幸せを語るには呪いと残酷を踏みしめる必要があった
「あなた、彼女のことを話す時、とてもいい顔をするのね」
自分の顔がどんなふうになっているなんて、考えたこともなくて、その言葉に戸惑った。
「そう……ですかね」
「うん、このバーに来る多くの人は愚痴を言いに来るけれど、アナタみたいに幸せを語る人は珍しいのよ」
「幸せ……ですか」
「あら、幸せじゃないの?」
少し考えていると、胸に広がる温かい気持ちが私を頷かせた。
「幸せですね……」
「お相手は今日は来ないの?」
「こっちが行かないとダメなんですよ」
空を指さして、微笑む。
「そっか」
彼女も微笑み、少しして私の呑んでいるカクテルを注いだグラスを私の隣に置いた。
「でも、ここにいるみたいよ」
横を向くと、そこでは確かに由佳が微笑んでいるように思えた。
「幸せ……ですね」
過去が凍り付いて、そのままでいる。
「真由」
名前を呼ばれた気がした。
色々な場所で逢瀬を重ねて、何度も聞いた愛おしい声。
歳をとらない彼女が、横で微笑んでいるのはこれからもずっと変わらないのだろう。
それが残酷だと呪ったこともあった。
でも、無くしたのではなくて、永遠になったと思えるようになった。
「幸せ……だよ」
横にいる彼女にそう言って、グラスを合わせた。
重なり合ったガラスの音が、天に消えていき、光がぼやけた。
口にしたカクテルは、今まで呑んだどんな飲み物よりも甘い気がした。
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