選ばれし者

dream6

全話  室町時代,人身御供されたイネの運命

 室町時代、毎年のように続く宇治川の氾濫。

 困った村の長は、これは宇治川の神様のお怒りを鎮める必要があると。

 村の衆を集め、神のお怒りを鎮めるには、人身御供が必要だと分った。

 他所の村で氾濫がないのは人身御供を差し出しからだ。

 娘を差し出した者には年貢米三年免除、更に一年分の米と二十両を支給するという。そして選ばれたのは十六歳のイネであった。


 選ばれし者


 時は室町時代、滋賀から京都を流れる宇治川がある。

 この周辺に住む村人は毎年のように宇治川が氾濫し大きな被害が続いていた。困った村の長(おさ)は、村の住民を呼んで集会を開いた。そんな中とんでもない事を言いだした。

「皆の衆、良く聞け。この宇治川の水で米や作物など作る事が出来る。また多くの荷物も舟で都まで運ぶ事も出来る。村人や農家になくてはならない大事な川だ。我が村には生きて行く上で欠かせない川だ。だが水害で毎年のように、氾濫で何十人も命を落としている。これは宇治川の神様が怒っているからだと占い師様から御告げがあったのじゃ」

「神様が怒っている? 何処の占い師がそんな事を言ったのじゃ。で、どうしろと言うんだ」

「その神様の怒りを鎮めるには、なんでも人身御供が必要だと言うておる」

「それって生け贄って事じゃろう。村の誰を差し出せというのじゃ」

「若い娘が良いそうだ。それも生娘でないと駄目だそうだ。毎年のように何十人も亡くなっているんだ。それを考えたら一人で済むじゃないか」

「馬鹿な、人を救う神様が生贄を差し出せとは理不尽じゃないか、そんな神様は神ではない。神様なら見返りを求めず我々を助けるべきだ。だから我々も沢山のお供えをして来たのに。娘を差し出せとは許せない」


 そうだそうだと、その話を聞いて村の衆が怒りだした。誰が村の大事な娘を差し出すというのか。

「だったら長の娘を出せば良いだろうが三人もいるんだから一人くらいいいだろう」

 村の衆はそうだそうだと更に騒ぎだした。

「何もタダで差し出せと言ってはおらん。差し出した者は三年間年貢米を納めてなくて良い。他に二十両と一年分の米を提供しよう」

 村の衆はその話を聞いて黙った。ここんとこ何年も水害に合い誰も生活が苦しかった。なかには飯もろくに食えず餓死した者も居る。確かに美味しい話ではあるが可愛い我が娘を生贄にするなんて酷な事だ。

「まぁ良く検討して返事をくれればいい。但し早い者勝ちだ。待っているぞ」

 この早い者勝ちは効いた。人は早い者勝ちと言われれば反応してしまう。もはや反対より早くこの良い条件を飲んだ方が勝ちだ。村の衆は家族で相談すると帰って行った。


 そして茂助の家でも家族会議が開かれた。茂助の家族は息子二人に娘一人、それに年老いた母がいるが妻は餓死している。話は全員が村の集会に出て話を聞いている。息子の二人は貞助二十一歳と助造十九歳そして娘のイネは十六歳で今回の生贄の対象者である。すると茂助の母、タネが言った。

「まさか、おめぇイネを差し出そうなんて考えてんじゃないだろうな」

 そうだと言えない茂助は何も言えず黙って下を向いた。それを察した二人の息子が文句を言った。

「とうちゃん馬鹿な事を考えないで。いくら困ってもイネは大事な家族であり可愛い妹だ。そんな事が出来る訳がない」

「言われなくても分っている。じゃけんお前たちの母ちゃんだって栄養失調で亡くなっているじゃないか。これ以上病人が出たら一家は滅びる。不作で俺達が喰う飯もなくて、芋粥の毎日だ。もはやどうにもならねぇ」

 暫く黙って聞いていたイネが言った。 

「うち、で役立ちならうちが行く、それで借金も返せるし年貢米を納めなくて済む、こんないい話ないじゃないか」

「ばかを言うでない。ならば婆ちゃんが行く、それで良かろうが」

「婆ちゃんの気持ちは嬉しいが若い生娘でないと駄目だってさ」

「そんなのおかしいって、誰が考え出したんだ。きっとスケベな代官に決まっている」

 一番幼いお前を犠牲にして生きて行けるわけがないと。そう言うが打開策が見つからない。このままなら本当に一家がみんな死んでしまう。結局は誰も何も言えなくなった。早い者勝ちと言っている、決断が遅れれば、誰かが選ばれ全てが終りだ。家族は何も言わなくなったがイネは決心した。覚悟を決めたイネは家を飛び出し村の長の所へ駆け込んだ。みんなは泣きながらも止める事が出来なかった。そしてイネは村の長、宝次郎の家の戸を開けた。


「宝次郎さん、うち、を選んで下さい。その前に本当に年貢米を三年間納めず二十両と米を貰えるんですか」

「お~良く決心してくれた。大丈夫だ。約束する。じゃけん父ちゃんや家族は良いと言ったのか?」

「うん大丈夫、そんでうちは何をすればいいんだ」

「それは占い師様と相談して決める。今日は帰って家族を安心させてやれ。これは俺の気持ちだ。一年分の米とは別に、ほら米を持っていけ。これで今日はみんなで美味い飯でも食い」

「ありがとうございます。最後にもう一度、本当にお金と米を貰えるのですね」

「疑い深いな、分かった分かった。では約束の金と米をも持って行くがよい」

 イネはホッとした。これで死んでも本望だ。家族が幸せになれる。イネは金と米を貰って一目散に我が家に向かった。一年分の米は今持ち帰れないので後で届けてくれるそうだ。米の飯を食べられるなんて二年ぶりだ。みんなの喜ぶ顔が浮かぶ。喜び勇んで帰ったイネだが、家族は申し訳なくて喜ぶよりも泣いてしまった。その晩は久しぶりの白いご飯に喜びと悲しみが入り混じっていた。

 そして三日後、イネは一人で来いと宝次郎に呼び出された。いよいよ人身御供の儀式が始まる。だがイネ以外誰も来てはならんとお触れがあった。


 一人で来いと言われたイネだが家族は心配でならない。そっと二人の兄はイネの後をつけた。だが暫く行くと何人も見張りが立っていて近づく事が出来なかった。もはやイネの幸運を祈るしかすべない。二人はその場にしゃがみ込みイネの無事を祈った。そろそろ陽が暮れる頃、宝次郎と占い師とイネは宇治川の橋の袂(たもと)に向かった。

 イネも覚悟は出来ている。自分は此処で死ぬんだ。でもいい、村で選ばれた者として村の為、家族の為に死ぬるなら幸せだ。自分が人柱となって死んで災害が無くなればイネという娘のお蔭で、村が救われたと名前が残るかも知れない。名誉な事ではないか。

「イネ、この白い衣装に着替えろ。そしてこの数珠を胸から掛けるんだ」

 いよいよ儀式が始まる。占い師は棒に白い紙が沢山巻き付いた玉串を手に持って、祈祷を始めた。イネは白装束に着替え橋の袂に向かう。人が一人入る程度の箱に入るように即された。イネはドキドキしながらも箱の中に入る。この後どうなるか心配だった。もしかしたら上流から塞き止めてあった水が一気に流れ川の濁流に呑まれるのだろうか。イネは目を閉じた。もう間もなく川の底に沈んで行くのだろう。


 やがて静かになった。祈祷する声も聞こえない。やがて暫くすると急にイネが入っている箱ごと誰かが担いでいる。ザバザバと水を歩く音、一人ではなく複数で担いでいるようだ。何故か川から引き揚げられ箱ごと荷車で運んでいるようだ。イネは何がなんだか分からない。外を見たくても箱は窓すらない。宇治川の生け贄になるのではなかったのか? 連れて行かれたのは武家屋敷ようだがイネはどうなっているのだろうと困惑した。やがて屋敷に入ると箱が降ろされた。

「殿、連れて参りました」

「おうそうか、では連れて参れ。いや待て、まず風呂に入れて着替えさせろ」

「かしこまりました。そのように致します」

 イネは箱から出された。真夜中で良く分からないが庭は沢山の蝋燭の灯りで明るい。立派な屋敷だと分かる。人身御供の筈がなぜこのような所へ連れて来られたのか。しかし死んではいない。 


 すると数人の女中がイネを連れて行き大きな風呂に入るように言われ、上がると綺麗な白い着物を着せられ、化粧が施された。連れて行かれた部屋には布団が二人分敷かれてある。

 幼いイネとはいえ十六歳これから何が起るか想像が付く。

 白い寝巻き姿のイネを見て朝倉元景(もとかげ)は驚いた。普段は汚い着物姿で化粧なんて皆無。それが綺麗に化粧を施されていた。当のイネ自信、自分が綺麗かどうか分かるはずもない。元景が驚くのも無理はない。ただの石ころが宝石だったとは?   これが選ばれた娘か百姓の娘とは思いない美しさだ。いやこれほど美しい娘は見た事もない。まさに天女のようだ。それでも喜びを押し殺しようにイネに囁く。

「ほうなかなかの、べっぴんじゃないか。さぁさぁもっと側に寄れ、悪いようにはせん」

 この朝倉元景は天下一の極悪人と噂が高い朝倉孝景の親戚筋にあたる。応仁の乱で時の人となった天下に名を轟かせる朝倉孝景ほどではないが、この辺一帯を収める朝倉元景だ。イネの救いは朝倉孝景じゃなかったことだ。元影は極悪人ではないがスケベで有名だ。そこで各村の長に、何かといって女を集めさせていた。困った宝次郎は自分の娘は差出しなくない。そこで占い師と相談して決めたのが人身御供だった。だが娘を人身御供にして、それで水害が収まらなければ村の衆が百姓一揆を起こしかねない。その代わり氾濫が起きない工事をしてくれるならと引き受けたのだった。この朝倉元景、女が手に入るならと簡単に承諾した。女の為なら金に糸目をつけないと程の女好きだ。


 だが女好きの元景に誤算が生じた。これまでの女は一ヶ月もすれば飽きて捨てていた。だがイネは違う。元景は一目惚れしてしまったのだ。当然これまで女とは違う扱い方をした。

 これほどの女子は日の本、広しと言えどそう手に入るものではない。それほどイネは美しかったのだ。勿論当のイネさえ、その美貌に気づかない。イネの言う事なら何でも願いを聞いてくれた。イネも戸惑った。毎日に弄ばれると思っていた。しかし報酬は貰っているし例え奴隷のように扱われようと我慢するしかないと思っていた。

 イネは少しずつだが元影が何故こんなに女に夢中になったのか分かって来た。それは元影の本妻、お糸の方様は体が弱く妻の勤めすら出来ない体。つい女に走ったのも頷ける。イネはどうせ捨てた命、一生懸命に尽くした。元影だけでなく奥様に申し訳ないとこちらも一生懸命に看病した。最初は妻の座を奪われるのではないかと辛く当たったが。その優しさに触れ自分の妹のように可愛がった。元影も我が妻に認められるとは大したものだと益々可愛がるようになっていった。寝たきりの奥方は楽しみもない、朝から晩までほとんど布団の中、楽しみはたまに戸を開け外の庭を眺める程度。そこでイネは考えた。もはやイネは朝倉家では三番目の地位にある。イネが人身御供として乗せられた箱を思い出した。

 箱を広くして三人ほど座れて横になる事も出来るように変えた。床には布団を敷き詰めた。動いても振動を和らげる工夫した。普通の籠の四倍の大きさだ。これだけ大きいと人が担ぐのは無理で大八車を改良した大きな物に乗せた。これで横になることも出来る。窓も左右に付いているので外を眺めることも出来る。病の奥方でも問題なく出掛けられる。

「イネ、これは何じゃ。随分と大きな籠のようじゃが」

「はい、奥方様。これの籠に乗り桜見物は如何でしょう。他には沢山の花が見られる丘にご案内致しとう御座います」

「ほうこれだけ広ければ座っても横になって良いな、それに内装が美しい。ぜひ乗ってその丘まで行きたいのう」


 それを聞いた元影も大喜び、普段なにもしてやれない奥方を喜ばせるならと一緒に参加した。外が見られる窓も二ヵ所付けた。この大きな籠なら元景も一緒に乗れる。これに奥方を載せ外に連れ出した。季節も桜が咲き乱れる時期、全体を見渡せる高台に案内した。総勢五十人も付け人を引き連れ、沢山のご馳走も用意された。

 やがて桜並木や他の花が咲き乱れる丘に到着した。奥方は思いきり外の空気を吸った。奥方は大喜び、イネの気遣いに涙した。桜を見ながらの料理は格別に美味かった。

「イネちこう寄れ、そなたが考え出したそうじゃな、おかげ二年ぶりに外の景色が見られた桜がこんなに美しいものとはのう最後に見られて良かった」

「奥方様、なにをおっしゃられます。これからも見られますよ」

「よいよい気を使う事はない。良いかこれから私に代わって殿の面倒を見るのじゃ」

「奥様……そんな気弱な事をおっしゃならいで下さい。これからも沢山お使いさせて頂きますから」

「ありがとう。ほんまに良き日じゃ。イネの心使い決して忘れぬぞ」

 イネが人身御供に身を捧げた年から宇治川の氾濫は起きなかった。村の衆は知らないが上流で工事が行われたのだ。宇治川が溢れたら別な水路を作りそっちへ流したのだ。そのおかげで村の収穫も潤って行った。何も知らない村人は、これも茂助の娘イネのお蔭だと村の者は感謝し米や穀物、魚介類を茂助の家に届けるようになった。それは嬉しいのだが茂助達家族の心は沈んだままだ。娘を犠牲にして豊かになって何も嬉しくない。そう思っていた。

 殿を頼むと最後にイネにお礼をのべて、一月後お糸の方様は亡くなった。イネは本当の姉を亡くしたような思いだった。姉のように慕い涙するイネに元景は心まで美しい女だと思った。天国に旅立ったお糸の方様もイネなら安心して託せる。イネを大事なしないと罰が当たるわよとまで言われた。


 あれから五年の月日が流れた。あの宇治川から連れ出されたイネは、最初は怖かったが、この元景は女好きだが、キチンと愛情を持って接した。特にイネを気に入り特別に可愛いがった。十才も違う年だがイネは愛される幸せを感じた。イネは朝倉元景の子を宿していた。授かった子は四歳と二歳の男の子。母となったイネは幸せだった。朝倉元景はイネも息子も溺愛しるようになった。本妻の間には子宝に授かれず亡くなった。今ではイネの方(かた)様と呼ばれる身分である。イネは徹底して英才教育を受けた。殿の正妻に収まったからには教養が必要だ。読み書きは当然、言葉使い、御茶や書道、華道、などみっちりと教育を受けた。嫡男は朝倉家の後を継ぐ定めにある。イネは朝倉家の高い地位に就いたのは言うまでもない。

 

 だが心配事がある。やはり家族の事だ。今でも宇治川の犠牲となったと思っているだろう。出来るなら生きている事を知らせたい。たが元景は許さなかった。イネが生きていることを知られたら、女をかき集めた事が露呈してしまう。知っているのは元景の他に村の長の宝次郎と占い師だけだ。村の衆も誰も知らない。それなのに生きていましたと帰れる訳がない。

 イネの方様は元景に頼んだがウンと言わない。自分の女好きが知られてしまう。いまでこそイネを溺愛するあまり女好きはピタリと止めたが。そこでイネが考えた作戦がある。それには占い師の協力が必要だ。早速、占い師は元景の屋敷に呼ばれた。そこには元影とイネも同席していた。占い師はイネの方にひれ伏した。今や身分が逆転し立場が違う。イネの方が言った。

「そちに頼みある。聞いてくれるか」

「ハハッ、イネの方様どのような事でもおっしゃる通りに致します」

 その内容とは。確かあの時は人身御供として宇治川に人柱と身を捧げたが、そのとき天が割れ一筋の光がイネの身を包んだと言う。偶然そこに居合わせたのが朝倉元景の一行だった。その時の朝倉元景は天から舞い降りた神様のようだったと。その神様が人身御供とは何事かとイネを救ったという筋書きであった。まったく逆の発想である。娘を騙す自分の女にする目的が人助ける神様になったのだ。これには朝倉元景も喜んだ。スケベで女好きが一転、神様扱いとは悪い気がしない。


 数日後、宝次郎と占い師が村の衆に重大な話があると集めた。其処には占い師も同席していた。村の人々は嫌な予感がした。また娘を人身御供にする話ではないかと。勿論、茂助達家族も同じ気分だった。イネを失いまた新たな村の娘が犠牲になる、怒りが込みあげる。

「またまた人身御供の話か、イネが犠牲になりあれから氾濫は起きて居ないのに、それともそろそろ人身御供を差し出さないと、氾濫が起きるというのか」

「皆の衆まぁそんな怖い顔をするな。今日は良い話ばかりだ。特に茂助さん喜んで欲しい事がある」

「イネはもう居ない。それなのに何が喜べるんだ」

「驚くな。イネは……いやイネの方様は生きて居る」

「なっ!? なんだってイネが生きて居る。しかもイネの方様って誰の事だ」

 話が分からないので占い師が説明した。イネの方様は神のような朝倉元景様に命を拾われ、今ではその奥方に収まり二人の子供まで居ると説明した。誰もが口をアングリと開けて驚いた。川の氾濫を納めたのも朝倉元景と分かり、イネを助け村も救った神様と崇められる事になった。


「それで今からイネの方様一行が間もなく此処に来る。皆の衆に挨拶と、お礼をしたいそうだ。良いか決して失礼のないように相手は朝倉元景様の正妻でイネの方様ですから」

 茂助と家族は驚きを通り過ぎていた。人身御供が神様の奥方として帰ってくる。

 夢のような話だ。まさに選ばれし者の村の天使だ。やがて何百人もの行列がやって来た。豪華な籠に乗って下に~下に~とやって来た。やがて籠が停まり腰元達が籠を開けた。豪華な衣装を纏いまさに天使が舞い降りたようだ。イネの容姿の変わりようは、まるで天女のようだった。小汚いボロボロの着物を着ていたイネが……驚きと共に村の衆は平伏した。

「驚かせて申し訳ございません。私はあのイネです。村の為と思ったこの命、役に立ったでしょうか」

 言葉使いもまるで違う。本当にあのイネなのか誰も信じられない表情をしている。

「とっとんでもねぇ。オラ達がイネの方様を見捨ててしまった。許して下され」

「いいえ、私は選ばれし者です。その願いを神様が救って下さいました。村の為に役に立てた良かったと思っています」

 そう言って茂助や兄達の前に立った。深くお辞儀をする。戸惑う家族達の手を取ってイネの方様は心配かけましたと涙した。

「イネの方様、とんでもねぇ。恨んでないか」

「父上、娘に様を付けるのは、お止めて下さい。私は貴方の娘であり家族でありませんか」

「そうかイネ、偉くなっても父と呼んでくれるか嬉しい。生きていてくれるだけで嬉しいのに。立派になって」

「村の皆様方にお殿様、つまり私の夫、朝倉元景より言伝があります。これから先、決して人身御供にとなる犠牲者は出させないし、困った事があったら相談に乗ると言っておられます」

 村人から拍手が沸き起こった。それから村の衆に向かって言った。育った村の為にしたいことがあると。

「私は、この村に神社を建てたいと思います。お殿様からその資金を出して頂き災害のない村を祈願して、それとこの神社を管理する神職を選びその役職は「職階」「階位」「身分」などありますが、これを村の衆から選びます。もちろん素人が出来る訳ではありませんが、最初に神主様が指導と皆様は見習いから始め、後に役職を決めると言うものです」

 すると真っ先に当然、村に貢献した茂助を推薦した。オラは出来ないと謙遜した一生懸命励めば出来ると後押しされた。それから数人が選ばれ神社の仕事が出来ることになった。

 村人は大喜びした。神社が出来れば多くの人が足を運び村は栄えるだろう。そして最後にイネは生まれ育った家を見たいと、暫く家族団らんのひと時を過ごした。別れ際に五年間も心配を掛けたと、そしてお殿様からお礼しとして三百両も大金を置いて行った。これで家を建てて幸せに暮らして欲しいと、今度来る時、二人の子供も連れて来る約束して帰って行った。後に宇治神社として今では国宝となって居るが、村人は稲神社として崇めた。


 了

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