薄墨の雲と梅

 私は桜よりも梅の方が好きだ。

 派手さがなく、ひっそりと咲いて朽ちていく花。


「やっぱり桜よりも梅だよね」


 隣を歩く恭子の言葉に、軽く相槌をうつ。

 同じことを考えていたようだ。

 彼女が私の手をとり、梅の花を見つめる。

 私達の目の前から数百メートル先の丘の上まで続く梅の並木道を、ゆっくりと歩いていく。

 彼女が私の手をとったせいか、梅の花弁の色がいつもよりも濃く見える。

 空に浮かぶ薄い炭の色を含んだ雲が太陽を遮っているせいで、そう見えたのかもしれない。

 晴れの日には太陽の明るさに飲み込まれてしまい、地味になってしまうひっそりとした花の色が、今日みたいな曇りの日には栄えて見える。


 恭子の手の温もりを感じながら、彼女へのひっそりとした思いが色濃くなっていくのを感じる。

 曇り空のような私の人生に咲くこの秘めたる恋が朽ち果てぬようにと願いながら、私は彼女の手を強く握った。


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