第7話
「ブモォォォッ」
「待たせたな──って言っても言葉なんか理解出来ないか?」
オークに向かって挑発するように言う。
ミカはマップを見る限り、街の近くまで避難出来たはずだ。
ミカを逃した時にわかったが、紐の有効範囲はかなり広い。なんせけっこう離れた場所まで伸ばせたからな。
つまり、さっさと捕縛さえ出来れば縛ったまま放置して逃げる事が出来るという事だ。
問題は目の前のオークだけでも手が余るのに、運が悪い事に追加で12匹のゴブリンが近付いて来ている事だ。
相手が人であるなら使える手段はいくつか思いつく。
例えば──
両足を瞬間的に縛って引っ張る。
それだけで一時的に無力化は可能だろう。
人は2本の足で肩幅ぐらいの歩幅で立ってバランスを保っている。それを縛ってやればバランスを崩して転がす事は簡単だ。
問題は目の前のオークにそれが通用するか、だ。
あの太く短い足を縛れるとは思えない……これがゴブリンであれば問題ないだろうけど。
あの巨体を無力化するには力が入らないぐらい締め付けて縛るしかないが、2〜3重に巻いたぐらいではさっにみたいに千切られる。
ならばもっと力の入らないように縛る必要がある。
宙吊りにすれば踏ん張れないはず。それに絡めるように──網状にすれば問題ないだろう。
縦と横から締め付ければきっと破られないはず。……たぶん。
良し、これで捕縛してさっさと逃げよう。
これはゲームではない。このオークには俺の紐を突進で防ぐぐらいの知能はある。用心した方がいいだろう。
それにゴブリンもまもなく到着する。
それまでにオークを捕縛、その後にゴブリンを縛って逃げる。
街まで行けたら衛兵さんとかいるだろうしな。
これしかない。
まずは──
紐の網を作れるのか確かめる。
「ブモォォォッ!!!!」
「おっと」
オークの棍棒攻撃を紐を近くの木に括り付けて避ける。
……やっぱり一発でもまともに喰らったら終わりだな……後ろにあった木がエグれてるんだが……。
しかし……紐を精密に操作するのが思ったよりも難しい。編み込んでいくのはさすがに時間がかかり過ぎるな。
イメージ補完で網を出現とか出来ないかな?
試しに網のイメージで紐を出してみるか──
「──それ」
「ブモ?!」
「おぉ!? 成功した!?」
紐は網の状態でオーク目掛けて射出する事に成功する。
紐を操作して網を作るのは難しいが、イメージで網を作るのは簡単だな。
肝心のオークは紐を振り解くのに時間がかかっている。
良し、このまま網を重ねるか。何枚も網を重ねたら捕獲出来る可能性もあるだろう。
「それそれ──ふおォォォォッ?!」
某蜘蛛のヒーローのように網を放っていると、オークは悪足掻きをした。
近くにあった大きな石を投げてきたのだ。
かなりの豪速球で顔の横を通過し、冷や汗が流れる。
今のはたまたま運良く当たらなかっただけで辛うじて見える豪速球の石を避けるのは不可能だ。
そんな事を考えていると、オークはまた石を掴み取る。
「──投げさせるかッ! さっさと捕縛されろッ!」
石を投げさせないように網を放っていく。
けっこう重ねているのにまだ動けるようだ。
中々しぶとい。締め付ける力が弱いのだろう。
まぁ、直ぐに捕まえられないのは想定の範囲内だ。
「──また突進か。まぁ、石を投げられるよりは数倍マシだな」
オークは紐を千切りながら、また突進してきた。
だが──
狙い通りこちらに近付いて来ている。
そして──
「チェックメイト──」
「ブモ?!」
紐で出来た網が地面から出てきてオークを球状に包み込み宙吊りにする。
そこに大量の網を更に追加で集中砲火させて補強する。
今度は網を圧縮するように魔力を込めて操作すると──
オークの紐団子の完成だッ!
やった事は簡単だ。
ひたすら挑発して予め網を用意した場所に誘き寄せて捕縛しただけだ。
腐葉土のお陰で網を地面に仕掛けられた。
オークもまさか地面から網が出てくるとは思わなかったはずだ。
念には念を入れて仕込んだ甲斐があったなッ!
「オークを──獲ったどォォォォッ!!!!」
異世界生活物のラノベで紐を使って戦闘するシーンがあっただろうか?
否ッ!
俺は全くそんな物語は知らないッ!
だが、俺は攻撃力が皆無の紐で格上のモンスターと戦って勝ったのだッ!
別に試合をしたわけじゃないが、生き残っている以上は俺が勝者だ。
「ブモブモ」
「ふっふっふ、これなら力は入るまい! これだけの網で包み込んだらほとんど中身が見えないけどなッ!」
オークはもぞもぞと動こうとするが、紐は千切れない。やはり網は捕獲するのにもってこいだな。
……さて、逃げるか──
「「「ゴブッ!!!!」」」
……もうゴブリンさん達が到着したようだ。
うーん、体が痛くて動くのもキツいな。
逃げ切れるのだろうか?
とりあえず足止めをするか。
そう思った時──
「ブモモモモォォォォッ!!!!」
「へ? ヤバッ──集中ッ!」
オークが雄叫びを上げて全力の力で振り解こうとしていた。
紐から軋む音が聞こえて来る。放っておけば千切られると思ったので、オークを捕縛している紐を強化する為に魔力を込め出し──
更に締め付けるッ!
それでもキツいな。集中力が途切れたら切られそうだ。
もっと網を被せたいが、魔力を込めるのと紐を同時に出すのを同時にするのが難しい。
ゴブリンとオークなら優先順位はオークだ。
何か手はないか?!
ステータス画面を開ける──
イベントリに入っている『封印されし紐』を使えば何かしら起こる可能性はあるだろうが、俺が助かるかどうかはわからない以上は無しだ。
これしかない──
「正直、これだけは使いたくなかったが──俺が助かる為だッ! ラーニングモード開始だッ! こいつらなんとかする方法教えてくれッ!」
ラーニングモードなら勝手に紐を操作して捕縛ぐらいしてくれるはず。
『現在この機能は使う事が出来ません。使う場合は紐の封印を解いて下さい。そうすれば紐の可能性が垣間見る事が出来ます』
メールでそう表示される。
「は?」
意味わかんねぇよッ!?
さっきは無条件で使えたじゃん?!
ど、ど、ど、ど──
どうしよ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます