第25話
「──そろそろ決めるよッ!」
「このゲルツ様を舐める──なッて、言ってんだろうがッ!!!!」
名前はゲルツっていうんだね──
──って、うおッ?! 速いな?!
ゲルツの動きは急に速くなり、紙一重で斬撃を強化した紐を使って避ける事に成功する。
紐を切られないようにする為に“流水”という体技を使っているのだが、これがけっこう難しい。
分類上は体技に入るが、実は全ての戦闘職で使える。
要は相手の動きに合わせて避けるというだけの体技だ。
これは武器を使用した場合にも応用出来る。
剣なら剣を合わせて逸らす事も可能なので武器破壊の攻撃にも対処出来るのだ。
今はそんな事よりもゲルツが問題だ。
さっきよりも、動きは荒いが──身体能力が上がっている上に攻撃を当てても効果が少ない。
おそらく──『凶化』を使われた。
こいつの
『凶化』は身体能力と耐久力の上げ幅が半端ないスキルで武技を放たれたら即死もあり得るぐらい凶悪だ。
しかし、武技を発動しないとこを見るに
まぁ、それでも油断は出来ない。
というか、ヤバいッ!
動きが段違いだ!
先程から“陽炎”や“流水”などの回避系の模倣武技を使っているのに攻撃が捌ききれていない。
あー無理ッ! もっと練習しとけば良かった!
俺はたまらず一旦、距離を取り──紐形状『剣』を解く(剣ではないが、剣の長さで硬化させた状態を通常の紐の状態にした)。
そして、戦闘スタイルを中距離から近距離用の【
「──しゃらくせぇッ!!!!」
「嘘ん……」
わかってたけど、紐による妨害攻撃が全く効果無しだな……全て斬られている。
こんなの差し向けてくるアルベルトさんが鬼畜にしか思えないんですけど!?
普通に油断したら死ぬじゃん?!
普通さ、こんな事になったら中断とかしない?!
俺はマップを起動させてアルベルトさんがいる方向を見ると──
誰か知らない人と一緒にこちらを見ていた。
アルベルトさんと目が合うと、満足そうに笑みを浮かべて頷く。
どういう意味の頷きなのだろうか?
『通訳:さっさとボコしろ』
それ本当か? 本当にアルベルトさんがそう言ってんのか?!
そもそも、お前孤児院にいるだろうが?!
ここにいねえじゃねぇかよ!
何でわかるんだよ?!
どちらにせよ、アルベルトさんに止める気配が無い以上は戦う以外に選択肢がない──
わかりましたともッ!
お外に出る為に──俺は自由を掴み取りますともッ!
睡眠を返上して夜な夜な頑張った成果を見せてやる──
【蛇】を使って、ゲルツに巻きつける。
「──“紐技”【魔式:風蛇】──もう手加減してやらんからなッ!」
そして、魔法スキルを同期させる──
「こんな紐ぐらい直ぐに引きちぎって──ぐあァァァァ────」
ゲルツは全身血まみれになりながら叫ぶ。
同期させたスキルは『風魔法』だ。
今、俺が使っている紐は風魔法によりコーティングされ、鋭い刃となり襲いかかる。
当然、紐の特性を引き継いでおり、うねるように動く事も可能だ。
一度触れれば──
鮮血の嵐になること間違い無しの技だ。
今回は油断を誘う為に、巻き付けた後に発動させた。
その結果──
全身を切り刻まれて絶叫しながら転がっている。
初めて実戦で使ったが、良い感じに仕上がった。
耐久性の高い『
「グガァァァァァッ」
「しぶといな……」
ゲルツは俺を視界に捉えると、再度攻撃を仕掛けてきた。
白目剥いてるし、意識はなさそうだな……。
後はこいつにトドメを刺すだけなのだが──
これ以上、魔式を使うと殺してしまう。アルベルトさんが雇った以上、殺しは不味い。
というか、普通に街中で殺しはダメだろう。そもそもそんな覚悟なんかない。
しかし、ゲルツは自我がなさそうだしな……放っておいたら周りに被害も出そうだ。
なんとか無力化して孤児院に戻りたい。
『ロキ兄にはあれがあるじゃないか♪ たまには男のアヘ顔も見たい★』
……こいつ他人事だと思って好き放題だな……。
あれとは十中八九──“快楽紐”の事だろう。
男にだけは使うまいと決めたが、無力化が難しい以上はそれが1番手っ取り早いのは間違いない。
でもなぁ……男のアヘ顔なんて見たくないんだが……。
ここは我慢するか……とても嫌だけど……。
あぁ、神様──
俺は今日──罪を犯します。
“男にアヘ顔をさせるという”罪です。
罰は見たくも無いアヘ顔を俺が拝む事で──
どうかお許し下さい。
『つまらん懺悔だが、許そう★』
誰もお前なんかに言ってねぇよッ!!!!
お前が100歩譲って神様だとしても邪神確定だろうがッ!
「──さよなら────」
俺はゲルツに紐を巻き付け、全力で魔力を込めて“快楽紐”を使用する──
ゲルツは声にならない声を上げて、正気に戻った。
股間は濡れていた。
それ以上は……言わせるな……本当、男のアヘ顔が脳裏に焼き付いて吐きそうだ。
ちなみにアヘ顔が終わると「お前の顔は覚えたからなッ! ぜってぇ──殺すッ!」と脅されたので、嫌だったけど今度は魔力全開でツボのピンク色を押した。
すると、涙と鼻水、涎を垂らして更に酷い状態になる。
なんとか耐えようとしているのはわかったが、これ以上俺が耐えれない……。
それでも正気に戻ると「殺す」と連呼されたのでツボ押しの連撃で昇天させた。
その結果──泡を吹いて、痙攣した。
その顔は幸せそうだった。
でも、俺はしばらく夢に見てうなされそうなぐらい精神を磨耗した。
アルベルトさんはどうやって人選したのかはわからないが、こんな奴が良い冒険者なんて事はないだろう。
むしろ、街中で抜剣したので犯罪者と言っても過言では無い。
試験なんかで逆恨みとかされたくないので社会的に抹殺しようと決めた。
法で裁けないなら俺が裁く。
他人なんて心底どうでもいいからな。
帰ったら、サラさんに癒されよう。
こうしてゲルツは下半身ベタベタの状態で亀甲縛りし、街頭に吊るして、その場を後にした──
孤児院に帰宅するとアルベルトさんから「いやー素晴らしかったですよ! さすがはロキ君です。まさか実戦でCランクの相手に勝つとは思いませんでしたよ」と喜ばれた。
俺は実戦の言葉に引っかかったので詳しく聞くと──
「本当の試験官はこの子ですよ。ここの卒業生です」
そう、あの時一緒にいた人を紹介しながら言われた。
俺の戦闘は評価がかなり良かったようで、試験は合格し、大層褒められたが嬉しくなかった。
だってさ……ゲルツとやらは本当に魔法袋狙いの賊だった事が判明したのだから。
下手したら死んでたじゃん?!
というかイレギュラーが起こったら中止しろよ?! 試験だろ?!
あと、この街治安悪過ぎるだろ!
──そう心の中で色々と叫んだ。
これは余談だが、後日アルベルトさん曰く──
ゲルツは街の晒し者になり、街を去ったそうだ。
一応、逆恨みとかで狙われないかをチェックしていてくれたみたいだ。
そのゲルツは裏で相当汚い事をしていたようで、買い物に行くと──俺の事を知っている人は感謝してくれた。
とても良い気分だった。
知り合いとかは少ないのだが、脱走とかしまくってるせいで俺を知ってる人は知っている。その人達が更に噂を広めていった。
孤児院の卒業生で本当の試験担当だったカオルさんから冒険者ギルドで俺の話題で持ちきりだと言われた。
そして噂の内容を知った時、俺は街を歩く頻度が減った。
“紐を使った変態な縛り方をする激強の子供がいる”──
そんな事言われて、堂々と歩けるほど俺のハートは強く無い。
あ、ちなみに今回の死闘で紐魔法を使いまくったせいか、Levelが3になった。
効果は“契約”及び“召喚”だった。
まさかのテイム系の能力に、いつか可愛いもふもふのマスコットが欲しいなぁ、と現実逃避した──
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