第5話 ※
何度も紐を放つが、直ぐに引き千切られる。
それをひたすら繰り返す──
オークは少しずつ近付くが、俺もその分離れる。
紐の有効範囲が全くわからないので距離を維持するようにしている。
これぞ何も進展しないハメ技だ。
紐を蛇のように纏わりつかせるがミソだ。動こうとした瞬間に精密に動かせる紐を締め付けると動きが止まる。
時間稼ぎには持ってこいの技だ。状況はまったく打破出来ないけどな!
紐の強度が弱いから、もし突進されたらあの巨体は紐では止められない気がする。
──おわ?!
少しでも気を抜くと棍棒が襲ってくる。
避けるのは身体能力的に無理なので、今みたいに木に紐を括り付けて移動するのが関の山だな。
やっぱり本気出される前に無力化したい所だ。
それと念の為に紐を胸や腹周りに巻いておこう。鎧代わりにはなるだろ。
魔力を多めに使えば強度を上げられないだろうか?
紐を作る時に魔力を足してみるか──
「ブモッ?」
「お、少しだけ千切られる頻度が減ったか? でも回復速度が早いとはいえ、魔力もそこそこ使うっぽいな……魔力切れになったら困るな……」
多少強度は上がったが、コスパが悪いので攻撃に使う紐は通常の紐にして、魔力を多めにするのは自分の体に巻いた紐にする。
命大事に、だ。
さて、質がダメなら量で勝負だな。
ガムテープも何重にも巻いたら切れないしね。
一本ずつ巻きつけても直ぐに千切られるだろうし、精密な操作は何本も出来ない。
だが、制御が甘くても複数を動かす事は可能だ。
今度は死角から一気に巻きつけていく──
「ブモッ?!」
「お、成功だ。やっぱ数は武器だな。縛るだけなら複数でも大丈夫だ」
巻きつける事に成功するとオークはドスンッ、と盛大に倒れる。
立派な簀巻きが完成した。
一応、オークを蹴ってみるが自分の足が痛かった。
尚、ダメージはないようだ。
他に紐で出来る事と言えば──
やっぱり絞殺ぐらいか……。
ササッと首に紐を巻きつけて締め上げるが、子供の腕力では全く効果がない。
さっさと街に行きたいので紐に魔力を込めて操作し、締め上げる事にした。
「ブモモモモォォォォッ」
…………苦しんでいる。それはもう盛大に。
それに恨みがましい目が向けられている。
魔力で操作する方が強力なのはわかったな……。
ただ、オークの目が血走っていて怖い……絞殺ってやっぱりエグい殺し方だな……。
さすがに良心が痛む。
一思いにヤってあげたいが、これが限界なんだ……すまん。
しばらくしてオークは沈黙する。
ゲームのようにアイテムがドロップする事はなかった。
やはり現実だし、解体とかしなきゃダメなんだろな……グロいの苦手なんだよな……。
さて、オークは後でイベントリに収納するとして先にミカだ。
酷く怯えていたからな。心配だし、声をかけようと思う。
もう変態とは言わせないぞ? なんせ俺は命の恩人だからな!
君を街の案内係に任命しよう。
ミカの方を見ると、まだ怯えていた。
ここは紳士的に手を差し出しながら声をかけるか。
「──大丈夫?」
「……ハァ…ハァ…う、ん」
「まだ無理そうだな……少し休んでから行こう。俺はロキ、君の名前は?」
「ハァ……ハァ…──ミ、カ……」
ミカは俺の手を取って立ちあがろうとするが、立ち上がれなかった。
完全に腰が抜けているようだ。それにまだ手も震えている。
少し気になったのだが、この子の怯え方は異常のような気がする。顔面蒼白だし、過呼吸も起こしている……この症状はPTSDか?
オークにトラウマでもあるのかもしれない。ラノベとかでも孕ませたりするモンスターだし。
そうじゃなきゃゴブリンは倒せるのにオークを倒せないとは考えられない。
ミカの能力を鑑みればオーク1匹ぐらいは倒せない敵ではないはずだからな。
ちなみに名前を知っているのに聞いたのは、名乗っていないのに名前を知っているとまた変態呼ばわりされるからだ。
今度はストーカーとか言われそうだしな!
まぁ、今はそんな事よりも街に向かうのを優先したい。一休みしたら向かおう。
あー腹が減った……ミカさんやお礼にご馳走してくれてもいいんだよ?
マップ画面を表示させてる間にミカを見ると口をパクパクとさせていた。
「どうした? ミカも腹減ったのか?」
「あ、あぅ……う、しろ……」
後ろ?
マップ画面を見ると、俺の真後ろに赤い点があった。
──しまった。
「ブモォォォッ!!!!」
「──あ、ヤバ」
後ろを見ると先程倒したと思ったオークが紐を振り解き雄叫びを上げていた。既に棍棒を振りかぶっている。
次の瞬間──吹き飛ばされた。
腹部は棍棒、背部は吹き飛んだ先の木に当たり激痛が襲ってくる。
瞬時に体に巻いていた紐に魔力を込めて強度を上げ、攻撃方向に飛んでダメージを軽減したが、それでも十分痛い。
……油断した。ちゃんと死んだかどうか確認しておいたら良かった。
顔を上げると涙を浮かべて硬直しているミカにオークがゆっくりと近付いて行く。
させるかよ──
オークに向けて紐を放つが直ぐに千切られる。
「──ゴホッゴホッ……痛いなぁ……。糞オーク、こっちだッ! 舐めんなよッ!!!!」
吐血しながら立ち上がり、紐を鞭のように何度もペシッペシッ、と当てるとオークの注意をこちらに向ける事に成功する。
たった一発で体は傷だらけで満身創痍だが、まだ死んでない。
こんな状況なら赤の他人であるミカを置いて逃げるのが正解だろう。
元々、他人なんかはどうでも良いと思っている。
だが──
幼い子供を囮にしてまで逃げるぐらいの畜生には成り下がってはいない。
日本にいた頃は居場所なんか無かった。合間の時間はゲームに注ぎ込んだつまらない人生だった。
しかし、ここは異世界だ。きっと俺を受け入れてくれる場所だってあるはずなんだ。
だからせめて──
人に恥じない生き方をしたい。
そして堂々と生きていきたい。
ここで俺の可能性を示さなければ今後、また同じようになる気がする。なんせ
この先、苦労する未来しか見えない。
だからこそ俺は──変わるッ! いや変われるはずだ。若くだってなったし、人と話せたんだ。
やれば出来るはずだッ!
その足掛かりにする為に──
オーク、お前はさっきみたいに簀巻きにしてやるよッ!
「ブモォォォッ!!!!」
「ったく──うっせぇッわ!!!!」
さっきみたいに拘束する為に紐を巻いているのだが、本気にさせたようで紐が直ぐに千切られる。
本気モードってやつか。
動きを止めるので精一杯だな。
他に何か方法は──と考えていると、恐れていた事が起こる。
オークが突進してきたのだ。
俺は紐を木々に巻きつけて伸縮させてなんとか回避する。
突進先にあった木々はけたたましい音と共にへし折れた。
当たったら死ぬな……それにあの突進力は紐で止めるのは無理だ。
オークもそれがわかったのか、さっきから無差別に突進ばかりしてくる。
そして、オークはミカの方にも突進を仕掛けてきた──
「──?!」
「──ちょっと我慢しといてくれ」
「──?!?!」
「ん? あ、ごめん。それは解いておく」
「……後、で……な、ぐる……」
ミカに紐を放ち、手繰り寄せて攻撃を回避する。
咄嗟に紐を放ったので亀甲縛りになっていた。口も塞がれていたので解いたのだが、物騒な一言を言われてしまう。
まぁ、縛り方は不味いが助ける為だから勘弁してほしい。
俺はおっぱいは大好きだが、ロリコンでは無いし、成熟した大人が好きだ。
ちなみにミカは紐を使って浮かせているが、重くは無い。その分魔力を使うようで魔力切れが心配だ……だが、これは意外と使える。
亀甲縛り以外は──だが。
いや、紐の食い込み方は素晴らしいんだけどね……スタイル抜群の女性で是非見てみたい。
しかし、このままでは手詰まりだ。
出来ればミカの協力が欲しい。
だが、様子を見るにかなり厳しいだろう。仮にトラウマが原因だとしたら簡単には乗り越えられないだろうし、本人に戦う意思が無いと無理だ。
そんな事を考えながら突進を避け続けてはいるが、これもいつまで続けられるやら……。
その内、違うモンスターが現れてもおかしくはない。
現にマップを見ると赤い点が複数近付いて来ている。
「ミカッ! なんとかして逃げれるかッ!?」
「……む、り……」
仕方ない──
「すまんが──邪魔だから向こうに行っててくれ」
「──?! きゃッ」
ミカに巻き付けている紐を街の方向に伸ばす──
これで避難は出来るだろう。
これは余談だが、ミカに食い込んだ紐は体のラインをはっきりさせてくれていた。
本当に10歳なのか? と思うぐらい──おっぱいが大きかった。
異世界の女の子は発育が良いんだな……。
というか、紐による補正なのかもしれない。
おっぱいを絞り込むように縛り付けると普通にエロかった。
もっと成長していたのならば、俺も少しドキッとしたかもしれないな。
いやぁ、良いものを見せて頂いたな。
不可抗力とはいえ失礼な事をしたから、後で殴られるのは覚悟しておこう。
まぁ、無事に会えたら──だが。
さて、これで周りを気にせず戦える。
戦うというか、今出来る事をやって、さっさと逃げよう──
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