夜と闇の違い

「ねえ『夜』と『闇』の違いはなんだかわかる?」


彼女はそう問う。

答えなどありはしないと、私は知っている。

ただの戯れであり、明日の生活には何の意味もなさないただの雑談。

けれども、それが愛しくて仕方ない時間であることを、彼女も私も知っている。


「答えは用意してないんでしょ?」


「……いつだって、私は答えを用意してないよ。だって、ただ……会話を楽しみたいから」


クスリと笑う彼女が、いつもの癖で右手の人差し指を自分の唇に軽く当てた。


ああ、彼女は今を心底楽しんでいるんだ。

その癖を見て、確信をして、私は会話に滑り込んでいく。



「そうだな……夜は救いがあって、闇は救いがない感じ」

「なるほどね……」

「美月はどう思うの?」

「恵奈と一緒だよ、夜は救いがある……だって、朝が来るからね」

「じゃあ、一緒の答えを持ってるのね、私たち」

「でも、一個だけ補足したいな」

「補足……?」

「闇は確かに暗くて救いがないんだけど……誰かが光を放ってくれたら……とても眩しくて、それを求めてしまうと思うんだ。だから、深い光を手に入れるのは、闇かもしれない」

「深い光……か」


美月が私の手をとる。


「ああ、あったかいな……恵奈の手」


愛おしそうに私の手を撫でて、うっとりする彼女。

私の手から、彼女の体温が伝わる。

この手を握れば、彼女だってわかるんだろう。

闇の中であったとしても。


光も闇もない世界でも、彼女さえいれば……私は私でいられる。


そして、そんな絶望的に映る世界でも私たちは幸せでいられると思う。

互いの手を放さなければ、いつまでも。



私は手を伸ばして、床に転がっているこの部屋の電気のリモコンを取ると、照明を落とした。

それが合図だった。


これから、私たちが溶け合う……合図。



相手の体温で溶かされるのを想像しながら、私は次に美月に聞く質問を決めていた。





「ねえ美月、私の体温で溶けるのと、自分の体温で相手を溶かすのなら……どっちがいい?」


次の質問を頭の中で繰り返しながら、私は闇の中でクスリと笑った。


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