第23話

 ゲームの設定がこの異世界に関係している可能性に気付いてから2週間程が経過した。


 訓練はちゃんとやるようにしている──



 ……嘘です。

 やっぱり辛くて逃げ出したりしました……どっかで修行して帰ってきたら良いだろうと思ってました!


 まぁ、どうせ逃げれなかったんですけどね!



 やる気出したら出したで、アルベルトさんの訓練が更にキツくなったんだよォォォォ!



 まぁ、そんな事より──今は使が最優先だ。肉屋に行かなければならない。


 アルベルトさんが倒した大量の魔物肉を売りに来たのだ。


 ちなみにミカとサラさんはいないし、他の子供もいない。


 俺1人だけだ。

 と言ってもアルベルトさんからはされていてはいるけどね。


 マップには反応があるので間違いなく見ているだろう。すんごく遠いとこからだけどね……。


 実はこの肉を売るお使いはなのだ。


 俺が住んでるこの街って、実はかなり治安が悪い。裏路地とか入るとチンピラに絡まれたりする事が日常茶飯事だ。


 試験をクリアしていない子供達は基本的に買い物はフォーマンセルで行くらしい。

 ミカは街を1人で出歩く試験をクリアしているらしく、俺も試験をやりたいと言ったのが事の発端だ。


 より多くの情報を集めるには1人で自由に動ける時間がほしいからね。いつも誰かが付き添うから動き辛い。



 さて、話を戻そう。

 子供だけでお金や高価な魔法袋を携えて買い物に行くのは鴨がネギ背負ってるようなものだ。


 アルベルトさんは負けた方が悪いという方針だから治安云々に関しては特に対応はしていない。


 むしろ、負けた場合は訓練量が増えるので最悪らしい。


 買い物の際は、どんな手段を使ってでも無傷で孤児院に帰るようにと言われている。


 一応、絡まれた時は素直に残りのお金だけ渡して帰っても良いと言われているのだが──



 俺は違う。


 当然反撃する。というか、誰が付き添っていようがお構い無しに反撃した。



 だって、残りのお金ってお駄賃になるんだぜ?

 お金を得る手段はこれしかないんだ。


 誰が渡すものかッ!!!!


 という感じでよく倒している。もちろん無傷でだ。


 そして、お駄賃は山分けするのが定番だったりするので俺が行く時は誰が行くのか揉めるらしい。


 常勝無敗とは俺の事だッ!

 夜な夜な隠れて修行した甲斐があるってもんだ! 脱走は失敗してるし、アルベルトさんに一発も攻撃が入らないけどね!



 まぁ、そういうわけで基本的にお買い物やお使いの時は危険が付きまとうから試験が用意されてるわけだ。



 さて、肝心の試験内容だが──


 簡単に言うと、肉を売り払って、戦闘系職業ジョブの人に勝つか逃げるかして孤児院まで戻れば合格らしい。


 合格すれば1人で街に出て良いし、門限もなくなる。


 これは本気でやらねばなるまい。



 ちなみに戦闘系職業ジョブの相手はアルベルトさんが試験を受ける子供に合わせた強さの冒険者を雇っているらしいので命の危険はないらしい。


 ……まぁ、ミカもクリアしてるからなんとかなるはずだ。


 ちなみに街の外に出る許可はモンスターとの実戦訓練後でないと出ていけない決まりだ。

 以前ミカと初めて出会った時は無許可だし、実戦訓練もしていなかったらしい。


 更に余談になるが、現在街の外に出ているメンバーは今年卒業する人達だけだ。

 大体、実戦訓練は卒業1年前ぐらいから開始するらしい。非常に楽しみだ。



 しばらくして──


「すいませーん、肉の買い取りお願いします」

「おぅ──ん? は?」


 俺は肉屋に到着したので、魔法袋からどんどん肉を取り出していく。


 おっちゃんはポカンとその光景を眺めている。


「あ、アルベルトさんからのお使いです」

「あー試験ね……こっちとしては高級な肉が手に入るから嬉しいがね。坊主も頑張れよ」

「はーい」


 名前を出せば買い取ってくれると聞いていたので名前を出すと普通に納得された。

 アルベルトさんは試験に肉屋をよく使っていると言っていたから、おっちゃんは事情を知っているのだろう。


 俺は肉屋のおっちゃんから金貨数枚を受け取る。



 さて、ここからが試験開始だ。


 マップを見る限り──


 肉を売った瞬間に複数人が赤色の反応を示した。


 悪目立ちし過ぎるのも試験の内だ。


 子供が、魔法袋と金貨を持っていたら狙われるのは分かりきっている。


 アルベルトさんが雇った試験管が何人いるかは不明な上にチンピラも俺に目を付けた。


 さっさと終わらせたいので──


 走って路地裏に入る事にした。



 すると、俺に釣られたチンピラ3人が走って追いかけてくる。


 俺はすかさず紐を薄暗くなった場所を選んで足首の高さに設置する。


 勢い良く走ってきたチンピラは──


「へぶッ」

「おわッ」

「グアッ」


 紐に引っかかって盛大に転ぶ。


「残念! バイバ〜イ!」


 更に【網】を使ってひとまとめにして宙吊りし、俺は路地裏から抜け出す。



 毎度チンピラに襲われてもこんな感じで紐を駆使して倒している。


 ナイフとか出されたら亀甲縛りにして宙吊りの刑にしてるのはご愛嬌だ。



 この後も、散々裏道を使って総勢12人ぐらいのチンピラに襲われたが、問題なく捕縛して返り討ちにした。



 普通の人であるなら紐はかなり有効に使えるね。



 しかし、アルベルトさんが用意した試験管の冒険者がまだ現れていない。


 孤児院の近くまで来ているからそろそろのはず──


「お前──魔法袋持ってるだろ? 寄越せ」

「え、嫌ですが?」


 後ろから声をかけられ、即座に否定した。


 見た目はチンピラでは──ないな……装備的にこの人が試験管で間違いないだろう。


 ミカの時は冒険者ランクの1番低いFランクが試験管だと聞いている


 この人も、きっとFランク冒険者ぐらいなのだろうと予想しているが──その割にけっこう良い装備をしているな……。


「素直に渡せば痛い目に合わないぜ?」

「欲しければ奪えば? そういう試験だろ?」

「ちッ、可愛くねぇ餓鬼だ。お前からしてやるよッ!」


 男は“体技”の“正拳突き”を放つが──


 俺は難なく避ける。


 普段、アルベルトさんから微かに見える攻撃ばかり受けていたせいで、止まって見えるな。


 俺も成長しているなぁ……。



「舐めるなッ!」

「おっそッ! あんた冒険者なんだろ? そんなんで冒険者とかよくやれるね? 子供に攻撃当てれてないんですけどぉ? これで本気? あぁ、それで本気なんだ? その内野垂れ死ぬよ?」


 ここぞとばかりに煽る。

 最近ストレスが溜まりまくってるから発散させて頂くッ!


 どうせ、試験だ。命の危険はないだろう。それに自分の実力を知れる良い機会だ。



 さて、ここで何故、と言われたかだが──


 実はが関係している。

 人を痛め付けて物を取ったら【盗賊】と記載されてしまう。


 俺も座学の時に知ったのだが、【盗賊】と記載されている場合は街に入れず犯罪者として奴隷落ちする事が多いらしい。一応、教会で冤罪かどうかの犯罪歴は詳しくチェックされるらしいけどね。


 だが、抜け道も当然ある。

 差し出した場合は痛め付けていたとしても【盗賊】の記載はされない。



 要は経歴に傷を付けたくないから『差し出せ』と言っているわけだ。


 まぁ、無理だと判断した場合は差し出すように言われてはいるが、俺の自由時間の為に差し出す気は皆無だッ!


 それにアルベルトさんは俺に勝った報酬に魔法袋を与えるつもりなのかもしれないしな。そんな勿体無い事はさせないぜ!



 しっかし……この兄ちゃん、さっきから殺気が凄いな……俺が煽ったせいもあるんだけどさ……。


「──許さんッ!」


 おいおい、マジかよ……こいつ抜剣しやがったんだが?


「あんた街中だぞ? 正気か?」

「腕の一本でも斬り落とせば素直になるだろ?」

「ふぉッ?!」


 冒険者の男は“剣技”である“スラッシュ”を放ってきたので紐を数本出して防御するが、紐はあっさり斬り捨てられた。

 スラッシュは速度と威力補正がある剣技で威力が高い。

 当たれば──普通に腕ぐらいは切断されるだろう。


 それに迷いもないし、構えも様になっている。どう考えてもFランク冒険者ではない気がするぞ?



 ……うーん、これはキツいぞ。俺は武器不携帯なんだが?


 剣技が使えるという事は『剣士』『戦士』などの可能性が高い。そして動き方を加味すると見習い職業ジョブではなさそうだ。


 真剣に紐が通用するのか?

 とりあえず、紐を剣ぐらいの長さにし、強化させる。


 ちょうど良い機会だし、“剣技”の練習もしないとな。



 しかし……実戦形式の試験なのは重々承知していたが、まさかプロの冒険者に武器を使わすとは……しかも街の中だぞ?


 アルベルトさんや……何考えてんのさ?!

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