普通のDランクぐらいであれば倒してしまいそうですね。


 私達は更に驚く光景を見てしまいます。


 ロキ君は“スラッシュ”をのです。


 いくらなんでもこれはおかしいですね。“武技”には必ず技が出す事が出来ない時間──します。


 それを無視して同じ武技を使う事は不可能。


 威力が高い、脅威的な連続技です。


 もしかして武技では無い?


 あぁ──なるほど。



「院長……あれ出来ます?」

「──似たような事は出来ますよ?」


 ネタが割れたら簡単な話です。


 ロキ君は使


 武技の動き方は理にかなっています。

 正しい動きを真似るだけでも、そこそこ威力が出ます。


 私もよくしていますしね。


 私がよく使う“乱打”は一撃一撃が普通の方の“正拳突き”以上の威力がありますから。


 まぁ、子供がそれを成している事に驚きが隠せないですがね。


 普通であれば血の滲む修練の末に習得する技術ですから。


 普通の環境で育っていないのかもしれません……。


 この先、孤児院の子供達と仲良くなって普通の生活を送ってほしいものです。


 ……いえ……既に手遅れかもしれませんね。


 就寝時間になるとサラの部屋から喘ぎ声が聞こえてきますし……他の子に悪影響が出ないようしないといけません。


 サラはショタコンなのでしょうか?

 まぁ、サラは私以外の男性は苦手です。

 基本的に男性不信なので、そのまま治れば良いのですがね……。



「──そろそろ決めるよッ!」

「このゲルツ様を舐める──なッて、言ってんだろうがッ!!!!」


凶戦士バーサーカー』の『』スキルを使われたようです。


 効果は──


 理性と引き換えに全身の筋力強化が約2倍と、物理・魔法耐性のUPでしたかね?


 さぁ、ここからが本番ですよ?


 頑張って下さいね?


 久しぶりにわくわくします。



「ちょ、ちょっと院長ッ! 笑ってる場合じゃないですよッ! あれヤバいですってッ!」

「見守りましょう。子供の成長は早いものですね」

「何を達観してるんですかッ!?」



 カオル君は心配性ですね〜。

 即死するぐらい危なくなったら、ちゃんと私が割り込みますよ。

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