第6話 side【ミカ】
私はミカ、街の小さな孤児院に住んでいる。
子供が熱を出したから薬草を取りに街の外に出た。
その途中にゴブリンと遭遇したけど、院長との訓練のお陰で難なく倒せる事が出来た。
そして、変態と出会った。
この変態は不思議な事に紐を自在に操る。
しかもその紐の縛り方は死んだお父さんが隠し持っていた本に描いていたのと同じだった。
お父さんは慌てながら「こ、こ、こんな縛り方をする奴は変態だから、き、き、気をつけなさい」と言っていた。
この時、私は6歳だった。当時は意味がわからなかったけど10歳になった今ではわかる。
院長が困りながら教えてくれたから。
しかも、変態はニヤニヤ笑って気持ち悪かった。きっと私にも同じように紐で縛り、弄ぶつもりだと思った。
だから私は全力で殴った。
でも、避けられてしまう。
ただの変態ではなかった。
問題はその後だった。
オークが現れた。
私はその姿を見て固まり、ガタガタと震え出す。
2年程前に私の住んでいた村はオークの群れに壊滅させられた。
私はお父さんに直ぐに隠れるように言われたので運良く助かった。
お父さんは引退したとはいえ、Aランク冒険者だった。ずっと村を守る為にモンスターを討伐してくれていた。
今回もきっと村を守ってくれるはず──
そう思った。
だけど、結果は数の暴力には勝てず──最後はオークキングに嬲り殺されて喰われてしまった。
お父さんは最後に叫んだ──
命乞いなどではなかったし、情けない姿じゃなかった。
『生きろッ、そして──強くなれッ────』
自分が死ぬというのに最後の言葉は私に向けた言葉だった。
私は恐怖で立ち上がる事も、声を出す事も出来ずにひたすら涙を流した。
その後、村の惨状は酷いものだった。
女性は散々弄ばれ、男性は散々痛め付けられて喰われていった。
昨日まで遊んでいた近所の友達、いつも「おはよう」と挨拶をしているおじさんとおばさん──
皆、苦しみながら死んでいった。
助けが来たのは5日後だった。
私はその間、いつ同じ目に合うのかと怖くて食べず、寝ずに動かないように過ごした。
板の隙間から外を見ていると、国の騎士団や冒険者達が助けに来た。
騎士団と冒険者の統率された動きで瞬く間にオークは殺されていった。
オークキングは随伴していた院長が殺した。
そして、隠れていた木箱を開けてくれて発見したのも院長だった。
生き残ったのは私だけだった。
運良く生き残ったと言ったけど実際の所は──
皆を見殺しにして1人だけ生き残ってしまった──そう言った方がいいのかもしれない。
私がオークの前に出た所で死ぬのは目に見えていたけど、そう思ってしまう。
後で知ったけど、院長はお父さんの師匠だった聞いた。
見た目は白髪でオールバックにしていて紳士的な感じだけど、凄く強い人だ。私の知る限り、院長よりも強い人は知らない。
そんな院長は身寄りのない私を経営している孤児院で預かってくれた。
その孤児院には戦闘訓練もあったけど、私は毎日部屋に閉じこもって参加しなかった。
そして毎晩毎晩──夢を見た。
村の皆が私を責める夢だ。
夜中に泣き出して目が覚めると決まって院長が慰めてくれた。
院長にその話をすると「私は聖職者ですが、気の利いた事は言えません。戦闘の方が得意ですから……私が言えるのは──モンスターを恨み、そして仇を討ちなさい。それぐらいですね。そうすれば皆さん笑ってくれますよ」と言ってくれた。
院長は生きていく為に強くなって欲しい、生きる為に理由が必要、どんな理由でも生きていれば良い事もある──と孤児院の皆によく話す。
結局強くなければ私のように全てを奪われる。だからこそ私にそう言ったんだと思う。
そして、やがて悲しみは憎しみに変わり──
オークを皆殺しにする──そう思うようになった。
私はお父さんの最後の言葉を思い出す。
約束を守る為に──
「私を強くして」
そう院長に言うと、強く抱きしめながら頷いてくれた。
それからは戦闘訓練にも参加し、死に物狂いで強くなる為に自由時間も孤児院の皆と過ごすよりも訓練を頑張った。
その結果、私は初級冒険者ぐらいは勝てるぐらいには強くなったと言われ──自信もついた。
そんな私がモンスターに負けるわけがない──
そう思っていた。
薬草が中々見つからなくて手間取っているとゴブリンが現れたけど、言葉通り負ける事はなかった。
でも、オークを見た時に──
お父さんや村の皆が食べられる瞬間を思い出して動悸が襲ってきた。
立てないし、息苦しい……目の前が真っ白になった。
強くなったのに──
お父さんとの約束を守って頑張ったのに──
全く動けなかった。
私はあの時と同じように無力だった。
気が付けば紐を使う変態が私に変な縛り方をしてオークからの攻撃を避けていた。
このまま私を囮にして逃げるのかもしれない──そう思って、ぶん殴りたかったけど、力も入らなかった。
でも──
私が囮にされる事はなかった。
逆に紐を伸ばして私を遠くまで逃してくれた。
街の近くまで行くと紐は霧散して消えた。
オークが視界に入っていないからか呼吸の乱れは少なくなり、胸の鼓動も小さくなったけど、震えは止まらなかった。
「──ミカッ! ここにいましたか。心配しましたよ?」
「──院長?!」
しばらくして呼吸が落ち着く頃には背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
院長は私の顔を見ると安堵していた。私が外に出て心配をかけてしまったみたいだった。
「さぁ、家に帰りましょう。実戦訓練もまだなのに1人で街の外に出たと聞いた時は肝が冷えましたよ? ──震えているじゃないですか!?」
「…………オークと…遭遇した……」
「……なるほど。こんな所にオークが出るとは……よく無事でした。大変でしたね。帰ったら休みましょう。お説教はその後にしますからね?」
院長は私がオークにトラウマがある事を知っている。
だからそれ以上は突っ込んで聞いて来ない。
そのまま街に入るように促されるけど、まだ帰るわけにはいかない。
私がこのまま街に入ったら助けてくれた変態は死んでしまうかもしれない。
院長なら簡単にオークぐらいは倒してくれるはず。
そう思って私は両手を握り、奥歯を噛み締めて院長を見る。
そして──勇気を出して院長に向かい合う。
「私を助けてくれた子供がまだオークに襲われているの。あの子を──ロキを助けてッ!」
私の為なんかに関係無い人が死んでほしくない──そう思いながら叫ぶように言う。
「──そうですか。家族の恩人は助けないといけませんね。では時間もありませんし、一緒に行きましょう。私がいれば大丈夫です。その場所はどこですか?」
院長は私を抱き上げ、指差す方向にそのまま疾走する──
あっという間にオークがいた場所に到着する。
そして、見た光景は──
「「…………」」
「……ミカ、これはあの子がしたのですか?」
「……たぶん……」
無数のゴブリンが縛られて悶える光景だった。若干縛り方が違うような気がする……。
よく見ればロキもいた。まだ生きている事に安堵する。
「ファイト〜♪ もっともっと縛り上げろ〜★」
「──うっさいわッ! 気が散るから黙れってッ!!!!」
ちなみにロキは目の前の宙吊りになっている紐の塊の前におり、その隣にはさっきまでいなかった女の子が応援していた。
妙に親しげなので知り合いなのかもしれない。
私はロキに近付き声をかける──
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