第20話 side【ミカ】

 ロキを置いて孤児院に向かって歩き出す。


 私は孤児院でも皆と仲良くはしていない。

 それが私の平穏を保つ手段だと知っているから。


 でも、ロキはグイグイ私に近付いてくる。


 辛辣な言葉を投げかけたり、暴力で突き放そうとしても近付く。



 院長は絆を大事にしなさい、と言う。


 でも、いつか別れる時が来る。


 それがいつかはわからない。


 だけど、失うぐらいなら初めからそんなものは無い方が良いと思っている。


 そもそも、ロキと恋人なんて論外だけどね。



 村の皆やお父さんを失った時に襲ってきた損失感はもう2度と経験したくはない。


 私だって皆と仲良くなりたい──


 でも、どうしてもダメ。


 多少話せるようにはなったけど──


 それ以上は心が許せない。

 私だけ幸せになってはいけない。そう思ってしまう。



 だって──



「おい、そこのッ!」

「お前の親父が弱いせいで俺の弟が死んだんだぞッ」

「何でお前だけ生き残ってんだよッ! 母さんを返せよッ!」



 私をがいるから。



 今、目の前にいるのは村の人の子供で元友達。

 運良く、あの時村にいなかった。


 お父さんが村を守れなかったせいで、家族が死んだと思って──その恨みを私にぶつけてくる。


 罵声と共に石も投げつけられて、痛い。


 それが見当違いなのはわかっているし、どうにもならなかった事も理解している。


 この子達はそれがわかっているのかはわからない。


 ただ、私は幸せになってはいけない。


 それだけは感じる。この体の痛みは1人だけ生き残った罪に対する罰なんだと思う……。


 もう、本当に嫌になる……。


 このまま誰も知らない所へ行きたいなぁ……お父さんに会いたいなぁ──



 私は目を瞑り、そんな事を考えていると──



 途中から痛みは来なくなった。

 目を開くと、紐で簀巻きにされて倒れていた。


 そして──


「──お前ら何してやがるッ!」


 ロキが現れた。


「うるせぇッ!」

「こいつは俺達の仇なんだよッ!」

「邪魔するなッ!」

「──お前らの仇はモンスターだろうがッ!!!! しばらく反省しとけッ」


 今度は罵声をロキに浴びせるがロキはそのまま紐を引っ張り地面に投げつけ、木に吊るした。


 そして、どこ吹く風と言わんばかりに無視して、私に向き直る。


「ミカ、遅くなった。何故反撃しない? 暴力には暴力だろ?」


 何故って? それは──


「私が悪いから……」


 そう、私に力が無かったから皆を死なせたんだ。


 だから強くなる為に頑張っているんだ。


 お父さんも強くなれって言っていた。


「──?!」


 ロキは私の胸ぐらを掴み、引き寄せて顔を近付ける。


「馬鹿野郎ッ!!!! 話はアルベルトさんから聞いている。悲しい思いをしただろう、憎くもなっただろう。だが、これだけは言える──お前は何も! 誰もお前を裁く権利なんかあるはずが無いだろうがッ! こいつらがミカを許さないなら俺が!」


 その言葉に涙が溢れ出る。


 院長やサラさんはの事を言ってくれる。他の人は同情ばかり。


 皆──気を使って過去の事には触れない。そして、


 でも、ロキは過去──そして今を言ってくれている。


 それが私の中で1番嬉しかった。私が欲しい言葉をロキだけがくれた。


 続けてロキは言う──


「過去と折り合いをつけろとは言わない──別に逃げても良いし、立ち向かっても、悲しんでも構わない。だが、自分を責めるのは間違っているッ! 自分を責めて何が変わる?! 大事なのは──かだッ!」


「でも、また目の前から失ってしまったら?」


「──俺も別れは凄く怖い。でも、“”って考えたらどうだ? 良い思い出を思い出せば自然と笑顔にだってなるだろ? 俺はそうするように最近意識している。損失感なんかは時間や他で埋められる。そうすれば──少しぐらい気が楽にならないか?」


 か……。


 確かに悪夢にうなされてばかりで、楽しかった思い出とか忘れてたな……。


 今日露店で見てた髪留めもお父さんが次来た時に買ってやるって言ってたな……今度買おう……。


 そうしたら、楽しかった事も思い出せるかもしれない。


「……わかった……やってみる」

「おぅ。じゃあ帰ろう。あいつらがまた今度ちょっかいかけて来たら、また俺が蓑虫にしてやるから安心しろ。ん? 髪の毛にゴミがついてるからとるぞ──」


 ロキは私の前髪に触れる──


 カチッ、とする音が聞こえてきたので触ると髪留めがつけられていた。


「これは?」

「いや、似合うかなって思って買って来た。ほらこれ付けてたやつだ」

「……そう……」


 パン屋のお釣りは私が持っているのにお金とか持ってたんだと思った。


 私達は孤児院に向かって歩き出すと「ロキ発見ッ!」「いきなり消えたから脱走したかと思ったんだけど!?」「マジで焦った……」と孤児院の人達がそう告げながら近付いてきた。


 ロキには私以外にも監視がついていたんだろうな……まぁ、目的は監視だけじゃないんだけどね。




 帰り、窓ガラスを見ると髪飾りが今度買おうとしてた物だと気付く。


 私は胸がキュンッ、と締め付けられる。


 そして、ロキがパン屋でおばちゃんに言った言葉を思い出す。

『本当、こんな子が彼女だったらとても嬉しいです』


 ──そう言ってた気がする。


 顔が熱くなる。


 ロキを見ると皆と楽しそうに話している。


「どうした? あ、どこか怪我してるのか? サラさんかアルベルトさんに治してもらおう。お勧めはサラさんだぞ?」


 私を気遣ってそう言ってくれる。


「何でもない……(ありがとう)……」


 私は恥ずかしくて、髪留めと心配してくれたお礼を小声で言う。


「いいよ。家族だろ?」


 聞こえないと思ったけど、聞こえていたみたいで余計に恥ずかしくなった。


 胸のドキドキが止まらない──



 ロキは変態でエロいし、少し考え方も大人びている。


 でも、私なんかを気遣ってくれているのはわかる。


 今回、色々と気付かせてくれたし──


 ロキと出会えた事で私は救われた気がする。



“ 別れは出会いを大事な思い出にする”なら──



”って事だよね?



 家族か──


 そういえばロキってエロい所とか、楽しませてくれる所はお父さんと同じだなぁ。



 なんか胸が暖かい感じもする。


 このまま時間が止まったらいいのになぁ──

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