あなたを憎みます

 彼女……レイカを見た時から私の胸はずっと鳴りっぱなしだった。

 クラスのリーダーで、背も高くて、人望もある。

 そんな憧れの存在。


 遠くで見つめても、近くでも見ても美しい容姿は、ため息が出るほどだった。


 そんな彼女に近づけたのは、自分の人生の運を使い果たしたのではないかという席順のくじで、隣同士になれたからだった。

 女子校だから誰の隣になるのも一緒だと思っていた入学前の私を少し強く殴ってあげたいと思うぐらいに私の胸はドキドキしっぱなしだった。


「おはよう……」


 蚊の鳴くような声の挨拶に、彼女は笑顔で返してくれる。


「おはよう、いい天気だね。そういえば校内の桜が散っちゃったね。あんなにキレイなのに、すぐに無くなるなんて、儚いね」


 物憂げな眼差しで外を見つめ、どこかに思いを馳せる彼女を抱きしめたいと思った。


「そうだね」


 その4文字を口にするだけで心臓が飛び出そうなぐらいに緊張する私には、そんなの無理だけど。


「緊張しなくていいよ、同じ学年、同じクラスなんだからさ」


 その気遣いがうれしくて、ひれ伏しそうになる。

 神様、アナタは残酷です。

 私は百合が好きです、でも、こんなに近い位置……というか自分が百合になるとこんなに苦しむなんて、設計ミスもいいところです。

 あなたを憎みます。

 でも、少しだけこの苦しみを嬉しく思ってる私に、ご加護をください。

 少しだけでいいです。

 この心臓が破裂する前に。


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