第17話
「これは中でどうなっているんですかね? とりあえず──引き千切りますか────」
離れた場所からアルベルトさんの声が聞こえてきた。
ちょっと待ってェェェェェッ!
パンツが濡れててヤバいの!
足跡が近づいてくる。
急いでパンツを隠さなければ──
──?! サラさんちょっと離してくれませんかね!?
おっぱいは気持ちいいけど、色々と絡ませてきてるから抜け出せないッ!
何か方法はないか?!
そうこうしてるうちにアルベルトさんが至近距離に来た。
や、ヤバい。こんなのバレたら社会的に死ねるッ!
そ、そうだッ!
ストレージにパンツだけ放り込もうッ!
それにマッサージの同期を解除して──
紐を全力で強化して時間稼ぎだッ!
「ムンッ──……おや、これは引き分けですね。サラがここまで衰弱するとは……この紐には何か特殊な状態異常を付与出来るのですかね? 今はそれよりもロキ君の傷が酷いですね。治療しますよ」
アルベルトさんの気合いの入った声と共に紐で出来た網は簡単に引き千切られる。
時間稼ぎの為、魔力が枯渇するまで紐に魔力を込めたはずなのにな……時間なんか全く稼げなかったんだが?
ちなみにパンツはなんとか間に合った……ストレージを起動させたらパンツだけ一瞬で入った。
スキル同期の解除出来なかったらバレるからどうしようかと思ったが、ヒメからの邪魔は無かった。
とりあえず、俺とサラさんはぐったりと倒れているので引き分けと判断された。
結果オーライだな。
サラさんを俺から引き剥がし、魔力切れで指一本動かせない俺をアルベルトさんの治療──もとい抱擁を受ける──
「──く、くる、ちぃ……」
サラさんのフルーティーな匂いと柔らかい感触の抱擁とは違って加齢臭とゴツゴツとした鍛えられた肉体の感触が襲ってきた。
呼吸も止まりそうなぐらいの強さなので肋骨からミシミシと音が聞こえてくるが、回復魔法も使われているので痛みと回復の連鎖が起こる。
治療はとてもありがたいが、天国から地獄へ突き落とされた気分だった。
「お、治りましたね? 中々良い死合いでした。私の目に狂いはありませんでしたね」
今、俺の耳には試合ではなく、死合いと聞こえてきたんだが?
「……いや、普通に死ぬかと思いましたけどね……」
天国から地獄の二段構えの抱擁で精神的に死ぬかと思った。
「はっはっは、これぐらいでは死にませんよ。明日からの訓練が楽しみです。他の子達もロキ君と戦いたがっていますよ?」
周りを見ると、猛烈な笑みを浮かべる子供達がいた。
ここにいる奴ら全員が戦鬪狂だった件についてッ!
明日から事を想像し、気が滅入っていると──
「サラ、ロキ君はどうでしたか?」
アルベルトさんは既に立ち上がっているサラさんに感想を求めていた。
「…………とても良いです」
「ふむふむ、ではロキ君の戦闘指導はサラがやって下さい。紐魔法を使用したロキ君の相手は私かサラしか出来ませんからね。もしもの時はわかっていますね?」
「わかっています」
なんか2人で勝手に話が進んでいってね?
あと、もしもの時って何??
凄く気になる……。
それより、俺の訓練相手がサラさんに決定したようだ。
サラさんの俺を見詰める目がトロンとしていて、さっきまでとのギャップが凄いな……。
我が天使の独り占めは嬉しいが……あの堕天使モードだけは勘弁してほしい……。
しかし今回の訓練は収穫が大きかったな。
スキルが使えたり、武技が使えたりと色々とわかった気がする。
1番いらないのは──
ヒメが勝手に紐を操れる事だけどなッ!!!!
本当、ラーニングしてないのに勝手に使ってくるなよなッ!
ヒメを睨むように見ると──
大量の鼻血を出して倒れていた。
「尊い……」
そんな事を呟いていた。
スキル同期の解除が出来たのは倒れていたからか……。
「あ、ヒメちゃんが急に鼻血を出して倒れたのであそこで寝かせています。やはり体が弱いのですね……」
「そう、ですね……」
アルベルトさん……あれは体が弱いんじゃないんです。
サラさんの乱れっぷりに悶えて倒れただけなんです。
「さて、ロキ君は少し休んでいて結構です。私達は訓練再開です」
「「「はーい」」」
アルベルトさんはそう言い残して、子供達と訓練を再開した。
ヒメは終始寝ていたが、俺とサラさんは回復要因として働いた。
俺の『マッサージ』で疲労回復させて、傷はサラさんが治療した形だ。
とりあえず、残りの訓練の様子を見た感想を言おうと思う。
素手での死闘が終わったら、各々が
武器は木製ではなく、刃引きされていない正真正銘の武器だ。
手足が切断されないのか心配したが、その辺はアルベルトさんが上手く立ち回っていた。
ちなみに酷い怪我の負傷者にはアルベルトさんからの熱い抱擁が待っていた。
サラさん曰く、「アルベルトさんの方が治癒力が高いんです」と言われたが、
それに皆、普通に治療を受けている。慣れなのかもしれない。
俺はもう受けたくないな……怪我したくないし、疲労回復のマッサージ要因としていさせて欲しい。
一応、何故真剣などを使うのか一緒に休んでいたサラさんに聞いてみたら「武器の重さに慣れる為と、いざという時に決心が鈍るといけませんから」と言われた。
ここって孤児院だよね? そう心底思った。
これは余談だが、ここの卒業生は皆優秀な騎士、傭兵、冒険者になっているらしい。
俺もこれからはサラさんと訓練を行わなければならない。
彼女の武器はメイスだ。普通に武器ありで死闘を行ったらボロ負けするだろう。
……というか、手加減が出来ないサラさんの攻撃を受けたら死ぬんじゃないかな……。
やはり、逃げる事も視野に入れておこう。
そんな事を考えているとサラさんから話しかけられる。
「ロキ君のマッサージって凄いですね! 私にもやってくれませんか? 最近、肩こりが酷くて……」
「あ、はい。肩揉みで良ければ……」
肩こりの原因はおっぱいが大きいからですよ、とは指摘しない事にした。
今は合法的に我が天使に触れられる事を喜ぼう。
「んん、とても気持ち良いですね……魔力の回復が早いですね……凄いです。それとこの脱力感と疲労が一気に抜ける感じは──あの時と同じですね……」
すばり言い当てられてドキッ、とする。
「気のせいでは?」
そう言うので精一杯だった。
しばらく柔肌を堪能した後、ヒメが「お腹減った」と言いながら起きた。
そして、訓練も終わりを告げ──
「ロキ、遊ぼう!」
「それより、戦いのコツを教えてよ!」
「私はヒメちゃんと色々お話したい!」
子供達は俺とヒメに群がり、親しげに話しかけてきた。
この後は晩ご飯当番の子供は準備、他の子供は自由時間らしい。
居心地は悪くない。
少なくとも俺達は受け入れられている。
逃げるのは──
もう少し先でもいいかな?
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